Terra:クリプト業界の巨大国家とその野望を探る
今回もテックメディアThe Generalistから、L1ブロックチェーンであり、ステーブルコインプロジェクトでもあるTerraに関する分析記事をお届けします。
原文はこちら。
著者であるMario GabrieleさんのTwitter↓
韓国発、L1チェーン&アルゴリズム型ステーブルコインプロジェクトであるTerra。聞き慣れない方も多いと思いますが、Terraが持つ暗号通貨Lunaは、世界で9番目に大きい時価総額を持つ通貨であり、PolcadotのMaticやAvalancheのAVAX、UniswapのUNIなど、数多くの有名コインを凌駕しています。
また、投機的な側面だけではなく、彼らが目指している未来は我々が考えるよりも遥かに大きく、とても野心的です。僕もこの翻訳作業で、Terraの壮大さとそれを叶えるだけの能力を持ち合わせていることに驚愕すると同時に、とてもワクワクしました。
多くの人がインターネットの仕組みを理解せずにそれを利用しているように、Terraはブロックチェーンの仕組みを理解せずにその利用を推進するものであり、単なる通貨や投資対象に留まらない、言ってみれば国のようなエコシステムの構築を目指しています。
昨今のWeb3ブームの中、その最前線をいくプロジェクトを深く理解し、その先に何があるのかを考えることは非常に有意義であり、そして何よりも楽しいと思います。
今回の記事は、元記事の詳細な解説とTerra経営陣への取材敢行がもたらした情報の独自性と濃密さも重なって、過去の記事を超える重要性を持ち、そしてWeb3の未来を理解する上で非常に重要だと思います。
合計3万6,000字という長編ですが、ぜひ最後まで読むことをおすすめします。
それでは本編です。
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インサイト
数分しか時間がない場合、投資家、起業家がTerraについて学べることを紹介します。
Terraはクリプトを利用して実用的なプロダクトを作っている
他のプロジェクトとは異なり、Terraは現実世界を志向しています。何百万人もの人々がTerraを日常的な支払いに使用しており、その際にユーザーがブロックチェーンやクリプトを完全に理解する必要はありません。巨大なTAM
Terraはステーブルコインを持つレイヤー1プロトコルとして理解することができます。ステーブルコインとは、固定的な価格を維持するように設計された暗号通貨です。この組み合わせによりTerraは基盤となるインフラとしての役割を果たし、決済に食い込む可能性があります。このステーブルコインに重大なリスクがあると指摘する人もいる
TerraのステーブルコインUSTは、担保がない代わりにアルゴリズムによって価値が維持されています。この種のステーブルコインは「失敗するようにできている」と主張する人もいます。今が変曲点であるという意見もある
最近Terraのインフラが更新されたことで、新しいプロジェクトが爆発的に増えていく基盤ができました。機能を追加してより多くの資金を集めるための追加が相次ぐ可能性があります。
「Terraはクリプト業界において最も大きなTAMを持っています。」
Terraについてリサーチをしはじめたときある専門家に私はTerraにおいて最も頻繁に見落とされがちなことは何かと尋ねました。
これが彼の回答でした。
この専門家は誇張するタイプではなく、またこのテーマに非常に精通しています。当時、私は彼のその根拠を十分に理解していませんでしたが、何時間にもわたるリサーチ、Terraのリーダーとの議論、他の多くのクリプト専門家との会話を経て、私はこう思うようになりました。
Terraはより良い通貨を作っているだけでなく、他の人たちが絶え間なく改良やリミックスを行い、新たな能力や用途を与えるためのインフラを作っているのです。それはブロックチェーンであり、銀行であり、決済処理機関であり、一種の擬似国家でもあります。TerraのコントリビューターたちにはTerraをシンガポールとY Combinatorに例える人もいます。
しかしTerraは、金融業界に革命を起こしクリプトを主流にする可能性を秘めている一方で、失敗する運命にあり、崩壊は不可避だと考える人もいます。
今回の記事では、そんなTerraの強みと弱みの両方に触れながらさまざまな角度でTerraを研究していきます。その内容は以下の通りです。
Terraの成り立ち
メッシュネットワークのスタートアップの創業者と、Eコマースで成功した起業家がタッグを組んだ。Terraはなぜ普及したのか
韓国では何百万人もの消費者がTerraを利用してオンラインや地元の店舗で商品を購入しています。多くの人は自分がブロックチェーンを利用していることに気づいていないかもしれません。TerraのステーブルコインUSTの仕組み
何の裏付けもない安定した通貨を作ることはできるのでしょうか?Terraはそう信じています。成長するエコシステム
Terraの上では様々なプロジェクトが構築されており、レンディング、トレーディングなどが生まれています。ド・クォンの魔法
Terraの創業者ド・クォンは、史上最も偉大な起業家たちと比較されています。崩壊のリスク
Terraのようなアルゴリズム型ステーブルコインには過去に失敗例があります。Terraも同じ運命なのでしょうか?強力なコミュニティ
Terraのが持つコミュニティ「ルナティック」はプロジェクトの成功において極めて重要な役割を果たしています。
この記事の終わりにはTerraがクリプト業界で最大のTAMを持っていると考えている人がいる理由を理解できるでしょう。
1. Terra, forming
起業における成功は1人の人間の活躍のみに帰することはありません。数多くの分岐点と屈折点、挫折と幸運が重なって成り立つものです。
しかしその上で、Terraのストーリーでたった2人の人物に焦点を当てるとしたらその創業者以外には考えられません。ド・クォンとダニエル・シンです。彼らはプロジェクトの陰と陽、Terraの地球と月そのものです。
1.1 ド・クォンと分散化への旅
ソウルから車で2時間半ほど走ると、そこにはエバーランドがあります。この韓国で最も人気のあるテーマパークには毎年600万人近くが訪れ、客は様々な「ゾーン」を巡る旅をしています。例えばエバーランドの「アメリカン・アドベンチャー」では、1950年代の音楽を聴きながら「ロデオ」に乗って1時間過ごした後、観覧車がそびえ立つ「マジックランド」へと向かいます。午後は「ズートピア」で動物を観察し、ウサギに餌をやり、ポニーに乗り、落ち込んでいるホッキョクグマが生ぬるい水の中を漕ぐのを見る、というのが王道のルートです。
