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特別編 知らないと恥ずかしい ビジネスマンの新常識! 「男の身だしなみ」入門:『THE21』寄稿

※本記事は『THE21』 12月号(2015年)に掲載された日野江都子の寄稿記事からの転載です。

第一印象は瞬速「0.1秒」で決まってしまう!

Q. 連載では六回にわたって「身だしなみ」についてお話をうかがいましたが、やはり第一印象は「見た目」に左右されるものなのでしょうか。

A. 「メラビアンの法則というものをご存知の方も多いと思います。相手に伝わる印象のうち、視覚からの情報が55%、聴覚からが38%、話の内容は7%というものです。つまり、第一印象の九割が『感覚的な印象』で決められているわけです」

Q. とにかく我々は相手と「何を話すか」に心を奪われがちですが、実際には7%に過ぎないわけですね。

A. 「人はまず『目で聴く』生き物です。誰かと会った瞬間に、なんとなく『えっ』という印象を持ったことがありませんか。一見、おかしなところはないのに、なぜか違和感を抱く、というような......」

Q. 確かにあります。ただ、思い込みだと思って、気にしないようにしてきました。

A. 「実はこれは単なる思い込みではなく、今までの膨大な情報が経験として積み重なった結果、自分でも気づかないうちに瞬時に相手を判断しているということなのです。それなりの年齢になられた方々であればあるほど『なんだか虫が好かない』というように、一瞬で相手を判断する人が多くなりますが、これはつまり、年齢を経てそれだけの経験が蓄積されてきたから。第一印象は最初の六秒で作られると言いますが、すべてがスピード化された現代社会ではさらに、常に即断即決を求められるシビアなビジネスシーンでは、実際には『○・一秒』で決まると言っても過言ではないと、私は思っています」

Q. それは恐ろしいですね......。一度「虫が好かない」と判断されてしまったら、巻き返すのは難しいのですか?

A. 「人は最初に示された情報に強く影響を受け、それが後々まで影響します。それを初頭効果と言います。その最初に示される情報というのが、第一印象なのですが、その第一印象は最初の六秒内で決定し、その後30秒 の間に、その印象が正しいか、 自分の中で数項目の自問自答が行なわれ、その人に対してどう接するかを決めているのです。ただ、実際には最初の0.1秒の印象こそが余計な感情を挟まないとても正しいものと言えますね」

Q. なんの先入観もない「直感」は、意外と当たっているというわけですね。

A. 「怖いのは、一度違和感・不信感を持たれてしまうと、初頭効果によってその後の印象すべてにバイアスがかかってしまうということ。たとえばその人がちょっとした失敗をしたとします。最初の印象が良いと『今日は調子が悪いのかな』『緊張しているのかな』などと思ってもらえ ます。逆に、印象が悪いと『やっぱりね』と、悪印象を強化するほうに働いてしまうのです。とにかく、第一印象は二度作れないというのは真理です」

身だしなみを整えるのは実は一番合理的

Q. だからこそ、「身だしなみ」に気を配るべきだとは思うのですが、今まであまりファッションに気を配ってこなかった人間からすると、少々ハードルが高く思えます。

A. 「こうは考えられませんか。姿勢や話し方といった『習慣』は、変えるのに時間がかかります。 ただ、服装や身だしなみといった『パーツ』や『ツール』は、そこに投資をすることで簡単に変 えられます。新しい服を買ったりネクタイを選んだりするのは一見、大変なことですが、実は一 番合理的で最も効果的に第一印象を変えることができるのです」

Q. おしゃれには自信がないのですが、まず第一歩は何から始めたら良いでしょうか。

A. 「まず、『かっこ良くしよう』ではなく、『悪くないものにしよう』『相手に失礼がないようにしよう』というところから始めることです。シャツにしわが寄っていないか、肩にフケがついていないかなど、『おしゃれに』ではなく、『ちゃんとする』『清潔にする』というのが、何よりも重要であり、すべての基本です。そのうえで、『自分のポジション、立場、役割に合っているか』も重要。実際の自分の能力以上にできるように大きく見せようとすると、衣ばかり大きくて中身が小さいエビのてんぷらみたいになってしまいます」

