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人と犬の深い深い関係

人と犬との歴史は、約1万年前にさかのぼるといわれています。この間初めは、猟犬、護衛犬として、その後は軍用犬、作業犬、牧畜・牧羊犬、ペットとして人間と良い関係を築き、パートナーとも言える存在になりました。

今回は、心理、福祉分野で大切な役割を担う、犬たちについて記していきます。特に、盲導犬、聴導犬、介助犬は補助犬と呼ばれ、身体障害者補助犬法に基づき訓練・認定された犬のみが、法に基づく表示をつけることが許されています。

そして、電車に乗る際、駅を利用したり、銀行、郵便局、ホテル、ショッピングセンター、レストランなどを利用する時にも、補助犬とともに入ることができます(障害者差別解消法では正当な理由なしにサービスの提供を拒否したり制限したりする行為は禁じられています)。

補助犬とともに生活することで、活動範囲は格段に広がります。また、単にパートナーとして生活のサポートをするだけではなく、いつもそばにいてくれる家族のような存在でもあるのです。


1.見えない、見えにくい人たちをサポートする盲導犬

外出の際、盲導犬はユーザーが安全に歩行できるようサポートします。段差の前で止まって知らせる、また駐輪している自転車や植木などの障害物をよけて通行します。

横断歩道では必ず止まって知らせます。渡るタイミングは音響信号機や車の音、人の動きでユーザ自らが判断します。曲がり角でも必ず止まって知らせてくれます。

外食の際、レストランでの食事の間、盲導犬はテーブルの下で静かに過ごします。

ちなみに補助犬のトイレについてですが、補助犬専用のトイレを設置している駅、空港、ホテル、役所もあるようですが、全国でもその数は限定されています。最近ではユーザーが多機能トイレを利用する際に、補助犬も一緒に利用できるよう、厚生労働省の補助犬マークを掲示しているところも増えているそうです。

厚生労働省 補助犬マーク

盲導犬の育成は、1歳まではパピーウォーカーのもとで人に慣れ、信頼関係を作ることを学んでいきます。その後は、簡単な指示に従う基礎訓練を受けた後に、実際に町の中で安全に誘導ができるよう訓練を行います。

訓練後は、適性チェックを3回にわたって受け、これをパスしたのちに、ユーザーとともに泊まり込んで、共同訓練を行います。その後、ようやくユーザーとの新しい生活に入ることができるのです。

2023年3月の統計で、全国の稼働している盲導犬の数は、836頭と言われています。

2.聞こえない、聞こえにくい人をサポートする聴導犬

聴導犬は、聞こえない、聞こえにくい人へ、生活の中で必要な音を聞いて知らせます。具体的には、インターフォン、目覚ましから、洗濯機、食洗器、電子レンジなどの家電製品の音、赤ちゃんの泣き声や人の呼ぶ声、火災報知器、非常ベル、自動車の近づく音、自転車のベルなどです。音が聞こえるとパートナーの所へ行き、タッチをしたりして知らせます。

厚生労働省のホームページの情報によれば、2023年10月の時点での聴導犬の実働頭数は全国で52頭だそうです。

聴導犬の育成の過程は、以下のようになっています。誕生から1歳まではボランティアやトレーナーのもとでマナーを身につけます。その後、「すわれ」「待て」など基本的な指示に従う、電車・バスなどの公共の場になれる、パートナーが必要とする音を知らせるなどの訓練を行います。

パートナーにも飼育や健康管理の方法を学んでもらい、生活の場で訓練士も共に生活体験を積み、信頼関係をはぐくんでいきます。訓練後はパートナーとともに試験に挑み、合格すると正式に認定されるという仕組みになっています。

3.障がいのある人の助けとなる介助犬

手や足など身体に障がいを持つ人の生活に必要な動作のサポートをします。力仕事もあるため大型犬のラブラドール・レッドリーバー、ゴールデン・レッドリーバーが活躍しています。

2023年10月の厚生労働省の統計では、認定を受け実働している介助犬は、全国で58頭となっています。

介助犬は、車いすを利用していたり、歩行に困難のある人が、手が届かなかったり、つかむことができないときに、必要なものをとってきて、ひざの上に置いたり、渡したりします。