エバーランドはクリプトの世界で最も影響力のある創設者の初期の成功にはふさわしくない場所でしょう。しかし当時のド・クォンは喜んでいたに違いありません。スタンフォード大学でコンピュータサイエンスの学位を取得してからわずか数年で、クォンは起業しただけでなく、エバーランドのような大規模な事業を顧客として確保していたのです。
その若さで起業したことは、彼を知る人にとっては驚きではないでしょう。誰が見ても彼は強烈な個性を持った人物であり、昔からそうだったようです。
クォンが自身を語るに、彼は非常に野心的な学生であり、長時間働くことも厭わなかったといいます。しかし、卒業後最初に就職したマイクロソフトではその意欲に欠けていました。話を聞いてみると、40人のエンジニアチームの中で、自分が考える「本当の仕事」をしていたのは4人だけだったのです。
退屈で落ち着かなかったクォンは、自分の努力に見合うものを作ろうと決意しました。そして生まれたのがAnyfiです。
その会社のミッションは「Connect the World for Free」という崇高なもので、世界中の誰もが無料でインターネットや通信ネットワークにアクセスできることを意味しています。
Anyfiは「メッシュネットワーキング」と呼ばれる、群衆の力を利用したピアツーピアのサービスでそれを実現しようとしました。
具体的に説明しましょう。
ユーザーは、Anyfiのソフトウェアをインストールすると、ネットワーク内の新しいノードとしてアクセスできない人々に帯域を中継することができます。例えば、無線LANの範囲内にいてAnyfiをセットアップしていれば、スマートフォンがその信号の範囲を広げ、範囲外の人のアクセスを可能にします。まさに分散型のインターネットと言えるでしょう。
このアイデアは、クォンが事業を立ち上げた2016年にはかなり斬新なものでした。彼のアプローチは、韓国政府からの100万ドルの助成金、エンジェルファンド、そして多数の初期顧客など、大きな関心を集めました。その中にはエバーランドも含まれていました。彼らは遊園地を訪れる多くの人々により良い無線LANを提供できる可能性に惹かれていました。
いずれはAnyfiもそれなりの成功を収めることができたかもしれません。しかし、今となってはそのきっかけがあったからこそ大きな意味があると考えるべきでしょう。
世界一のメッシュネットワークサービスを構築するためにクォンはブロックチェーンについて学び始めました。彼がスタートアップで適用していたコンセプトの多くは生まれつつあるクリプト産業に関連していたからです。「分散化」や「P2Pネットワーク」などのトピックを調べているうちに、クォンは偶然にもラビットホールに落ち始めました。やがて彼は、ビットコインやイーサリアムの世界に深く入り込んでいきました。
クォンは焦点を変えました。2017年には、大学時代の友人であるニコラス・プラティアスとともにICOブームの盛り上がりを見ながら、積極的にこの分野を研究するようになりました。多くはビットコインのような既存のプロジェクトの上にアプリケーションを構築しているようでしたが、ビットコイン自体は信頼できる交換媒体としてほとんど機能していませんでした。もしかしたら、実際の通貨として機能するプロジェクトを作る余地があるのではないかとクォンは考えました。
クォンとプラティアスはこの分野の可能性とギャップを感じ、自分たちのアイデアをまとめたホワイトペーパーを書き始めました。特に2人が興味を持ったのは、一般の人が実際に使える分散型の金融システム、つまりステーブルコインを簡単に保有でき、オン/オフラインを問わず支払いに使えるシステムを作ることでした。それは、ビットコインが胃を痛めるほどの乱高下を見せ、理想的な「P2Pの電子マネー」とは程遠いことが明らかになっていた頃、サトシナカモトの思想に立ち返ったものでした。
このコンセプトを追求するため、クォンとプラティアスはラーメンを食べ、ソウルでAirbnbを利用しながらで仕事をするなど、質素な生活をしていました。空き家がなくなったら次の家に移る、といったものです。
このホームホッピングの実験期間は、時間が経てば何か具体的な形になっていたかもしれません。しかし、ダニエル・シンと出会ったことで、クォンとプラティアスの初期の構想が早くも現実味を帯びてきたのです。
1.2 ダニエル・シンのビジネスセンス
クォンが起業家としての道を歩み始めた一方で、シンは起業家としての道を終えたかのように見えたかもしれません。ウォートン校を卒業した彼は、2010年に韓国初のEコマースプラットフォームの1つであるTicket Monster(TMON)を立ち上げ、Coupangよりも早く上場しました。シンは事業資金としてInsight Venture PartnersやGreenspring Associatesなどから1,100万ドルを調達しました。
グルーポンやLivingSocialのような企業からヒントを得たTMONのサービスは韓国ですぐにPMFしました。彼はTMONの人気商品である「フラッシュセール」の仕組みを利用し、わずか1年足らずで2億8800万ドルの年間売上を達成することに成功しました。
LivingSocialはこれに注目しました。創業から約1年半後、シンはTMONを彼らにに売却しました。その2年後の2013年、LivingSocialが韓国から撤退したのを機に、TMONは再びグルーポンに売却されました。その時の価格は2億6000万ドルと公表されています。
シンはお金と時間を持った若者でした。数年間、韓国や東南アジアのインターネットビジネスにアドバイスやインキュベーションを行っていましたが、クォンとの出会いで真のセカンドアクトを見つけたのです。
10歳近く離れていたにもかかわらず、クォンとシンはすぐに意気投合しました。シンはまだクリプト分野での経験はありませんでしたが、TMONを作った経験からオンライン決済の処理やその成功や失敗を最前列で見ることができていました。
経験豊富なシンは、より優れた分散型通貨システムに具体的な問題に対する解決策を見出しました。シンは、非効率で古臭い決済処理システムではなく、先進的で効率の良い分散型決済処理システムを一般のEC事業者が使えたらどうか、と提案しました。
自分の発明を商品化することや、会社を作るようなことは考えていなかったクォンにとって、この提案は衝撃でした。
シンのこの問題提起は、Terraのアイデンティティそのものを形成することになります。Terraのファンの呼称であるルナティックを名乗るゲイブはこう語っています。
シンは自身の人脈を活用することにしました。クォンは、彼の人脈により数ヶ月から数年かかるプロダクトの構想作りを数週間に凝縮することができたとは説明しています。