Q. それは、服のサイズの問題でしょうか。

A. 「確かに日本人は自分のサイズより大きい合っていない服を着がちですが、そういうことでは ありません。本来の自分と、自分が他者に与えているイメージが合っているかどうかが重要なのです。
私がコンサルティングをする際にはまず、『質問表』に記入していただくことで、本来の自分の姿と他者から見えている自分の姿との間のギャップを見出すことからスタートします。本当は穏やかなのに、なぜか冷たい人と思われがちだとか、どんどん発言したいのに、外見が弱々しく見えるので発言力が下がってしまっている、など......。 そこで、そのギャップをどう埋めるかを考えていくのです」

Q. つまり、自分のあこがれのイメージを持ち、それに近づけるということですか。

A. 「難しいのは、あまり『こうなりたい』というあこがれのイメージを前面に出すのは危険だということです。自分の本質以上に自分の印象を能力の高いものに作り込めば、当然他者からの期待値を高めることになります。すると、印象と実際の能力のギャップはすぐに判明し、信用をなくし、痛い目を見るのは自分だからです。一種の誇大広告のようなもので、第一印象はいかにも『できそう』というイメージだったのに、仕事を始めてみるとそうでもなかった、となると、その人への評価はむしろ下がってしまいます」

まずは自分の持ち物の 「棚卸し」をしよう

Q. 身だしなみを整えるというと、どうしても「高いものを買うべき」という印象が強いのですが。

A. 「慣れていない人が高級品を身につけると、どうしても『服に着られている』印象になりがちです。若手の起業家には、いかにも『とりあえず高いもの持ってきて』という感じで高級ブランドを着てはいるものの、まっ たく合っていない、という人がしばしば見受けられますね。
まずはお店で買い物をする前 に、自分の持ち物を『棚卸し』 することがスタートです。今、 自分が持っているシャツ、ネクタイ、靴など、ビジネスマンとしてのイメージに直結するツールを見直してみると、ネクタイ の剣先がほつれているとか、しわが取れなくなってしまっているとか、いろいろなことに気づくはずです。
自分の持ち物を現役で使えるものとそうでないものに分け、もう使えないものに関しては 『お疲れさま』ということで処分してしまうのです」

Q. そして、足りなくなったぶん を新たに買うわけですね。

A. 「その際には以前買ったものの少なくとも『ワンランク上』のものを買うようにしてください。前回、大量生産品の4千円のシャツを買ったのだとしたら、次は百貨店や専門店で8千円くらいのシャツを買う。イメージとしてはちょうど『背伸び』する程度のランク。3年後くらいにありたい自分のポジションを現実的に考えて、そのときの自分の姿を作っていくのです。いきなり数万円もするような超高級品を買うのではなく、地に足がギリギリついているくらいが、自分のイメージの筋力も徐々に鍛えることができ、ちょうどいい負荷なのです。
先ほど、『自分の身の丈に合った服を着る」と言いましたが、いいものを着ると、やはりそれはその人の評価を高めます。『ハロー(後光)効果』と呼ばれるもので、見た目が良いと、そのぶんできる人、優秀な人だと思 ってもらえるのです。
それにやはり、いいものは着ていて快適ですし、これを着ていれば大丈夫という安心感があれば任務に集中でき、自信につながります。すると仕事がやりやすくなり、成果も出る。そうなればポジションが上がり収入も上がる。さらに次に目標とする自分の姿を見据えたふさわしい物を身につけられるようになる。そんないいスパイラルを、ぜひ起こしてほしいと思います」

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COLUM

外見を大切にしない人は、 自分も他人も大切にしない人?
私も多くのビジネスパーソンを見てきましたが、先日お会いした若手起業家の方には驚かされました。挨拶もなしにいきなり現われたかと思うと、無言で目の前の椅子にどっかと腰を下ろす。髪は色が抜けてしまったような茶髪。服も高級品ではあってもまったく合っておらず、しかもすぐに「値段」の話になってしまいます。一番驚いたのは靴で、「履きつぶしたら買い替える」とのこと。それを聞いた私は、「人に対してもこうなのだろうな」と思わざるを得ませんでした。見た目や身だしなみは、相手への配慮。「人のため」に行なうことであり、巡り巡って自分に返ってきます。見た目を大事にしない、自分に手をかけていない人は、ひいては人も大事にしない人だと思われてしまうのです。せっかく能力があっても、人に信頼されなければ 成功はありません。華美である必要は一切ありません。こぎれいに、丁寧に相手に誠実に生きていることを示す姿勢が重要なのです。

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