屋内では、物を落とした時に拾う、必要な時に携帯電話、鍵、などを持ってきます。携帯は特に、助けが必要な時や非常時に、鍵は外出の時にどうしても必要なため、どんな時にもさがして持ってくるよう訓練がされているそうです。さらに帰宅後は、靴や服をぬぐ手伝いもします。

外出の際、ドアを開けて中に入るとき、車いすが通る間、ドアを押さえたり、傾斜のあるスロープでは、車いすにつけたひもを引っぱり、上るのを手伝います。買い物の際は、財布やコインを落としても、拾ってわたしてくれます。

4.人と人との関係の橋わたしや心のケアをするセラピードッグ

犬が人に癒し効果をもたらすという点で、まず重要なのが、犬が人間関係形成の優れた媒介になるということです。定期的なセラピーでは、社会的交流、生活の満足度、抑うつ度、心理的幸福度が改善するといわれています。また人とのコミュニケーションの促進にも役立っています。

私も福祉の職場で、アニマルセラピーを実施した際に、セラピードッグを通して、自分が以前犬を飼っていたなど、犬にかかわる思い出話を参加者が自然に話をしたり、セラピードッグを通じて会話がはずんだり、その効果で笑顔が引き出されたりというのを実際に体験しました。

さらにアニマルセラピーの一つ、病院での「動物介在療法」ではストレスが軽減され、特に血管系の健康や生存率の高さに貢献したという研究結果が残っています。また、近しい人の死別という悲嘆にもなぐさめを与えたともいわれています。

もう一つの「動物介在教育」の効果についても、子どもたちの発達により良い影響を与えると、昨今注目されています。クラスの一体感が増す、子ども同士、子どもと教師のコミュニケーションが深まり、社会性をはぐくむ効果がみられたといいます。

さらに世話をし、愛情を注ぐ中で、自己効力感を伴う愛情と永続的なサポートを受け取ることができた、という結果も出ていました。

5.少年院で保護犬を訓練するプリズンドッグプログラム

1980年代に、刑務所で受刑者が犬を育て、訓練する中で責任感や社会性を身につけていく「ドッグ・プログラム」という取り組みがアメリカで始まりました。このプログラムを受けた受刑者の再犯率は非常に低いと言われ、日本でも、少年院で2009年に開始されました、現在も盲導犬の育成や保護犬を訓練するという試みが進んでいるといわれます。

責任をもって一頭の犬を育て、里親に引き渡すこと、これが彼らにとって、責任を引き受ける第一歩になり、また犬を通して愛情を知ることができるのだそうです。さらにチームで仕事をすることが、社会性を育てることにつながっているそうです。

それでもなお、出所後、社会で生きなおすことには、困難がつきまといます。このような時も、日々の訓練を積み重ね、犬を送り出し続けることで、その後も、ゆるぎない自信と希望を持ち続けることができるのだそうです。

6.動物の福祉(アニマル・ウェルフェア)

これまで、犬が人にもたらす、たくさんの恩恵について話をしてきました。

ここで、もう一つ、私たちが心にとめておかなくてはならないのが、命の尊さを思い、動物の生活する環境を良好にするということです。

イギリスで確立された、動物の福祉(アニマル・ウェルフェア)の基本原則には、空腹や渇きといった、基本的な環境だけでなく、健康への配慮、精神的苦痛を与えない、正常な行動の自由を保障することが含まれています。

改めて、動物たちへ接する、私たちの意識もまた、見直していく必要があるかと思います。

※参考文献
・はたらく犬たち 盲導犬・聴導犬・セラピードッグ他 金の星社
公益財団法人 日本盲導犬協会、公益財団法人 日本聴導犬推進協会、社会福祉法人 日本介助犬協会、公益財団法人 日本動物病院協会 監修/アルバ編
・大森理絵・長谷川寿一、「人と生きるイヌ-イヌの起源から現代人に与える恩恵まで」、The Japanese Journal of Animal Psychology, 59, 1 3-14 (2009)
59_3.pdf
・僕に生きる力をくれた犬 青年刑務所ドッグプログラムの3か月
NHK BS「プリズン・ドッグ」取材班 ポット出版


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