お金で自由を買っている

8月13日(火)

午前中は、異臭がするエアコンの掃除をして、それから日記というかあゆの自伝の読書感想文を書く。最初は、携帯小説かよ!って随所につっこみを入れながら軽快に書き進めるつもりだったのに、書いているうちに筆が(正確にはポメラのキーが)どんどん重くなっていって、ぜんぜん関心ないテーマで無理矢理レジュメを作ってしまったときの大学院の発表を思い出した。私が自分の書き物をdisられてもあまりへこまないのは、多分大学院時代に人格否定くらいの勢いで叩かれることに慣れたからだなと思う。

感想文が書いても書いても収束せず、時間になったので川崎に向かう。うちに届いた、来週行くベトナム旅行の行程表や荷物タグを同行者である母に手渡すのが目的だ。いつものアゼリアの丸福珈琲店でランチ。ビーフシチューが美味しかった。
職場のおっさんが人の容姿をとやかく言ってきてうざいから、どうせ言われるなら我慢しないで髪染める、インナーカラー入れる、と言ったら、「あら!すてきじゃない!クビにならない程度にうまくやりなさいよ!」と返されて拍子抜け。聞けば母も最近流行りのグレイヘアにあこがれて、白髪染めをすっぱりやめようか考えているとのこと。ただ、白髪が伸びきるまでプリン状態に耐えられないので、いったんスキンヘッドにして伸びるまでウィッグをかぶるか、根本だけ残して刈り上げるかで悩んでるそうだ。母は来年還暦を迎えるので真っ赤なウィッグをあげるのもありかもしれない。

その後、話の流れで、今私が一人暮らしをしている部屋の家賃を聞かれた。うちの最寄駅は新宿にも池袋にも渋谷にも東京駅にも地下鉄で15分以内で出られる。そんな駅から徒歩5分、そこそこ広いバストイレ別の我が家は、当然それなりに家賃がかかる。実家のぼろい長屋を出てすぐ結婚したために一人暮らしの経験がない母からしたら、それは「もったいない出費」と感じてもおかしくない金額だった。というより私自身がまさに、今の部屋に住み続けることを「身の丈に合わない贅沢だ」と感じ、罪悪感を抱いていたのだった。しかしそれを聞いた母は、「都心に住んでいるからこそ、仕事帰りや休日にあちこち出かけられるんでしょう。職場の近くの住宅街なんかに住んだら、通勤は便利かも知れないけどあんた仕事ばっかりになるよ」と言った。確かにその通りだった。元々出不精で一つのことしか見えなくなりがちな私が職場の近くに住んだら、あっという間に生活が職場と自宅の往復だけになって、仕事もうっかり頑張りすぎて、他のことに関心が向かなくなるのは目に見えていた。そして、家賃の金額を聞いた母が、「自分で稼いだお金で自由を買っていると思えば高くないでしょう。そんなとこで貧乏根性出さないで、堂々としていなさい」と言いきったので、私は驚いた。二十代の頃、私はとにかく地味に堅実に生きるのがよいことだと思っていたし、母も私にそれを望んでいるのだとばかり思っていたのだけれど、実際はぜんぜんそうではなかったようだ。私が元気で楽しく生きていればそれが一番の親孝行なのだなあと実感する。
お金の使い方はその人の生き方に直結している。今の自分の生き方を選んだのは紛れもない自分だし後悔もないけれど、私はその選択にどこか自信が持てなくて誰かに肯定してほしかったのかもしれないなと思った。予想外に母がそうしてくれたことで、最近の自分の中での、お金に対するわけのわからない執着が一段落しそうな、そんな気がした。

母と別れ、サンマルクカフェで時間をつぶし、ホットヨガのレッスンを受けてから帰宅。

変な匂いのしなくなったエアコンは無敵だった。除湿モードにして適温に保たれた部屋で午前中の感想文書きの続きをする。
アップした文章を見たあげは嬢に、文章が硬いと言われた。たしかに、「夢もなくて。ふらふらとして。やりたい、と力んで言えることもなくて」なんてライトな文体で書かれた小説の感想文がこんな硬い文章になったのは不自然というより摩訶不思議だ。書こうとしていたことと、実際の文体や内容が乖離するのはいつものことだが、その乖離がいい方に転ぶときと悪い方に転ぶときがある。

気を取り直して、しゃんぶるぶらんしゅの新刊に載せる掌編に着手したら、それは自然な一人称語りですんなり書けた。メイコが書いた小説と連作になっているので、彼女に見せるのが楽しみだ。
夏が終われば秋の文学フリマの〆切はすぐそこだ。この日記だけでなく、そちらの原稿も本腰を入れて進めなければ。
さて、次回文フリ東京は2019年11月24日(日)です。頑張って新刊作るから、ぜひ予定を空けておいて私に会いにきてね。こいつは日記いつでも読めるからいいやなんて、そんなつれないこと言わないでね。今日は、そんな唐突な宣伝でおしまいにしたいと思います。

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