また、シンはこのプロジェクトに異なる考え方をもたらしました。クォンが「以前は非常に理論的で抽象的なタイプの人間」だった対し、シンは「より実践的で、数字を重視した実行者」だったといいます。
クォンとシンはプラティアスをはじめとする初期のコントリビューターとともにソリューションをより具体的に検討し始めました。そしてこれを「Terra」と名付けました。
シンの経験のおかげで、Terraチームはすぐに資金を集めることができました。2018年の夏の終わりまでに、Binance、OKEx、Huobiなどの大手暗号通貨取引所から3200万ドルの投資を集めたのです。また、その他の支援者には、TechCrunchの創業者であるMichael Arrington、Polychain Capital、Hashedなどがいました。
このラウンドの資金調達のプレスリリース内でシンは「ブロックチェーン上でAlipayと競合するプラットフォームを構築する」という大胆なビジョンを示しました。この中国のスーパーアプリとの比較は、消費者と加盟店の両方にサービスを提供する、直感的で広く使用される金融商品を構築したいというチームの野望を端的に表しています。また、Terraのフレームワークの上に二次的なアプリを構築したいという思いも込められています。
また、この野望は決して口だけのものではありませんでした。
このときTerraは、Woowa Brothers、Pomelo、Tikiなど15の本格的なEコマース企業と契約していました。これらの最初の顧客は、年間250億ドルの決済処理を行っており、Terraが取り分を得られる可能性のある大きさでした。
Hashed経由で最初のラウンドに参加した投資家のバーク・キムは、クリプト市場が横ばいの時期にプロジェクトを立ち上げたにもかかわらず早くもトラクションが出ていたことがTerraを特に魅力的にしていると指摘しています。
タイミングに関わらず、Terraはその旅を始めました。数百万ドルの資金と印象的な投資家のリストを得て、チームはその専門性を試す時が来たのです。現在のTerraを考えると、クォンもシンもこの先の旅を想像することはできなかったでしょう。
2. UST:"より良いドル "を
Terraとはなにか、どのように機能するのか。
Terraへの理解を深めないと先に進めません。Terraは暗号通貨のプロジェクトで、ECにおける決済処理を改善するものです。そしてまた、より使いやすいドルを作っているものでもあります。
「より良いドル」
これは何を意味するのでしょうか?この質問に答えるのは簡単なことではありません。Terraの複雑なバックエンドの代わりに、ユーザーは直感的にTerraを利用することができます。それは、何百もの歯車が連動して時を刻む時計のようにエレガントで複雑でありながら、非常にロジカルなものです。
このセクションでは、Terraの偉業の中で最も基本的な部分であるステーブルコインについて説明します。しかしその前に、もっと根本的な疑問から始めなければなりません。
2.1 貨幣は何のためにあるのか?
古代バビロニア人が最初に考えたのは「お金は何のためにあるのか」でした。
心配しないでください。ここではその話はしません。お金という概念は古くからあり、さまざまな形で存在していたことはわかっています。ここでは、私たちが通貨に求めているものは何なのかを考えてみましょう。
金融工学の専門家であれば、もっと難解なケースを考えることができるでしょうが、ここでは基本的なことに焦点を当てます。私たちがお金を必要とするのは次のような場合です。
支払いの手段として
お金は交換の媒体です。商品やサービスを購入し、その対価として支払いを受けるための手段として機能する必要があります。利子を生む資産として
資金が余ったときには、リターンを生む安全な保管場所が必要です。投資の手段として
財産を増やすためには、さまざまな資産クラスに投資する方法が必要です。そのためには既存の資産を担保にする必要があるかもしれません。
Terraはこれらに潜在する問題を解決することを基本としています。ブロックチェーンの新しい技術を使って、現実的で根本的な社会的ニーズを解決しようとするプロジェクトなのです。それを実現するため、Terraは独自のお金を作ることに着手しました。
2.3 ステーブルコインのポイント
お金を稼ぐのはとても大変です。でも、ゼロからお金を作るのはそれとは比べものになりません。Terraのシステムは後者のような「貨幣の創造」と「金融システムの構築」によって成り立っています。
さて、交換手段として機能する暗号通貨を作ることは、歴史的に見てもかなり難しいことでした。ビットコインは真のデジタルキャッシュを目指して開発されましたが、ボラティリティが高いために決済手段としては使えませんでした。24時間で20%も価値が上がる可能性のある通貨で誰がモノを買いたいと思うでしょうか?
例えばテレビを1BTCあたり58,000ドルの時に0.01724BTCで購入した場合、あなたは次の薄型テレビのために約1,000ドルを支払ったことになります。10分後、ビットコインの価格が60,000ドルに達すると、あなたは実質的に1,034ドルを支払ったことになります。2日後にビットコインが69,000ドルになると、あなたのテレビ購入額は1,190ドルになります。
このような乱高下は暗号通貨にはつきものです。そのため、価値を高めるのではなくできるだけ安定した状態を維持しようとする一連のプロジェクトが登場しています。その一つがステーブルコインです。ステーブルコインは、価格が刻々と変化するのではなく、可能な限り法定通貨の価格に近い形で推移します。一般的にはUSD (米ドル) にペッグされています。
このステーブルコインはクリプトエコシステムの中で非常に重要な役割を果たしています。これらは交換手段としての暗号通貨を可能にするだけではなく、投資家が変動時に法定通貨に移行することなく資産を確保できる場所を提供します。
例えば、ビットコインに長年投資しているものの短期的な変動が心配な場合、売却して米ドルに戻すのではなく、保有資産の一部をステーブルコインに移すことができます。これらの保有資産、ビットコイン価格の上昇からは利益を得られませんが、下落からは保護されます。(少なくとも理論上は)
分散型金融(DeFi)の動きもまた、ステーブルコインの大きな恩恵を受けています。価値が安定していなければ多くの人が利子と引き換えに自分の持つ暗号通貨をステークしようとはしなかったでしょう。
ステーブルコインに価値があるのは明らかです。しかしその安定性はどのようにして保たれるのでしょうか。トークンが常に1ドルの価値を持ち続けることができるのはなぜでしょうか?
