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第7回 生活者による、生活者のための地域づくりサポート

<ケアクリ会議 VOl.4 ゲストトーク・ダイジェスト>
西上ありささん
studio-Lコミュニティデザイナー・Co-Minkanプロジェクト

西上ありささんはまちづくりや、まちに暮らす人のつながりをデザインし、コミュニティの課題解決を促す事業化をサポートするstudio-Lのコミュニティデザイナーであり、2017年7月から始動したCo-Minkanプロジェクト普及実行委員会共同代表の一人です。ケアクリ会議 VOl.4では、studio-Lが携わった事例と共に、Co-Minkanプロジェクトがサポートするつながりづくりについて話してくださいました。

*以下は取材参加した記者の要約です。実際の講話内容と一致してはおりません。

当事者主体のまちづくり・健康づくりを支えた事例

studio-Lでは主に行政から依頼を受け、デザインの力でコミュニティに内在している課題解決力を高める支援をします。昨今、多い事例は、行政の制度や政策が現代の働き方、暮らし方などと噛み合っていない場合に、コミュニティのメンバーが生活に合致する政策や事業計画をつくり出し、運営する、その初動期までを支えること。

さまざまな立場のメンバーの声を聞き、コミュニティの課題や強み、弱点を可視化して、メンバー間のまちづくりビジョンが同じ方を向くよう援助します。

秋田県秋田市では高齢者の生活状況を調査し、地域で元気に、ハッピーに生活しておられる方々の調査結果から「12個の元気のヒント」を抽出。健やかな生活の維持に“つながり”が重要であることを可視化し、そこから市民が実現・持続可能な課題として「年の差がある友達を3人つくる」を掲げ、きっかけづくりのイベント開催などに至りました。

可能性志向型でスタート、日本中に広がり始めたCo-Minkanプロジェクト

2017年7月から始動したCo-Minkanプロジェクトは行政からの依頼ではなく、医療者と2名のコミュニティデザイナーによる自主事業です。超高齢多死社会を目前に、慢性疾患を抱える人が増える一方で、医療資源が不足することを憂慮し、「ケアの専門職や行政と市民の連携拠点」と、「市民の意思決定を支援する仕組み」が必要なことから企画しました。高齢者に限らず、あらゆる世代・階層の孤立解消にもチャレンジしたいと考えています。

名前の由来は皆が“危なくない場所”として認知している「公民館」。社会教育法に基づき全国に設置されている「社会事業を行う場所」です。その公共の理念や歴史を尊重しながら、現代社会の課題に合わせて“使い方のリデザイン”を民間で行うことを視野に「Co-民間」としました。「健康を考える場所」「近隣に住む人とつながりをつくる場所」として、広がることをめざしています。

とはいえ1号Co-Minkanオープンまでには紆余曲折があり、市民活動は企画通りにいかないことを痛感しました。当初の計画とは異なり、カフェを間借りして無事開催にこぎつけ、時間の経過と共にまちに馴染んでいくのを見て、改めて課題解決型ではなく、可能性志向型で続けているうちに変化や成果が見えてくるのだと学びました。

横浜市保土ヶ谷区から始まったCo-Minkanはその後、次々沿線地域に広がり、全国に広がっています。「つどう」「まなぶ」「むすぶ」場としてプロデュースしましたが、Co-Minkanの在り方を細かく規定してはおらず、Co-Minkanごと設立趣意はさまざま。誰でも、どこでも開けるものとしています。

Co-Minkan普及実行委員会で出版の準備をしている「HAND BOOK 毎日を楽しく過ごすためのまちの茶の間のつくりかた」は、そうした気軽さ、楽しさを感じ取っていただける編集を試みています(2018年5月以降一般販売予定)。

Co-Minkanから始まる人材育成&公民館の使い方リノベーション

Co-Minkanプロジェクトでひとつのテーマとしている「市民の意思決定を支援する仕組みづくり」は、米国アラバマ州で行われている市民によるがん患者の意思決定支援「レイナビゲーター」」から着想を得ています。

これは市民が専門的な知識を得て、がん患者の療養生活に伴走し、意思決定を支援するもの。療養する人の暮らしの満足感を高め、医療費や緊急入院の抑制に寄与し、年間20億の効果を上げています。

この仕組みを参考に、日本の現代社会の課題にあった「市民の意思決定を支援する仕組みづくり」をめざして「人生ナビゲーター育成プログラム」の構築を始めており、このプログラムや、私設Co-Minkanから生まれるプログラムを、ゆくゆくは既存の公民館に広げ、公民館の使い方を変えていきたいと思っています。

コミュニティデザインとは、コミュニティをつくり出すことではない。コミュニティとは自然発生しているもので、コミュニティを構成する人たちの声を聞き、よい変化をもたらす社会活動に展開することがコミュニティデザイン。西上ありささんのお話を聞いて、コミュニティデザインの価値に理解を深めることができたと感じています。

ケアクリ会議は、地域社会に内在する形のないものを具象的にし、皆が「行動変容」を起こしやすくする試みがたくさん実施されていることを知る機会でした。それもいろいろなアプローチがあり、全体から希望がもて、安心できる事実です。安穏ではいてはいけないとしても、未来に対して悲観的になりすぎないように、このようなことは今以上に発信される必要があると感じています。
(まとめ・文 フリー編集者・ライター 下平貴子)

【ケアクリ会議Vol.4 レポート 連載予定】

第1回 ヘルスケアからプレイフルケアへ
第2回 この先へ、プレイフルに進もう
第3回 ぐっとくるアピールで健康格差解消へ!
第4回 赤ふん坊やの町から全国に届ける「健康のまちづくり」
第5回 ケアの専門職が街中でコーヒー屋台をやる、そのワケ
第6回 「マイノリティ×クリエイティビティ」で社会を良くする
第7回 生活者による、生活者のための地域づくりサポート
第8回 暮らしを愉快に、人生を豊かにするケアを広げたい!


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