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東京には空が無い

智恵子は東京に空が無いという
ほんとの空が見たいという
私は驚いて空を見る
桜若葉の間に在るのは
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ
智恵子は遠くを見ながら言う
阿多多羅山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だという
あどけない空の話である。

常識がある人ならきっとこの文章を見てピンと来るはず。
これは高村光太郎によって書かれた『智恵子抄』の一部を抜粋したものだ。

このブログを読んでくれている人は知っているかもしれないが、わたしは不眠症を患っている。
寝れずにずっとふとんでぼんやりしていると、変に考え事をしてしまい気が滅入る。
なので、夜中によくベランダに出てレジャーシートを敷いてぼんやりしている。

ベランダに座り、空を見上げるとマンションの隙間から小さな夜空が見える。おまけのように金星がキラリと輝いているが、他の星は全くもって見えない。
東京に暮らして5年目になるが、ちゃんと夜空を見上げたことがなかった。
4年も住んでいたのに、こんなにも夜空が小さくて、窮屈なことに気付かなかった。
まあ、まじまじと東京で空を見上げる見る機会って無いよね。

そこで『智恵子抄』の一文を思い出したのだ。
統合失調症を患っていた智恵子が、東京には空が無いと言った、あの気持ちが分かったのだ。
高村智恵子は、福島県の出身で美しく広い空を見て育ってきた。わたしも宮城の港町出身なので、小さな頃はオリオン座やはくちょう座を探すのが好きだった。
放射冷却の強い日は、寒くて寒くて仕方なかったが、澄み切った夜空をたまに見上げつつ高校から帰るのが大好きだった。

東京には空が無い。
いや、空は当然存在してるのだが。
これは本物の空じゃ無い。
わたしも本当の空が見たい。
広くて澄み切った空。星が瞬く空。
この街にはわたしの大好きだった空は無い。

東京ほど便利な街はない。
何もかもが手に入り、無いものなど存在しない魔法の都市だと思っていた。
でも、それは間違いだった。それも大きな。

《追記》
先日、智恵子抄をちゃんと読んでみようと本屋に行くとどこにも見当たらなかった。店員に「高村光太郎の智恵子抄はありますか?」と尋ねると「高村……こうたろう?のなんですか?えっともう一度お願いします。」と言われた。
本屋の店員なんだから、高村光太郎くらい知っていなさいよ。

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