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アピアランスは他者のため① : 「Cool Biz」は「ビジネス・カジュアル」に非ず、「ビジネス・コンフォタブル」とすべし

*本記事は、JMCAウェブサイト上、日野江都子の連載コラムからの転載・加筆修正版です。

もうすぐ6月も終わり、梅雨が明けると、日本も夏真っ盛り。

 この季節、必ず一度は日本出張がある筆者、その際の憂鬱の一つは、あの「Cool Biz」スタイルを目にしなくてはならないことだ。正直に告白しよう、筆者は「Cool Biz」の装いが本当に好きではない。否、少し前までそのように思っていたが、「Cool Biz」14年目に突入した今年になって初めて気付いた、筆者が苦手なのは「Cool Biz」という言葉自体と、日本国内で「Cool Biz」の装いが「ビジネス・カジュアル」と混同されていることだということを。

 「Cool Biz」が施行されたのは2005年。「オフィスの室温を高く設定し、その代わりに自ら涼しくするには?」という、いかに体感的快適を叶えるか?を主旨として始まった。何せ、初年度は沖縄の「かりゆし」が推奨されたくらいだ。もはや亜熱帯地域の気候と言っても過言ではない蒸し暑い日本の夏、自ら体感温度調節する「仕事をする際の格好」、日本独自の考えの元にできたのが「Cool Biz」のスタイル。しかしそれは、その昔、エグゼクティブ御用達の某高級洋品店CEOから聞いた、アメリカで「ビジネス・カジュアル」や「カジュアル・フライデー」が取り入れられた主な理由とされる「ビジネスにおけるコミュニケーションの更なる円滑の為」という、主旨や目的とは全く違う。

 カジュアルダウンと言っても、その根本の目的や主旨が違えば、結果は似て非なるものになる。当然、日本の「Cool Biz」を「ビジネス・カジュアル」というカテゴリに当てはめようとすると無理が出る。根本的な方向性として同じなのは、省エネルックの半袖スーツとネクタイ代わりのループタイだ。これらが「ビジネス・カジュアル」と全く違うのは明白。しかし、正式なビジネス・アタイアを基準とすると、大別してカジュアルダウンされたものとなってしまうわけだ。

 しかし、現在の「Cool Biz」のスタイルを、多くの日本の方は「ビジネス・カジュアル」に同じと思って疑わないだろう。この勘違いが最も危険。これからますます国際化し、1年後は東京オリンピック開催と迫っている。日本以外の国の方々と接する機会が増えれば、見た目や装い方から、その人の社会的経験や教養が一発で露見する機会がどんどん増える。当然ビジネスのコミュニケーションに大きな影響が出てくるのだ。

ではまず、「Cool Biz」はこういうもの「ビジネス・カジュアル」はこういうものと、段階的に理解する必要があるだろう。

 では、「Cool Biz」は「ビジネス・カジュアル」ではないとした場合、うまい具合に落とし込める言葉とカテゴリは何だろうと考えていたところ、ふとたどり着いたのは「ビジネス・コンフォタブル」という言葉であり意味。まさに「Cool Biz」の本来の目的と合致し「体を“快適に"過ごす」ための装い。それを実現するために、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、ネクタイなしでも襟元がヘタらないシャツを着る、というのであれば、非常に納得がいく。

 従って、現在の日本に存在しているビジネス・アピアランスとしては

1. Business Attire ビジネス・アタイア
2. Business Casual ビジネス・カジュアル
3. Business Comfortable ビジネス・コンフォタブル

1から順番にビジネス・スタイルとしてのルールが緩和され、自由度が高くなり、他人のためではなく自らの体感的・心理的心地良さや好みへの重きが大きくなる。

 今や年の半分もある「Cool Biz」の期間、それが世界的にはどのような位置づけかを理解した上で、ご自身が考えて装う事は、経営者であれば重要な任務であり仕事の一部。

 実は、先日も日本からいらしていた某企業の社長が、「Cool Biz」により日本では市民権を得てしまったけれど、世界的基準の「ビジネス・カジュアル」としては不思議な種類のシャツをお召しになっていた。その方のレクチャーを聞く機会に恵まれ、とても良いお話を伺ったはずなのだが、襟元のその苦しそうなバランスばかりが気になってしまい、話を半部以上覚えていない。私の中の彼の記憶は「苦しそうな人」。ご本人としたら、望まない記憶のされ方だろう。

 ビジネスにおいて、服を始めとした身につけるアイテムは、有効に使ってこそ価値あるツール。またその物体が、その人よりも前に出るべきではない。その人を引き立て、後押しするパワーとなるものであることが知的な道具の用い方。ましてや、自分のやることを邪魔するものであってはならないのだ。どんなにその服や物が好きでも、ご自分の仕事・任務の妨げになるものは使わない選択をする(できる)のがビジネスパーソンであり、会社を背負う経営者としての責任。そして、その姿を見て第三者はあなたを判断するのだ。

 「アピアランスは他者のため」というのはそういう意味なのです。そして、「Cool Biz」は日本特有のコンセプト。そしてこれは「ビジネス・カジュアル」に非ず、「ビジネス・コンフォタブル」とすべし。 

 ビジネスを一瞬で制する、社長のプレゼンス/アピアランスとは、おしゃれである等の趣味やファッション的なことでも、似合う・似合わないという感覚次元の話ではなく、グローバルビジネスにおいてのご自身が持つべき基準はどこか、そして立場・場面・目的という文脈にふさわしいのは何か?にフォーカスできてこそ成り立つ。これは正しい知識あってこそ判断できる。フランシス・ベーコンもおっしゃっている、「Knowledge is power(知識は力なり)」と。

 まずは「Cool Biz」は国内だけのものであり、その装いは「ビジネス・カジュアル」として世界に通用するものではないことを、多くの方のリーダーとなる経営者である方々には、是非とも知っていただきたいと切に願う。日本国内で日本語を話すのはよし、けれど国際社会ではそこの共通言語を話すのと同様に、非言語であるプレゼンスやアピアランスも国際非言語を話す意識を持つことが、本当の意味でのグローバル・マインドなのではないだろうか。プレゼンス/アピアランスは第二の内面、嘘をつけないものですから。どうぞ心して。

 次回は、文中でも少し触れた、「Cool Biz」により日本で市民権を得てしまった、いいと思っている人があまりに多すぎて、言及することが憚られる、かっこ悪いビジネスパーソンにしている一つの悪因を作った「シャツ」について。それを着た際の「本来あるべき姿」と、立場や仕事を踏まえ、ビジネスシーンで着こなすためのポイントについて解説しよう。

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