答えは「依存」です。様々な種類がありますが、ステーブルコインのプロジェクトを素早く見分けるには、中央集権型か非中央集権型か、そしてどの程度まで外部資産で担保されているかを判断するのが一番です。これらは二元的な分類ではなく、ほとんどのプロジェクトはスペクトラム上に存在します。
中央集権型と非中央集権型
中央集権型のステーブルコインプロジェクトは多数のコンセンサスを得る必要がないため、より迅速に行動することができます。
しかし、明確な運営組織があるため規制当局にとってはより簡単なターゲットとなります。一方で、非中央集権型のステーブルコインの管理はより難しいかもしれませんが、第三者が介入することははるかに困難です。担保型とアルゴリズム型
担保型ステーブルコインにはセキュリティ上の利点があります。プロジェクトが信頼できることが前提ですが、ユーザーのお金は安全であり、いつでも換金できます。これはステーブルコインがUSDのような強固なオフチェーン資産に1対1で裏付けられている場合に特に当てはまります。
一方でこれらのプロジェクトの規模を拡大するためには膨大な資金が必要となります。ステーブルコインの提供者はトークンの供給量を増やす前に準備資産を蓄積しなければならないのです。その一方で準備金の必要性をなくしたり減らしたりすることでより迅速にその規模を拡大することができます。
一方で、プロジェクトによってはこの担保の概念を完全に排除するものもあります。このようなアルゴリズムを用いたアプローチは資本効率が高い反面、リスクも高くなる可能性があります。
完璧なソリューションは存在せず、それぞれのアプローチはトレードオフの関係にあります。
2.3 ポピュラーなステーブルコイン
ステーブルコインを具体的に理解するため、いくつかの例を見てみましょう。
Tetherは世界最大のステーブルコインです。この記事を書いている時点で、時価総額は730億ドル、1日の取引量は850億ドルとなっていますが、これはテザーのUSDTトークンという形で実際のお金が保有され、交換されていることを示しています。
Tetherが成功した理由の一つは担保に対するアプローチを公言していることです。暗号通貨取引所Bitfinexのオーナーが運営するこのプロジェクトは当初、USDTの各トークンに対応する米ドルが裏付けられていると主張していました。しかし2014年の設立以来、この主張には重大な疑問が投げかけられており、調査の結果、Tetherの担保となる現金はわずか2.9%であることが明らかになっています。
とはいえ、少なくとも理論的にはTetherはかなり大きな担保を持っているプロジェクトです。
2番目のUSD Coin (USDC) も同様のアプローチをとっています。USDCは決済ビジネスのCircleによって作られ、CoinbaseとBitmainを含むコンソーシアムによって管理されています。テザーと同様に、USDCは「常に1対1で米ドルと交換できる」と主張していますが、準備金は他の適切な資産で保有することもできます。USDCもまた中央管理され、その担保が設定されています。
一方でMakerDAOは異なるモデルを使用しています。TetherやUSDCとは異なり、このプロジェクトのステーブルコインDAIは、イーサリアム、USDC、Uniswapのトークンなど他の暗号通貨で担保されています。Makerのシステムにはもっと複雑な点がありますが、この記事ではDAIがオンチェーンの資産で担保されており、分散化されていることを指摘してまとめることにしましょう。
2.4 TerraとLuna
Terraの創業者であるド・クォンは、インタビューの中で自分のミッションをシンプルに説明してくれました。それが「最も使いやすいドルを作る」というものです。
Terraの試みはさまざまな法定通貨にペッグされた一連のステーブルコインから始まります。例えば、TerraUSD(UST)は米ドルに、TerraKRW(KRT)は韓国のウォンに対応しています。他にも様々なステーブルコインがありますが、基本的には同じ機能を持っています。わかりやすくするためここではTerraのステーブルコインをUSTと呼ぶことにします。
Tether, USDC, DAIとは異なり、USTはフィアットやチェーン上の資産で担保されていません。その代わりにTerraのもう一つの通貨であるLunaによってペッグが維持されています。
色んな名前があり少し混乱してしまうかもしれませんが心配しないでください。そこまで複雑ではありません。
まず、Terraは2つの主要な資産を持っていると言えます。それがUST(ステーブルコイン)とLuna(ガバナンスとステーキング)です。
USTは1ドルの価値に固定されていますが、Lunaの価格はかなり変動します。本稿執筆時の過去24時間でその価格は5%上昇しています。つまりLunaはステーブルコインではありません。
LunaはUSTと値動きが異なるだけでなく、Terraのエコシステムの中で全く異なる役割を果たしています。具体的にはガバナンストークンとステーキングトークンです。つまり、Lunaを持っている人はTerraの意思決定に関与することができます。また、Lunaトークンをネットワークの「バリデータ」、つまりTerraのシステムの動作を支援するノードにステーキングすると、処理活動によって得られた手数料の一部を得ることができます。
以下に例を挙げます。
この機能がLunaの価値の大部分を占めています。Lunaは保有者に収益をもたらす資産です。また、USTを安定させるためには、Lunaがもつカウンターウェイトや疑似リザーブとしての機能が欠かせません。
人々は1USTにつき、1ドル分のLunaが交換できます。アービトラージを狙う人々がこの比率の乱れを利用することで価格は一定に収斂されていきます。
例えばUSTの価格がペッグを超えて上昇した場合、TerraのアルゴリズムはLunaトークンを"バーンする"、つまり消失させてUSTを増やします。USTの供給が増えるとその価格は下がり、再び安定します。一方で燃やすことでLunaの供給が減るため、Lunaの価格は上昇します。
同じことが逆にUSTが1ドル以下になったときにも起こります。この場合、TerraのシステムはUSTをバーンしてLunaを作ります。USTの供給が減少するため価格は上昇し、Lunaの価格は下落します。
もう一度、この仕組みを説明しましょう。
しかし、Terraの安定へのアプローチには最後の難関があります。LunaをバーンしてUSTを作るたびに手数料が発生するのです。クォンが最近のツイートで言ったように、LunaをTerraに交換するためのスワップ手数料はその後2年間に渡ってLunaのステーカーに支払われます。その結果、ステーカーはTerraがボラティリティを吸収する度に安定した報酬を得ることができます。
注目すべきはこの報酬がUSTで支払われることでユニークな関係が生まれていることです。クォンは「Lunaの価格が下がれば、ステークのリターンは直線的に上昇する」と説明しています。
これは理解するのに少し時間がかかるとしても、非常にエレガントなシステムです。また、この手法には明確なメリットがあります。USTは担保がないので無限にスケールアップすることができます。大規模な人口にサービスを提供するために、スクルージ・マクダック級の金庫を用意する必要はありません。スケーラブルな分散型ステーブルコインが出来上がったのです。
しかし前述の通り、アルゴリズムによるアプローチには真のリスクが伴います。この点については後ほど詳しく説明します。今はこのアルゴリズムがどのように機能しているかを見てみましょう。
