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もうひとつのアメリカ大統領選 -メディアが見たイメージ戦略 vol 1- :『PRIR』寄稿記事

※本記事は『PRIR』 1月号(2005年)に掲載された日野江都子の寄稿記事からの転載です。

本記事は、筆者が初めてメディアに寄稿した記念すべきもの。

今はなくなってしまったけれど、宣伝会議が広報に特化した雑誌として出した『PRIR』(PRとIRを合わせた名前)のプレ創刊号向けに、ちょうどアメリカ出張と重なったブッシュとケリーの大統領選投票日を目の当たりにしながら、テレビ討論会でのあれこれに触れながら書いた記事。

その後、『PRIR』の正式な創刊から1年、トップのメディア対応イメージ戦略に関して連載をもち、その後も様々な特集で寄稿させていただいた。

振り返れば、米大統領選を始め世界の政治家やグローバルビジネスのトップリーダーを追いかけ、そのイメージ戦略やエグゼクティブ・プレゼンスを分析・解説、その執筆をし始めて約15年(会社設立15年なので、その頃から)。手前味噌で気恥ずかしいが、今、第三者的に読み返しても結構大事なことが書いてあると我ながら思う。時代が変わっても重要なことの本質は変わっていないということだろう。

ということで、あの頃に書いていた自分の記事を再度日の目に当たるところに出してみようかと思い、少しずつnoteに転載していきます。

メディアが見たイメージ戦略 vol. 1
「もう一つのアメリカ大統領選」

 アメリカ大統領選。ちょうど私は投票日の数日前からニューヨークにいた。自分のパワーを見せるため、そして差別化を図るために、両者がそれぞれどんなイメージ戦略に出るのか、何か面白いことは起きないかとテレビにくぎ付けだった。なるほどと感心するシーンあり、思わず笑ってしまうシーンあり。

 まず、最近は日本でも何かと注目されるネクタイについて。立候補者ケリー氏は、最初からパワーの赤で登場する回数が多かった。一方、再選を狙うブッシュ氏は紺系で信頼感や冷静さを表そうとしているように見えた。しかし、最後にアピールしたかったのは「パワー」だったのか、3回目の最終テレビ討論会には、そろって赤いタイを締めて登場した。 

 見ている人に気付いてもらうための戦略がネクタイだとすると、あまり目立たない方がいいのがスーツだ。ネクタイほど話題にならないのは当然で、本来このような場でスーツが目立ち過ぎるのはおかしい。その人自身を映えさせるためのバックグラウンドとなるべきだ。したがって、着る人に似合うベーシックカラー、良い素材、良い仕立てで、本人の体にぴったり合ったものが最高なのである。

 しかし、そのような理想的なスーツが、逆に皮肉な事件を起こした。そう、ブッシュ氏の「リモコン疑惑」である。テレビ討論会に登場した彼のスーツの背中に、1本の線が見えた。これが裏からの指示を受けるコードではないかと、視聴者に疑われたのだ。 

 もしオーダーメイドのスーツでなければ、こんな疑惑は持たれなかった。あまり質の良い素材でなかったり、体に合っていないスーツには、たくさんのしわが入るもの。万が一リモコンを着けていたとしても、このしわにカムフラージュされて、コードの1本や2本、気付かれるはずがなかったのだ。しわのないスーツの背中を横切る1本の線。その上、偶然なのか何なのか、ここでどもってしまったブッシュ氏。疑惑の真相は分からないが、最高のスーツがイメージ戦略上あだとなったのは確かだ。

 上質なものは、ただ身に着ければいいというわけではない。パワースーツもパワータイも、それ自体にパワーがあるからこそ、身に着ける者の味方にもなれば敵にもなる。強い薬も、摂取の仕方を間違えると毒になる。これと同じだ。なんて皮肉なんだろう。

 ご存じのように、大統領選はブッシュ氏が制した。トップエグゼクティブが来店することで有名な服飾店の知人に、この「リモコン疑惑」について聞いてみたところ、アメリカでは全然話題にならなかったそうだ。「日本人っぽい発想ねえ」と一笑されてしまった。大抵のアメリカ人は重箱の隅をつつくように、「背中にコードが?」などという見方はしない。メディア関連の専門家は違うけれど、普通のアメリカ人は、イメージのバランスを見ている。 

 ここで分かった。欧米人は遠視、日本人は近視なのだ。これは良い悪いという問題ではなく、生きてきたバックグラウンドの違いである。で、あれば、一般のビジネスパーソンたちはむしろその違いを利用してはどうだろう。「細部に気を配る」のか「全体のバランスを考える」のか。仕事で人に会う前に、相手が日本人なら前者、欧米人なら後者をポイントに鏡の前でチェックするといい。少なくとも、服装のイメージ戦略は奏功するはずだ。

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