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アピアランスは他者のため②: クールビズのあのシャツは・・・

*本記事は、JMCAウェブサイト上、日野江都子の連載コラムからの転載・加筆修正版です。

海外メディアからも、2020年のこの時期に東京でオリンピックが開催されることが心配され、その暑さ対策から、先日は東京都が試作した日よけ用「かぶる傘」が公表されるほど、災害レベルの気温になる日本の夏。

年の半分がクールビズ期間というのも昨年の夏の日本出張で深くうなずけます。しかし、この期間のクールビズ・スタイルが、世界的にどのような位置づけかをどれだけの方が理解できているだろうか? ビジネスパーソン、そして経営者として自らの頭で考え判断して装う事が出来ているか、まずここでご自分に問いかけてみて欲しい。

今回は、そんなクールビズの装いの中でも、日本を外側から見る立場の筆者が不思議でならない、しかし日本では市民権を得てしまっている特殊なシャツについて注意喚起と解説をしよう。

その特殊なシャツとはこれ。

クールビズが始まった年、「ネクタイをしなくても襟元がへたらない」「Vゾーンが寂しくならない」という理由で日本の市場に突如現れたかのような記憶のある、首元のボタンが縦に2つ(3つ)並んでいる「ドゥエ(トレ)・ボットーニ」のシャツ。

それに加え、ネクタイがなくても胸元が寂しくないように色ボタンが使用され、ボタンホールも色糸でかがられたものが沢山市場に出るようになった。その後、ネクタイをせずとも襟がへたらないという理由で、そのボタン・ダウン・バージョンが増え、さらに普通の襟では飽き足らず、襟元から襟先までの距離が長く、ボタンでとめられた襟先にかけて首元から弧を描くようにふんわり盛り上がる、襟元にインパクトのあるイタリアンカラー・タイプまで登場。それが写真のものであり、今や多くの方が何の疑問も感じずに着用しているタイプのシャツだ。

このドゥエ(トレ)・ボットーニのシャツ、実はニューヨークでは全く見かけない。そもそも私の記憶の中で、過去に遡っても目にした記憶が無いのだ。不思議に思い、ニューヨークのハイエンドファッション業界でキャリアの長いビジネス・フレンド(アメリカ人とイギリス人)に聞いたところ、このドゥエ(トレ)・ボットーニのシャツは「とても昔に一瞬あったけれど、すぐに無くなった」とのこと。その理由は不明だが、アメリカ東海岸の中でもビジネスとファッションの中心であり、様々な国・人種の人がいて、非常にオーセンティックなスタイルを好む人が多いこのニューヨークでそのシャツが消えたということは、世界のビジネスシーン・スタンダードでは無いとお分かりいただけるだろう。

商品とは人のニーズの中から生まれる。したがって、その国独自のものが数多く存在しているのは当然のことだ。そして、現在日本で多くの方が着用しているこのシャツは、日本特有の用い方をされている物(大元はイタリアですが)。しかしグローバル・ビジネルに携わり、非日本人と接する機会がある方は、どれが自国の中でのみ通用するもので、世界的にスタンダードとなっているものが何か?を理解し、使い分けることは「相手との共通語で喋る」事と同じくらいに重要。相手との言語を超えたグローバルなコミュニケーションであり、国際舞台における共通認識の物差し、ご自身のビジネスとそれに大きな影響を及ぼすあなたの印象を決定となるのだ。

それらをすべて理解し、デメリットをも覚悟の上であえて着用するのであれば良いだろう。しかし、あのシャツをきちんと着ることができている人を、私はほとんど見たことがない。

では、世の中に出回っている写真の種類のシャツ。その「本来あるべき姿」と、クールビズ・スタイルの本来の目的とあり方、それをグローバル社会をも踏まえて解説しよう。

まず、あのシャツの本来あるべき姿とバランスを作るには「首が長い人が着る」、この一言だ。前ボタンを開ければ襟元に空間ができて大丈夫と思って大抵の方は着ているのだろ、しかし、襟に首と顔が埋もれて溺れているかのように見えて苦しそう、もしくは首にギプスをつけている人のようで、見ている側が苦しくなってくる。また、一般的に体の厚みが薄く、肩幅が狭く(頭が大きく見え)、首の短い日本人男性にとって、襟元にボリュームのあるタイプのシャツは、バランスを取るのがとても難しいのだ。

ネクタイを着用せず、一番上のボタンを外した時、襟元がへたるということにばかりに意識が向いて、それよりもむさ苦しい外見になっているというのは、頭隠して尻隠さず、本末転倒そのもの。また、それをビジネスシーンで着用しているという事は、ビジネスパーソンとしての読みの浅さの証明にもつながり、自らの弱点を晒す事になる。

このように言うと、あのシャツを槍玉にあげているように映るかもしれない。そう思われても結構なのだが、正しいドレスシャツではないということだけは、ここではっきり申し上げよう。

理由は、

 1. ボタンダウンである事
 2. ボタンにカラフルな色が付いている事(貝ボタンではない証拠) 

その上、着られる人のタイプ(体型や骨格)が限られるということ。
着用する人に求められる要素は、

 3. 身長が高い事
 4. 首が長い(せめて短くない)事

 また、ビジネスシーンに必要なのは、「おしゃれ」でも、「似合う」でもなく「Appropriate(相応い)」であることだ。まさに仕事の結果を出すための文脈に沿った、任務としての外観が必要。服が目立つ必要は全くなく、否、目立ってしまったらいけないのだ。したがって、前者2つがあっても、相応さが欠けた瞬間、仕事力に影響が出るのだ。

それだけでなく、昨今の日本の夏のように猛暑を超えて酷暑が続く状況では、襟が高く、首元に布が多く重なっている前述のスタイルのシャツを着用するのは、着ているご本人も辛いだろう。見ている側にも視覚的に暑苦しさを感じさせて、着る側・見る側双方にとって、全く「クール(涼しさ)」な状況が存在しない。

今年の夏こそ本来クールビズ・スタイルの持つ最大の目的に立ち戻り、同時に国際的なビジネス・スタイルにも通じるものは何か?を、ここで今一度お伝えしよう。

襟の高さが低く(高くなく)布の重なりが最小になる、すっきりしたセミワイドか広すぎないワイドスプレットを選ぶこと。これで襟元はスッキリし、ご自身で体感温度を下げることができる上に、世界に通用するビジネス・スタイルのカジュアルダウン・バージョンとなる。

日本人が国際人になる近道は、外国語を学ぶのと同時、否、それよりも先に、グローバルな非言語を身に付ける事。その非言語の一つが役割や場面、仕事の文脈に沿った「社会性・ビジネスとしてのアピアランス(外見)」だ。しゃべる言語が違っても、非言語は瞬時に判断対象となる。

あなたのアピアランスとプレゼンスは「グローバル非言語」をしゃべっているか?が、非常に大事なのだ。

繰り返そう

「アピアランスは他者のため」
そして「ひいては自分のため」でもある事を加えておこうか。

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