2.5 Terraは機能しているか?
人気かどうかの観点から見ればTerraのステーブルコインが成功していることは間違いありません。
USTはTether, USDC, BinanceのBUSDに次いで世界で4番目に人気のあるステーブルコインです。この記事を書いている時点でその時価総額は68億ドルで、前日には1億7800万ドルが処理されました。これは驚異的なことですが、それでもTetherやUSDCとは大きな差があります。前者は同じ期間に850億ドルを処理しています。
注目すべきことは、USTは分散型ステーブルコインの代表格でもあり、他のすべてのステーブルコインははるかに中央集権的だということです。USTは最近、時価総額でDAIを抜き、分散型ステーブルコインのトップになりました。
しかしさらに重要なのはUSTがステーブルコインとして効果的に機能しているのか、ということです。
今のところほとんどがそうだといえます。
ボラティリティでプロジェクトの信頼性を測ることは最善とはいえませんが、様々なプロジェクトのハイ&ローを見ることである程度の信頼性は測ることができます。
これらの指標によればUSTはかなりボラティリティの高いステーブルコインとなっています。昨年、USTの高値と安値のスプレッドの合計は、例えばテザーのそれよりも422%も大きいのです。なぜそのようなことが起きたのかについては後ほど説明しますが、今のところTerraのアプローチは、他のものほどペッグを維持していないものの合理的に機能していると言えるでしょう。
ここまでTerraのステーブルコインとしての実力を長々と説明してきましたが、それはここが最も重要な部分だからです。Terraの行動はすべてUSTをできるだけ強固にするためのものです。有名なルナティックであるShigeoが言ったように「Terraエコシステムの北極星はUSTの用途を増やすこと」なのです。
Terraの最初で最高のユースケースはChaiです。
3. Chai:実用化に向けて
新しい通貨が支払い手段として成立するためには安定性が必要ですが、それだけでは十分ではありません。お金は使うことができる限りにおいてのみ有用であり、それはつまり、他の人に受け入れられなければならないということです。
この問題に対するTerraのソリューションがChaiです。
先に述べたように、Terraはブロックチェーンの世界では珍しく現実的な問題からスタートし、具体的な需要を築いてきました。彼らはそのためにEコマースのプレーヤーと提携して決済を強化しました。その多くは、Terraの親会社からスピンアウトしたChai Systemによって行われました。
Chaiはダニエル・シンが経営する会社です。彼のEコマースに関する知識と人脈により、Chaiは一定規模の決済処理会社に成長しました。なおChaiとTerraは密接に絡み合ってはいるものの形式的には別会社です。
Terraの初期の利用のほとんどはChaiを通じて行われており、今でもその割合は高いものの、ブロックチェーン上に構築されたアプリケーションとして扱われることが多くなっています。その点を強調するように、Chaiは独自で資金調達をしており、ソフトバンクやHOFなどから7500万ドルを調達しています。
Chaiには企業向けと消費者向けの両方の有用性があります。
TMONのような企業は同製品のAPIを利用し、デビットカードやクレジットカード、PayPalなど20種類の選択肢からシームレスに代金を受け取っています。Chaiが顧客に支持されているのは、決済プロセスが飛躍的に速くなり手数料が安くなるからです。また重要なのは、Chai上で運営されているビジネスのどれもが、ブロックチェーンを扱ったり、仕組みを理解する必要がないということです。
消費者にとってChaiは一種のネオバンクであるといえます。消費者は既存の銀行口座に接続し、スムーズで直感的なアプリケーションを介して商品の代金を支払うことができます。繰り返しになりますが、Chaiを使う一般の人はその裏で何が起こっているかを把握する必要はありません。
起こっていることはまるで魔法のようです。Terraはどのような法定通貨でも支払いを受け付けることができ、それをUSTのようなステーブルコインの一つに変換してベンダーにその国の通貨で渡すことができるのです。
これはどのような仕組みなのでしょうか?その例を見てみましょう。
ここでもTerraの特徴である「複雑さを単純さに変える」というものが見えてきます。数秒のうち、デジタルマネーはフィアットとクリプトの間を飛び越え、終着点に到達するのです。
Chaiはその明確な利点により確かなトラクションが出ています。2020年には250万人のユーザーの間で20億ドルの取引が行われました。ナイキの韓国支社を含め、2,000以上の加盟店がChaiを利用しています。
これは驚くべき数字です。サービスにアクセスするためにクリプトを気にする必要のない何百万人ものユーザーを蓄積しているブロックチェーンベースのプロダクトは他にほとんどないでしょう。確かにMetamaskは2,100万以上のアカウントを誇っているかもしれませんがイーサリアムウォレットを開く人は誰でも、ある意味ではクリプト業界に参加していることになります。Chaiが素晴らしいのは人々を知らないうちにweb3経済に引き込む能力があることです。
とはいえ、まだまだ道のりは長いといえます。250万人のユーザー数は決して少なくはなく過去11ヶ月間で確実に増加していますが、韓国のWeb2サービスの多くに比べると遅れています。市場をリードするKakaoは、2020年に3500万人のユーザーを獲得し、560億ドル以上を処理しました。第2位のNaverは2,800万人で220億ドルを処理しています。Chaiはこの2つに比べてかなりの差があります。
ただ、この問題は時間が経てば問題は解決されるかもしれません。というのもTerraを利用した決済システムはChaiだけではないからです。同社は韓国で事業を開始して間もなくモンゴルの企業であるmemeChatと提携し、同様のことを実現しました。この提携により、モンゴルのタクシードライバーはmemeChatを介してTerraを利用してより迅速に支払いを受けることができるようになりました。
このように、Terraにはさまざまな金融アプリケーションが集まってきています。このような活動はTerraform Labsによって加速度的に増えていきます。
3.1 Terraform Labs:エコシステムの種まき
クォンとシンの作品はTerraform Labsという親会社の下に置かれています。同社はTerraのブロックチェーン開発、USTのようなステーブルコインのフリート、決済システムChaiの構築を担当しており、2018年から独自に資金調達も行っています。
TerraformはTerraの製品の成功に重要な役割を果たしています。同社は資金を提供するだけでなく、エコシステムが必要と考えるソリューションを積極的に構築しています。Chaiはその一例ですが、数年前から他にもいくつかのソリューションが登場しています。
それらを紹介する前に、このアプローチがいかに珍しいものであるかを指摘しておきましょう。Terraのようなベースレイヤーのブロックチェーンは通常、エコシステムを意図的に構築するのではなく有機的に出現するのを好んでいます。その点、Terraは自分自身が最初で最高の顧客として振る舞えるようなプロダクトを作っています。こうした戦術はWeb2の巨人Amazonを思い起こさせます。
