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第4回 赤ふん坊やの町から全国に届ける「健康のまちづくり」

<ケアクリ会議 VOl.4 ゲストトーク・ダイジェスト>
井階友貴さん
医師・高浜町和田診療所(福井大学医学部地域プライマリケア講座)

井階友貴さんは診療所で臨床に携わる一方、地域医療・社会医学に関する疫学研究を続け、「まちづくり系医師」として知られます。ケアクリ会議 VOl.4では、医師不足の解消など医療づくりから“まちづくり”に変化した経緯と、高浜町健康のまちづくりプロデューサーとしての活動、さまざまな立場の人と協働する際の心がけなどについて話してくださいました。

*以下は取材参加した記者の要約です。実際の講話内容と一致してはおりません。

医療づくりから「まちづくり」へ変わった瞬間

私が高浜町に赴任した2008年、町として医療崩壊を食い止める対策が検討されていて、翌2009年3月には、全国初の試みで市区町村による医学部寄附講座「地域プライマリケア講座」が生まれ、地域医療教育が始まりました。

ところが、行政と医療者が医療づくりに奔走していた当時、危機感がなかった町民に、その真意はまったく伝わっていませんでした。そこで、町民主体の医療づくりに舵を切り、町民によって健康課題を明らかにし、改善に取り組む「たかはま地域医療サポーターの会」ができました。

キーマンとなる町民から町民へ、会の活動が伝わり、徐々に主体的な町民が増え、つながりができていくと、自ずと医療以外のさまざまな地域課題が共有されます。2025年問題や消滅可能性都市問題が我が町のこととして迫っていました。地域創生と、地域力創造と、地域包括ケアは切り離せないのです。

より広い視点からの活動に切り替えるため、私は健康と社会の在り方をハーバード大に学び、帰国後(2015年)、高浜町から「健康のまちづくりプロデューサー」を委嘱され、健康寿命を10年、地域寿命を100年延ばすことをめざす町民主体の「健康のまちづくり・たかはまモデル」を開始しました。

ソーシャルキャピタルの幅広い効果とは

社会的要因が健康に及ぼす影響はとても大きいので、町全体を健康にするまちづくりで、ソーシャルキャピタルの「つながり」が核となるのは大変しっくりきます。教育や治安、経済に関する行政や専門職とも横断的な連携がとりやすい。どこの町にもいるような、求心力があり、活動的なキーマンが核になると、主体性のない人も巻き込まれやすいでしょう。

まちづくりの第1歩として始めた「けっこう健康!高浜わいわいカフェ(健高カフェ)」は、関心がある人・関わる団体が集い、しゃべり、地域と地域をつなぐ場です。月に1度、場から出たテーマについてゆるくしゃべって、無理なく実現できそうなことを、つなげそうな人につないで、パワフルに実現している市井会議です。

ほかにも、いくつものソーシャルキャピタルが生まれ、町民は興味があることや、楽しそうな活動に加わることで「まちに出るほど元気になれるまち」へ歩みを進めています。以前はあまねく町民全員を巻き込みたいと考えていた時期もありましたが、今はムーブメントが広がる中でも、関心が持てない町民も「ただ住んでいるだけで健康になれるまち」をめざすようになりました。これら2つの顔が、同時に必要です。

町のマスコットキャラクター「赤ふん坊や」と協働するワケ

町のキャラクター「赤ふん坊や」のマネージャーを兼務し、全国に「健康のまちづくり・たかはまモデル」を紹介する活動を行っています。モデルとして発信すること、ノウハウをアカデミックに醸成することなどは、高浜町のまちづくりモチベーションを維持向上させます。また、各地とシェアすることで互いに加速度がつくという効果も期待できると考えています。

とはいえ、平素は診療所での臨床業務が中心の生活で、診療に誠意をもって当たることこそ、さまざまな協働を成功させる基礎だと考え、自身の役割として大切にしています。まちづくりへの情熱は重すぎない程度に伝え続け、動機づけを図りますが、具体的にする段では町民が動き出すのを待ち、自分が先導してしまわないように気をつけています。

かわいい赤ふん坊やとのコラボによって、医療者のイメージから離れ、笑顔のコミュニケーションがとれています。そして、高浜町のマスコットである赤ふん坊やと行政上の諸手続きを経てコラボしていることは、私の活動が「まち(行政&地元)ぐるみの活動」であることの象徴でもあります。

井階友貴さんは「すべての町民が主体的になることはない。関心のない人も住んでいるだけで健康になるまちづくりという、ある意味、諦めた切り口も同時に必要」と話しました。

「諦める」とは、“明らかに見ること”だと聞いたことがあります。無関心な町民も認めている高浜町の「健康のまちづくり・たかはまモデル」は正直で、あたたかい。

ケアクリ会議全体が「誰も置き去りにしないケア」を語る言葉で溢れていました。それこそプレイフルケアの真髄でしょうか。
また、井階さんのプレゼンは高浜町と赤ふん坊やへの愛がいっぱいでした。資料のパワポには、全国を旅する赤ふん坊やが何度も登場し、井階さん曰く「赤ふん坊やがかわいくてしょうがない。とくに意味のない写真も、つい見せたい」(笑)。

愛は学びの緊張を緩めます。感心しながら、ふと、以前ある講義を受けた折、同じ愛にほっこりした記憶がよみがえりました。そう、それは4月22日開催の「いいご近所づくり大会議2018 “食べる”と“笑う”を支える摂食嚥下の専門家に学ぶ1日」に登壇される医師の若林秀隆さん。リハ栄養のいろはを学ぶ講義のパワポに、度々ウェルシュ・コーギーの写真が登場していました。なぜコーギー⁉︎ 4月22日のパワポにも出てくるでしょうか。

再びフロントランナーに共通点を発見。それは“かわいいもの好き”ということではなくて、臨床や研究の合間を縫い、全国で多数、講演を行うなど超多忙な中にあって、嬉々としていることです。そうして伝えようとする姿が、ケアに携わる多くの人の心を揺さぶり、動かしていると思います。
(まとめ・文 フリー編集者・ライター 下平貴子)

【ケアクリ会議Vol.4 レポート 連載予定】

第1回 ヘルスケアからプレイフルケアへ
第2回 この先へ、プレイフルに進もう
第3回 ぐっとくるアピールで健康格差解消へ!
第4回 赤ふん坊やの町から全国に届ける「健康のまちづくり」
第5回 ケアの専門職が街中でコーヒー屋台をやる、そのワケ
第6回 「マイノリティ×クリエイティビティ」で社会を良くする
第7回 生活者による、生活者のための地域づくりサポート
第8回 暮らしを愉快に、人生を豊かにするケアを広げたい!

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