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【アカネ落城 3】

二兎を追う者は一兎をも得ず…本当だろうか。
どちらも、得る方法を知らなかったからじゃないか?
絶対に方法はある。

それを必死に考えた、今すぐ教えて欲しい。
今現在、そのマニュアルが必要だ。

――これは、窮地に立たされた卯木の焦り。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「これ、どういう事かな?」
茜の怒りが声色から滲む。

それは先日の壱衣と楽しく遊んだ卯木の写真。

全身を巡る血液がその瞬間に凍てつくと、卯木は思考を巡らせては言い訳を考えた。
……しかし、何も考えつかない卯木。

目の前の怒れる茜を鎮める言葉はなんだ?

「泣いたって、何にも変わらないよ。」
気付けば、汗と涙が卯木の顔を濡らしている。
茜は防衛本能むき出しの卯木を、冷やかに見詰めた。

これから、卯木に何を言われようと茜は結末を決めている。

「ごめん!壱さんに、しつこく誘われて断れなくて!」
無言で言い訳を聞く茜の表情は、ピクリともしない。
「もうしないから!だから、別れないで!!」
茜は待ってましたと言わんばかりに、用意していた言葉を被せた。

「いや、もう別れる。」
卯木は、縋るように茜の腕を掴んだ。
茜の冷めた瞳に、どうにか訴えが響いて欲しい一心で、泣きじゃくりながらも言葉を強く声にする。
「嫌だ!茜がいないと嫌だ!」

この後の卯木は、茜が出した言葉をひたすらに「嫌だ!」で、隠す事に必死だった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

勘の良い茜は、しっかり卯木のしていた事を把握しつくしていた。
今回の件が初めてでは無い事、気付いた際には毎回この会話を繰り返している。

これは、何回目のループかなと思うと感じるのは…疲労感。
卯木が変わらない事を、いい加減分かっていた。

「本当にもうムリ!私も限界だよ!」

考えても分からない答えに卯木は、ただただ「嫌だ!」でしか答えられない。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

何も変わらない、不満が募る。
この源は卯木の女遊びのせいだ。
茜は快適な生活を望んだ…だから、卯木を自分から切り離したい。

長年付き合って、情がないわけではない。
情があったから、最初から今まで許した。

ただ、反省も改善もしない卯木には、もう何を言っても無駄だと悟ったのだ。

――茜の卯木への猶予期限は、超過した。

それから、茜は新しいアパートを契約し引越した。
茜が部屋の荷物を片付ける姿を、卯木はそれを目に映したくなくて布団の中で過ごす。

翌月には一人暮らしを始めた茜。
久しぶりにフリーになると、恋愛なんて今までどうしていたのか分からない。
「まあ、暫くは恋愛はいいかな。」

しかし、茜が彼氏と別れたと聞くと、茜を放っておく男はいなかった。
開いたばかりの傷口を、手当てしたい希望者が詰め寄る事を、茜はまだ知らない。

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