読書

小学生の頃、
大好きでたまらないシリーズ本があった。

当時のわたしは、いわゆる本の虫で、
とにかく時間さえあれば本を読んでいた。
家で過ごす時間はもちろんのこと、
学校の休み時間や下校途中でさえ
本を手放さず、「前を見て歩きなさい」
とよく叱られたものだった。

読書好きを2種類に分けると、
新しいものを次々と読んでいくタイプと、
気に入ったシリーズを読み返すタイプに
なるとすれば、私は後者のタイプである。

そのシリーズ本は、
「ザ・児童書」といった感じの作品で、
キャラクターの名前に捻りはないし、
ストーリーも単純なのだけれど、
その登場人物たちがたまらなく輝いて見えて、
ページをめくる手が止まらず、
胸がキラキラで満たされた。

転校先では名前を偽っているような気になり
なんとなくよそよそしさが
拭えないでいたこともあったのか、
その登場人物たちは、
当時のわたしの一番の友達だった。
本を開いていても閉じていても、
彼らはわたしの隣を歩いていて、
教室で授業を受けるわたしやグラウンドで
体育の授業を受けるわたしと言葉を交わし、
ずっと見守っていてくれていたのである。

きっと、わたしは
二つの世界で生きていたのだろうと思う。

その児童書のことは、
今でもふとした瞬間に思い出す。
お気に入りのセリフと胸のキラキラが、
まるでジンジャーエールの泡のように
煌めきながら意識にのぼっては、
心地よい音をたてて弾ける。

本ばかり読んでいたわたしに、先生は
「本は一生の友達、宝物。
でも、今のクラスメイトも一生の宝物なのよ」
と諭した。

当時はクラスメイトとの宝物を作ることばかり
要求されているように感じていた。

でも、実際はそうじゃない。

本当は、そのどちらもを手にしていたのさ。

クラスメイトは大切なわたしの宝物。
本の中の彼らも大切なわたしの宝物。
小さな頃の時間が
ぎゅっと凝縮された結晶なのだ。

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