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第5回 ケアの専門職が街中でコーヒー屋台をやる、そのワケ

<ケアクリ会議 VOl.4 ゲストトーク・ダイジェスト>
密山要用さん
医師・家庭医療専門医・モバイル屋台DE健康カフェ

密山要用さんは都内など3か所のクリニックで外来と訪問診療を行う家庭医です。臨床の傍、2016年から東京大学大学院医学系研究科博士課程に進み、医学教育学の研究に携わりながら、住民と専門職が協働するまちづくり・健康づくりを研究、活動しています。

ケアクリ会議 VOl.4では、ケアの専門職が住民と協働する前提として、互いにどのような関係性を築いていくのが望ましいか、自身の活動の様子を交えて話してくださいました。

*以下は取材参加した記者の要約です。実際の講話内容と一致してはおりません。

専門職にとっての「健康づくり」を、住民の立場ではどうとらえるか?

勤務医時代、地域の健康教室などに出向き、健康づくり啓発のお手伝いをする中で気づいたことは、参加者の多くはもとより健康意識の高い方で、医療・介護・福祉に携わる専門職(以下、ケアの専門職)が本来関わるべき関心が低い住民は、「健康」を冠した集まりにはやってこないということでした。

あるとき島根県の小さな村で、住民が地域活性をめざして始めた「酒づくり」に、ケアの専門職ほか、さまざまな人が巻き込まれ、つながりが生まれ、結果的に人も地域も健やかな変化を起こしていることを知って、その地域にふさわしい健康づくりとはこういった活動だと教わりました。その場は、「健康」とも「幸せ」とも少し違う、「ウェルビーイング(持続的幸福度)」という価値を満たしていました。

専門職にとっての「健康づくり」は、住民にとっては何なのか。また、専門職と住民はどのような関係をつくっていけばよいのか。まちづくり・健康づくりに取り組むときには、この2つの問いを持ち続けながら活動する必要を感じています。

CBPR「谷根千まちばの健康プロジェクト」の足跡

現在、東京大学の研究者と谷根千エリアの住民、ケアの専門職が協働して、地域の人々のつながりとウェルビーイングを高めるための活動を行うコミュニティ基盤型参加型研究(CBPR)「谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)」(代表・孫 大輔<東京大学医学部講師、医師>)に参加しています。

この研究は2015年11月から地域のソーシャルキャピタル(社会関係資本。いわば健康資源)を探し、研究者や専門職がどのように関われるか、見出すことから始まりました。

東大とも近い“谷根千”は住民が暮らしの中で生活圏として認識しているエリアで、3区にまたがっています。地縁・人縁のほか、テーマ型など住民主導の多様なソーシャルキャピタルといえる活動が多数あり、住民は個々に選択して関わっていて、医療的な意味づけはされていなくてもケアを担っている人や場が多いことが分かりました。

一方、既存の地元住民の活動とケアの専門職、個々の活動を担う住民同士のつながりは希薄で、その弊害も見えました。そこで、既存のソーシャルキャピタルの強みを生かしながら、ケアの専門職がバックアップする関係をつくること、また、コミュニティ間をつなぐ役割を担うことが課題となり、その後、エリア内での「顔が見える関係性づくり」を志向して、まちけん主宰でさまざまなイベントを続けています。

楽しい活動の中から新たな問いと、ケアにつながる可能性を見る

モバイル屋台DE健康カフェプロジェクトは、ソーシャルキャピタル探訪のまち歩きの中で、芸工展という祭事に参加を呼びかけられたことから始まりました。芸工展はまち全体に、まちに暮らす人々の「日常の延長としての表現」を展示し、多くの人がまちの魅力を語り合える交流の場をめざしている、まちのお祭りです。

2016年、まず「モバイル屋台」を路上で製作。そこは公園の少ない都市部ならでは、休日に子どもの遊び場として車両通行が規制される「遊戯道路」で、住民が行き交う中、自然発生する交流を楽しみながら作業しました。

その後、ケアの専門職がおいしいコーヒーを入れる講習を経てまちに繰り出し、コーヒーを振る舞ったのです。移動する“屋台”で、偶発的に人と出会い、コミュニケーションするのは高揚感があり、とても楽しい活動です。その中で、新たな問いや企画が生まれ、それらを踏まえて、2017年も、趣向を変えて芸工展に参加しました。

問いのひとつは、「住民との会話でどの程度、専門職の専門性を発揮したらよいのか?」というもので、健康相談とカジュアルな会話のバランスに悩んだのです。

このような問いにおそらく「正解」はなく、人それぞれ関わった時点での解があり、振り返り、共有することに意味があると思います。ただし、専門職としてではなく、「私」という個性を生かして関わるという経験は重要です。それは病院などケアの現場では成り立ちにくい関わりで、地域で住民と共にフラットな関係性でまちづくり・健康づくりをしていくとき、大切なことではないかと思っています。

まちの人にお世話になりながら、「ケアの専門職だというのに、ヘンな人たち」など、さまざまな反応をもらいながら、活動を続けている中で、関係のできた顔馴染みの住民が増えています。

密山要用さんは、「まちけんでは最初、谷根千エリアのソーシャルキャピタルを探し、まち歩きや地域イベントへの参加といったフィールドワークを行った」と述べていました。「役割がはっきりしていない、“つなぐ”という役割を担う人が必要」とも。地域づくりを志向するとき、どのコミュニティにおいてもまずそのようなフィールドワークと、つなぐ人が必要なのかもしれません。

私は、自分の住む町のことを思いながら話を聞きました。行政から町会に“高齢者の見守り活動”などソーシャルワークが求められていますが、戸惑うばかり。そもそも町会を“ソーシャルワークにつながるつながり”としたのは大雑把でした。民生委員、職能団体も様子見していて、地域づくりが長く足踏み状態である原因の一つと思います。

誰が「つなぐ人」となるのかが課題であるものの、フィールドワークでソーシャルキャピタルを整理し、矛先を変えたり、新たなつながりができることで、地域づくりが前進する可能性を感じました。

(まとめ・文 フリー編集者・ライター 下平貴子)

【ケアクリ会議Vol.4 レポート 連載予定】

第1回 ヘルスケアからプレイフルケアへ
第2回 この先へ、プレイフルに進もう
第3回 ぐっとくるアピールで健康格差解消へ!
第4回 赤ふん坊やの町から全国に届ける「健康のまちづくり」
第5回 ケアの専門職が街中でコーヒー屋台をやる、そのワケ
第6回 「マイノリティ×クリエイティビティ」で社会を良くする
第7回 生活者による、生活者のための地域づくりサポート
第8回 暮らしを愉快に、人生を豊かにするケアを広げたい!

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