【アカネ落城 6】
卯木は、茜と別れた後も壱衣が「慰めてやるよ。」と、言って遊びに誘われていたが……
あんなに楽しかった遊びは、虚しく感じる様になっていた。
壱衣は卯木の好みを把握している。
だから、卯木が喜びそうな女を捕まえては、卯木を遊びに誘う。
しかし、卯木は遊んでもSNSに写真を上げる事はしなかった。
何か変わった訳ではない、いつも通りなのだ。
いつも通りに壱衣と酒を飲み、
いつも通りに裸の女と夜を明かす。
いつも通り……の筈だ。
ーーおかしい。
いつも通りに、行為を楽しめない。
いつも通りに、快楽に身を任せきれない。
ふと思ったのは……「間違ってないよな?」
何人もの女を抱いて、あんなにも良がらせてきたのに。
目の前にいる女が、紅潮して、息を切らせていても、今の卯木には何の感情もわかなくなっていた。
どんなに酒を飲んでも、酔えない。
いくら女を抱いても、満たされない。
この渇きを、壱衣との遊びでは満たされないと知った卯木は、壱衣との距離を置くようになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今更、どんなに後悔しようと。
改めたところで、茜はもう居ない。
2人の思い出しかない部屋で暮らすのは、卯木には耐えられなかった。
もう居ない筈なのに、どこからともなく香る茜の匂いが鼻を撫でる度に、卯木の心臓は強く脈打つ。
「……最低だ。」
自分で自分に言った言葉は、ただ部屋に響く。
過去に囲まれた空間に、卯木は自分すら保てなくなりそうで、茜が出ていってから間もなく、卯木は部屋を引き払った……
茜が思い出になるように、新しいアパートで生活を始めたが、それでも思い出にならない茜の姿が、ふと卯木の前に現れる。
どうすればいいのか、分からない卯木はひたすらに音楽を聴いて、目の前に現れる幻の茜を遠ざけた。
しかし、悲恋ソングばかり流れる自分の音楽プレイリストに、茜を想っては泣く卯木。
誰の為に歌ったかも分からない言葉で、自分に茜を縫い付けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
茜はそんな卯木の事など、考える暇はない。
犀太の事で頭は埋め尽くされている。
しかし、よく聞く恋の病のような、犀太に夢中という訳ではなかった。
つまらないだとか、飽きたという事ではなく、自分の感情がよく分からなかったのだ。
犀太の事は、嫌いではない。
でも、好きなのだろうか……
そもそも『好き』の定義が、自分の中でどういうものだったのか。
それが思い出せなかったが、犀太からの告白には全く嫌悪感はなかったのは分かっていた。
今だって、一緒に過ごす時間は苦痛ではない。
楽しい……なのに、犀太からの「好き」に応える茜の「好き」は、犀太から伝わる熱に浮かされる事はなかったのだ。
久しぶりの『恋愛』らしい展開に、始めは浮き足だったが……
我に返ると、茜は自分のフラットな感情に気付いてしまう。
きっと、まだ付き合ったばかりだし、これから熱量は増す。
この時の茜は、そう思う事にした。
まるで……自分に言い聞かせるかの様に。
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