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【アカネ落城 7】

楽しければ、それだけで良かった。
見失った『好き』の感情は、未だ分からない。

茜は、犀太が嫌いではない。
つまりは、好きかと聞かれると……ハッキリと言いきれない。

自分で納得がいく『好き』と言う感情の定義は、未だに分からないままだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

付き合って1ヶ月が経った。
茜に不満が生まれる……それは、犀太の話す事が原因だった。

茜が 話す色々な愚痴を聞く事も、しばしばだった犀太。
犀太はその流れを、いつも……自分の苦労話にすり替えるのだった。

「俺もさ、昔は苦労していたわけよ。だから分かるけどさーー」

「ウチの実家って貧乏でさ、小さい頃は米を食えない日もあってなーー」

「電気のない生活ってした事ある?お湯も出ないんだよ?」

そして締めの決まり文句は「それに比べたら、大丈夫でしょ。」だった。
これを繰り返すと、茜は犀太に対して「なんだコイツ。」と、思うようになっていた……

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

疲れた茜の表情に気付いたのは、友人の椿だった。

「茜、最近は犀太とはどう?」
椿は、犀太と茜が付き合い始めた事を聞くとちょくちょく近況報告を聞いている。

椿の言葉を待っていたかの様に、茜は椿の肩に手を強く添える。
「話したい!話したいから、今日いつものトコ行こ!!」
何かあったなと悟ると、椿は「分かった!」と強く返事をした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

そして、2人はいつもの時間に、いつもの居酒屋へ足を運ぶ。

飲み物がテーブルに置かれると「おつかれ~!」と、乾杯する。
そして、茜は椿に「で、何があったの?」と、促されると、溜息をついた。

「いや~……犀太さ、自分の苦労話が好きみたいで、同じ話を何回もするんだわ。」
犀太のテンプレートな会話に、飽きた事。

「あとね、休みの予定もさ……」
デートの予定を決めようと幾つか提案をするが、どれも決めかねて、いい返事をしない犀太の態度の事。

「別にね、2人でイチャイチャするのは嫌じゃないんだわ。でもね~……」
それよりも、自分の不満の値が肥大化してきている事。

茜の話を聞き終えると、椿は焼き鳥の串を置くと口を開いた。
「で、どうするの?」
椿は茜の思考を理解している。
だから、茜の胸中で結論が出ているのだろうと予想していた。

「うーん、正直……ついてけないよね。」

椿は「やっぱり答えは出ているのか。」と、思うと、俯いた茜をじっと見詰めた。

「茜がもう答えを出していなら、それで良いと思うよ。きっと、茜ならすぐ行動にも移すだろうし。」
椿の言葉に茜は、笑って顔を上げる。
「バレてたか!!いっつも椿は、私の事お見通しだよね!」

そして、茜は翌日の夜に犀太へ別れを告げる。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

犀太と別れてから、間もなくの事。
別のフロアで仲が良かったスタッフから、茜にLIMEが届く。

茜の携帯画面には『柊吾』という名前が映っていた。

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