ベン・トンプソンが述べているように、ベゾスの帝国の延長線上にあるものの多くはこのレンズを通して見ることができます。AWS、フルフィルメントセンター、配送網などはすべてこのヒューリスティックに合致します。Amazonはこれらの製品を自社で開発・利用していたため、他社に開放することができたのです。
Terraformの創造物はこの論理を共有しています。Terraブロックチェーンは、Terraの技術や通貨を利用して作られたプロダクトから利益を得ますが、他の人々はこれらの「プリミティブ」を利用してそれらを前進させることができるでしょう。
この仕組みを理解するために、Terraformの最も重要な作品をいくつか紹介します。「Terra Station」「Anchor」「Mirror」です。
3.2 Terra Station
お金を貯めるには場所が必要であり、それを実現するTerraのソリューションがStationです。これはTerraformの他の発明に比べると画期的ではありませんが、非常に重要なニーズを満たしています。
ユーザーはStationを介してLunaを保有したり、USTや他のTerraステーブルコインと交換したり、バリデータにステーキングをしたり、ガバナンスに参加したりすることができます。つまり、Terraのエコシステムとの関係を管理するためのシンプルなハブなのです。To The Moon Capitalのパートナーであるジェイソン・ヒッチコックは、Stationを利用したときの印象を次のように語っています。「取引は瞬時に行われ、(ほぼ)無料です。普通のアプリを使っているような感覚でした。」
より複雑な製品が機能するためには基本的な部分がカバーされている必要があります。Stationはそれを実現しているのです。
3.3 Anchor
今年の3月、Terraは「貯蓄」への回答として「Anchor Protocol」を発表しました。
Terraの他のプロダクトと同様にAnchorもシンプルに使えるように設計されており、マスアダプションを目指しています。Anchorにステーブルコインをステークすることで、ユーザーは20%近い利子を得ることができ、そのLPトークンは他のPoSブロックチェーンの借り手に貸し出されます。これは、他の利回りを稼ぐプラットフォームほど高くはありませんが、国内平均金利の0.05%よりもはるかに高く、しかも安定しています。これはDeFiの世界では非常に斬新なことです。通常、利息は大きく変動することがあり、ユーザーは最高のリターンを求めてプラットフォームを渡り歩くことになります。しかしTerraはこの信頼性を提供することで、Anchorを安全で長期的なカストディアンのように感じさせます。
また、Terraはユーザーフレンドリーなインターフェイスを採用しており、稼ぐ、借りる、ポジションを確保するなどの操作が簡単にできます。
今のところ、Anchorはかなり成功しているように見えます。Anchorはサービスを開始してから9ヶ月間で、TVL(Total Value Locked)というプラットフォーム上の資産の評価基準が51億ドルに達しました。この指標でAnchorはYearn FinanceやSushiを抜いて、DeFiの第8位のプレーヤーとなっています。
また、Terraのエコシステム全体では約100億ドルがロックされています。
また重要なのは、Anchorが単なるC向けの製品ではなく、開発者にも提供されていることです。AnchorのオープンソースSDKを使えば、他のクリプトプロジェクトは簡単に「Savings-as-a-Service」を自分の製品に統合することができます。新しいクリプトウォレットの開発者は、10行のコードで、Terraと直接やりとりすることなく、ユーザーベースに同じ20%のリターンを得られるようにすることができます。
PylonはAnchorを利用することで何が構築できるかを示す好例と言えます。Pylonでは、サービスにお金を払う代わりに、自分の「ステーク」を他の人に委ねるだけで、Anchorの利回りを得て利益を得ることができます。元本を引き出すこともできます。つまり、あなたが「使った」資金は、利息という形でしか得られないのです。
この仕組みはスタートアップ企業の資金調達にも応用できるかもしれません。アーリーステージの企業を支援するために100万USTを「使う」のではなく、その金額を出資することでチームは年間20万USTを得ることができます。また、エクイティシェアを持ちながら、元本を引き出すこともできます。
しかし、その可能性にもかかわらず、Pylonのサービスはまだ本格的に普及していません。このソリューションのネイティブトークンは急落しており、アーリーアダプターは初期の忠誠に見合うだけの報酬を得られていません。しかし、クリプト分析プラットフォームFlipsideのCEOであるデイブ・バルターはPylonの将来性を信じています。
3.4 Mirror
TerraのRobinhoodに対する回答は、Mirrorという形で現れます。このプラットフォームでは、ユーザーはFTXを彷彿とさせるような合成資産を取引することができます。
理論的には、これらの資産は、株式、ETF、コモディティなどほとんど何でもあります。実際には、Apple, Tesla, Alibaba, iShares Silver Trust, Invesco QQQなどの合成資産バージョンを提供しています。
従来の取引所と比較してMirrorにはいくつかの明確な利点があります。具体的には、24時間365日営業していること、国境がないのでどんな株式でも理論上は利用可能であること、細分化が簡単であること、取引が迅速であることなどです。今年のサービス開始後、ユーザーはすぐにこのプラットフォームに集まり、毎日2,000のアカウントが登録されました。
しかしその一方で、規制当局はこのプラットフォームを歓迎していません。クォンがMessariのMainnet Conferenceに登壇している間に彼はSECから書類を受け取りました。規制当局の主な関心事の1つはMirrorでした。クォンはこれに反訴という形で反論しました。これは迅速な和解を期待できる行動ではありませんが、決意のこもった強力な声明と言えます。
今のところMirrorはTerraの星座の中で明確な星であることに変わりはなく、Anchorと同じようにそれを原型として新しいプロダクトも作られています。例えば、トレーディングプラットフォームを利用した資産運用プラットフォームSparなどがその一例です。
3.5 Prism
まだリリースされていませんが、PrismはTerraformの最も革新的な製品と言えます。この新しいプロトコルにより、ユーザーは資産を元本と利回り成分に「プリズム」させることができるようになります。例えば、Lunaは、プリンシパルを表すpLunaと、イールドを表すyLunaに分割することができます。
資産を分割することで、新しいユースケースが可能になります。例えば、流動性を必要としている人は、自分の資産の将来の利回り、つまりyLunaを売ることができます。同様に、流動性リスクのない利回りの高い資産が欲しいと考えてpLunaを購入することもできます。事実上、Prismは金利スワップのためのツールを作成しているのです。
このようにTerraは金融商品を「レゴブロック」に見立てて、異なる商品を組み合わせることに成功しているのです。これがPrismにも当てはまるとShigeoは説明します。
3.5 Ozone
最後の参入者としてふさわしいのは、Terraエコシステムのための保険商品であるOzoneです。これはまだ稼働していませんがパズルの重要なピースとなります。
