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身近なバイアス(最終話):バイアスは悪者なの?

この章では、バイアスの引き起こす問題行動に着目してきました。これは「バイアスが強いと、本心と別の行動をしてしまい、病気になった時に後悔する」という、公衆衛生の抱える課題にスポットを当てたためです。

ただし、バイアスは光と陰があります
確かに確証バイアスが強い人は、がん検診も受けないかもしれません。でも、確証バイアスがあるからこそ、人は恋に落ちるのでしょう。

現状維持バイアスが強い人は、健康指導を受けても生活習慣を変えようとしない確率は高いでしょう。でも、現状維持バイアスは最後までやり抜く力の一助なのかもしれません。

正常性バイアスが極端に強い人は、予防接種を受けないかもしれません。でも、正常性バイアスがないと、人はリスクにもチャレンジしなくなる可能性が高まるでしょう。

こうして考えると、バイアスがないと、人は大昔に人類は滅亡してしまったのかもしれないですね。

問題になるのは、バイアスが本人が望んでいない行動へと導いてしまうことです。新年の誓いに「買い食いしない」「毎日早寝早起きする」「絶対禁煙!」と決意する人はたくさんいます。多くの人は、何が長期的に正しい行動なのかは頭でわかっています。
でも、多くの人は長期的なメリットよりも、目の前の快楽を優先してしまう心理(現在バイアス)があります。友達が買い食いしている姿を見ると、同調バイアスが刺激され、ついつい自分もその流れに乗ってしまいます。
ここで「実はほとんどの人は健康行動していますよ」と伝えると、同調バイアスが健康行動へと向くように働く可能性も出てきます。
このように、同じバイアスでも使い方次第で行動は180度変わることもあります。

バイアスとは「系統的な認知の歪み」です。系統的ということは、科学の力で「こういう場面で、この方向にこの刺激が加わると、多くの人はこのように反応する」と予測できるのです(余談ですが、ダンアリエリーの名著「予想通りに不合理」は、バイアスの特性を表現した、わかりやすいタイトルです)。

結論。好ましくないバイアスにブレーキをかけ、望ましい行動へと後押しするバイアスを味方に付けるのが、解決方法にそうです。「バイアスとうまく付き合うための絶妙な設計」ーーこれがナッジのイメージです。次の章では、「こんなバイアスの人にはこのナッジを」という観点からお話ししていきます。

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