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【アカネ落城 5】

思い出を漁って、自分がどんな風にしていたか思い出したい。

「異性との交友関係って、どんなだった?」
思い出した所で、10代の恋愛経験なんて成人した自分に何の役に立つかもわからない。

それでも、何も武器がないよりはマシだと思っては、思い出せない感覚を探す茜。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

椿とよく行く居酒屋とは違い、犀太の友人が営む居酒屋へと案内された茜。

「お!いらっしゃい!今日は女の子連れて来たの?」
犀太の顔を見ると、ガタイの良い男の店員は顔馴染みのようで、ラフに話しかけて来た。
「こんにちは。」
茜はとりあえず、営業スマイルを作ると、席へ案内される。

「犀太が可愛い子連れて来るなんて、珍しいね~。」
店員は犀太をからかった。
「でしょ~!まぁ、飲み物決まったらまた呼ぶから!」

茜は初めての店だった為、ゆっくりメニューを見せて選んでもらおうと、犀太は配慮した…
そんな事よりも、茜は初めて犀太と2人きりと言う状況に浮き足立っていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

犀太は、とりあえず茜の近況をたずねた。
長年付き合っていた彼氏と、どうして別れたのか。
茜が今ひとりで暮らしている事……

一通り茜が話し終わると、犀太はビールを大きく一口飲んだ。

「あーちゃん、めちゃくちゃ頑張った!」
そう言う犀太の手は茜の頭へ伸びた。
ポンポンと、優しく撫でられた茜の心をザワつかせる。

この日を境に、犀太と茜の距離はぐっと縮まり、何回か一緒に居酒屋へ足を運ばせた。

ーーそんなある日。
そろそろ居酒屋を出ようかと、茜が荷物をまとめていると「待って。」と、犀太に言われた。

「こんな事、今まで自分から言った事ないんだけどさ……」
雰囲気が違う犀太に、茜はハッとする。
「あーちゃんが、好きだから……付き合って欲しい。」

茜には、躊躇う事など無かった。
「うん。」
自然と笑顔を返す茜に、犀太は「はぁ~!緊張したぁ~!」と、息を深く吐くと2人は笑う。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

犀太は浮かれた。
手が届かないと思っていた、茜が彼女になって口元も緩む。

犀太は茜の家にしょっちゅう通うようになっていた。
そして、茜と一緒に過ごす時間を少しでも長く作る……
それで、茜を自分が支配したつもりになっていた。

茜はと言うと、犀太と居るのは楽しい。
楽しいし、2人で肌を触れ合わせるのも嫌じゃない。

ただ……分からない感情が、思い出せない感情が、茜にはあった。

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