Ozoneは、参加者が保険を売買できるマーケットプレイスとして運営されます。クォンによれば、これらの保険商品は「Terra DeFiエコシステムにおける技術的障害のリスク」をカバーするように設計されています。具体的には何らかの理由でユーザーが自分のLunaやUSTにアクセスできないようなエラーが発生した場合、Ozoneが潜在的な損失を補償します。
これは非常に巧妙な追加機能であり、特にTerraエコシステムがより活発になっています。Ozoneでカバーされている限り、新しいTerraのdAppを試すことにはほとんどリスクがなく、たとえそれが失敗してもあなたの持ち分は安全です。要するに、Ozoneの存在は実験の効果的なコストを下げ、Terra上での構築を容易にし、ユーザーを惹きつけることができます。
Ozoneの最初の大きな顧客の一つはテラの初期の投資家であるマイケル・アーリントンです。彼のArrington Anchor Fundは、機関投資家の資金を、Ozoneによって担保されたAnchorプロトコルに投入します。LPは追加の保護を受けながら20%の利子を受け取るチャンスを得ることができます。
今月初め、TerraはOzoneが外部の第三者によって管理されることを発表しました。具体的には、DeFiプロトコルに保険を提供しているRisk Harborが管理を行っています。プレスリリースの中でクォンは次のように述べています。
これは、Terraformが自身をどのように運営したいかについて多くのことを語っています。より多くの力を求めるのではなく、自らを分散させ、エコシステムが引き継ぐことで消滅させようとしているのです。そのスピードはますます速くなっています。
4. Terraformを超えて:千の花
"Terraエコシステムでは、新しいプロジェクトが立ち上がるスピードが驚異的です。"
Shigeoのこの意見は多くの人に支持されています。Terraformは多くのファンに支持され、今まさにブレイクの兆しを見せています。
それは、先日リリースされたTerraの基幹システムをアップグレードした "Columbus-5 "のおかげでもあるようです。"Col-5"は、USTとLunaの関係をシンプルにし、間近に迫ったOzoneのローンチのための基礎を作り、USTのようなTerraのプロダクトが異なるブロックチェーンで動作することを容易にしています。ジェイソン・ヒッチコックが指摘したように、Columbus-5のアップグレードは立ち上げの最中にある160以上のプロトコルのために行われました。
こうした技術的なアップグレードに加え、Terraはエコシステムを活性化させるために資本を投入しています。7月、チームは1億5,000万ドルを調達し、Terraの上に構築されるプロジェクトにそれを投入することを発表しました。この資金は、Arrington Capital、Galaxy Digital、Hashedなど、Terraのエコシステムではおなじみの企業からのものです。
ここからは、Terra上のプロジェクトの中でも特に有望なものをご紹介します。
4.1 Mars
Delphi Labs、IDEO CoLab、Terraformなどのジョイントベンチャーで開発されたMarsプロトコルは、Terraに新しい金融サービスをもたらします。具体的にはTerraの社員の一人であるジェフ・クアンが言うように、Marsは「インターチェーン・レンディング・プラットフォーム」として運営されます。
Martian Councilによって管理されるMarsは、貸し手がステークされた資金から利息を受け取る新しい方法を提供し、担保の有無にかかわらず借り手に資産を開放します。Marsチームの主要な技術革新の一つは、市場の状況に応じて利回りが変化する「反応型金利」の導入です。
ルナティックのPapiは、Marsに対する強気のテーゼを語ってくれました。
Marsは将来的に完全な機能を備えた分散型銀行になるとの構想も明らかにしています。
4.2 Astroport
同じグループが、Terra上に構築された分散型取引所であるAstroportの責任者でもあります。エコシステムの成長に伴い、固有の「Automated Market Maker (AMM) 」の必要性も拡大しています。Astroportは、Terraに由来するUniswapやPancakeSwapのような存在です。DelphiのTwitterアカウントであるFlood Capitalによると、Astroportの登場は重要であるといいます。
Flood Capitalが説明するように、AstroportはTerraエコシステムに新しい機能をもたらすだけでなく、USTのようなステーブルコインの需要を増加させています。
4.3 Levana
Terraのエコシステムに加わったこのプロジェクトについて、ジェフ・クアンはまたしても私のお気に入りの説明をしてくれました。
基本的にLevanaは、Marsを使ってTerraに2倍のレバレッジをかけます。例えばユーザーは、ただLunaを購入するのではなく2x Lunaを購入することができ、トークンの価値が上がれば2倍のリターンを得ることができます。
将来的にLevanaはインデックストークンを含むあらゆる資産にレバレッジをかけていく予定です。また、MarsやAstroportと同様にDelphi Digitalがインキュベートしています。トークンの50%をコミュニティとトレジャリーに割り当てることで、Levanaは真のDAOとして運営されることを目指しています。
4.4 ネオバンク
Terraは、広く普及するプロダクトを作るということに常に異常なほど注意を払ってきました。ChaiもmemeChatとの提携も、この目的のために考えたものです。しかし前述したように、USTをはじめとするTerraステーブルコインの実世界での利用拡大はこれらのプロダクトだけに依存しているわけではありません。むしろ、Terraの技術を手段として活用したプロダクトが続々と登場しています。それが特に顕著なのがネオバンクの分野です。
2021年に設立されたAlice Financeが最もよく知られているかもしれません。米国に拠点を置くこの企業はすでに200万ドルの資金を調達し、VenmoとAnchorの中間のような運営をする消費者向けの銀行を作りました。P2Pの支払いをシームレスに行うことができるだけでなく、アプリ内の保有資産に対して20%の利息を得ることができます。
目立たない存在ではありますが、Seashellも同じような戦略をとっているようです。情報は限られていますが、同社は10%のAPYを提供すると公言しており、Anchorから利回りを引き出していると言われています。ある情報筋によると、この会社はKhoslaとKindredという企業から資金提供を受けているとのことです。
Terraエコシステムの責任者である0xwagmiは、このようなプレイヤーが時間の経過とともにたくさん出てくることを期待している、と述べています。
KadoはTerraのエコシステムへのオン/オフランプの構築を支援するもう一つの会社です。彼らはネオバンクというよりは支払いの改善に焦点を当てており、インターネット上でステーブルコインを簡単に使えるようにしています。同社のウェブサイトには、貯蓄に関する商品の開発に取り組んでいることも記されています。
4.4 ゲームとNFT
この予言は、先ほどのエコシステムのリーダーである0xwagmiによるものです。Terraはゲームや、それに関連してNFTにも波及しているようです。
Terraの初期の投資家の一人であるHashedは、ここで大きな役割を果たすことが期待されています。同社のクリエイティブスタジオであるUNOPNDは、Terraのエコシステムのために「Play to Earn」を含む5種類のゲームを開発していると言われています。
また、他のゲームパブリッシャーもTerraに参入しています。先週、クォン氏は、Gameville社が「Summoners War」などのタイトルをエコシステムに提供することを発表しました。
Terraの公式ツイッターは、これによりNFTの関連商品の需要が高まると述べています。
これは、TerraオリジナルのマーケットプレイスであるRandom Earthにとっても好材料となるだろう。Random Earthはまだ設立されて間もないですが、Terraのエコシステムに特化したOpenSeaのようなものとして運営されています。このプロジェクトの創始者であるStargazerは、Terraをベースにした理由を次のように語っています。
個人的にはStargazerの決断はとてもタイミングが良かったと思います。なぜなら、Terraと韓国の巨大企業Naverとの合弁事業に関与していると思われるからです。Naverのメタバース・プラットフォームであるZepetoは、Terraのエコシステムのためのゲームを制作しており、最近、Random EarthのYouTubeチャンネルで紹介されました。
韓国版メタバースへのポータルは、Terraのエコシステムの中にあるのかもしれません。
4.4 その他
他にもTerraを使った興味深いプロジェクトは数多くあります。このトピックに多くの時間を費やすことなく、そのうちのいくつかについて知っておく価値はあるだろう。
White Whale
これは特にエキサイティングなものです。ユーザーはWhite Whaleを利用すればUSTの価格変化を使って自動的に裁定取引をする方法を提供します。また、他の自動売買戦略も提供する予定です。このような活動にアクセスできるようにすることで、White WhaleはTerraのエコシステムに多くの参加者を呼び込み、効果的に "ペッグの分散化 "をすることができます。Angel Protocol
"Give once, and give forever "がAngelの前提となっています。Anchorの利回りを活用して、Angelは慈善団体が高いリターンのある基金を簡単に設立できるようにします。寄付された資金は無期限に十分あ利回りを生み出し続けることができます。Nexus
このプロトコルは、MirrorとAnchorの高度な利回り戦略を運用することを目的としています。重要なのは元本割れのリスクを排除することです。ジェイソン・ヒッチコックは、このプロトコルがUSTに対する需要を高め、より高いリターンをもたらす可能性を強調しています。Nebula
その名の通り、NebulaはTerraに資産の「クラスター」をもたらします。ユーザーはETFのように特定のテーマを表すクラスターを購入することができます。Sigma
SigmaはRandom Earthが開発したオーダーブック技術を活用して、オプション取引をTerraに導入します。Orion Money
Orionを通じて、ユーザーはあらゆるステーブルコインに対して20%のAPYを得ることができます。つまり、Tether、USDC、USTをプラットフォームに預けても、同じリターンが得られるということです。また、Orionでは、保険商品を通じて元本投資を保護する方法も提供しています.Suberra
Delphiのもう1つのプロジェクトであるSuberraは、企業がステーブルコインで定期的な支払いを受けることを容易にします。例えば、Suberraを使えば、The GeneralistはUSTで年間購読を受け付けることができます。Valkyrie
PapiによるとValkyrieは、「デジタルマーケターとプロトコルファンディングキャンペーンのWin-Winの関係」を実現する可能性を秘めています。このプロトコルにより、紹介者は直接・間接的なコンバージョンに対して報酬を得ることができます。
このような活動の欠点があるとすれば、それは資本が薄くなりすぎていることかもしれません。Shigeoはこの点を指摘し、次のように述べています。
Terraのエコシステム・ファンドは資本が最もインパクトのあるプロジェクトに向けられることを保証するものです。そして消費者がそれに追随することを期待しています。
5.1 Terraを理解する:YCか、シンガポールか
ここまででTerraのプロダクトおよびプラットフォームとしての理解が深待ったと思います。具体的には、Terraがどのようにお金をより良くしようとしているのか、そのイノベーションがどのような機能を発揮するのかを説明してきました。
しかし、Terraが行っていることをどのように考えればよいのでしょうか。また、Terraを構成しているのはなんなのでしょうか?
機械の仕組みを理解するためには、機械の歯車の中を歩くことが不可欠ですが、同時にその目的を把握する必要があります。時計に例えれば、小さな針が円を描くように動くだけではなく、時間を刻むことが重要なのです。
私たちが知っているTerraの知識を総合し、1つ上の層を把握していきましょう。
5.1 マネー・レゴ
Terraを「マネー・レゴの提供者である」と理解することが、Terraを真に理解するために良い方法だと言えるでしょう。
Shigeoらが述べたように、Terraは基本的にコンポーザブルな金融インフラを構築しています。例えば、USTは為替の媒体ブロック、Anchorは貯蓄ブロック、Mirrorは合成投資ブロック、Prismは金利デリバティブブロック、Ozoneは保険ブロックです。
外部の人は、Terraのセットに自分のブロックを追加したり、既存のピースを使って新しいものを作ることができます。例えば、AliceはUSTとAnchorのブロックを箱から取り出してネオバンクを作り、Angelは同じ組み合わせで新しい機能を付け加えて慈善基金を作り、SparはMirrorブロックを加えて資産管理ソリューションを強化しています。
この見方は、基礎となるプロダクトを自社で開発するというTerraのアプローチを理解するのに役立ちます。つまり、少なくとも数種類のブロックがなければ何も作ることはできないということです。このようなプリミティブをエコシステムに投入することで、Terraは他の企業が独自の製品を作りやすい状況を作り出しているのです。
5.2 Y Combinator
Terraのもうひとつの特徴は、クリプト版Y Combinator (YC) と呼ばれていることです。最も著名なインキュベーターであるY Combinatorはスタートアップのエコシステムの成長において主導的な役割を果たし、過去10年半で最もインパクトのあるビジネスを生み出してきました。
1億5,000万ドルのエコシステム基金はその方向への一歩であり、多くの初期プロジェクトは前述のように期待されています。もちろんYCがスタートアップ企業に対して行っていた役割をTerraがオンチェーンで果たしたと合理的に言えるようになるにはまだまだ長い道のりがありますが、この見方はTerraのボトムアップの精神の一端を捉えています。
0xwagmiは、1年後、5年後、10年後にTerraがどうなっていることを望んでいるかという質問に対して、次のように答えています。
5.3 国民-国家
議論の中でド・クォンは何度もシンガポールに言及しました。特にシンガポールの建国者であるリー・クアンユー(LKY)を「アイドル」と称して頻繁に言及していました。
彼が最も尊敬していたのはシンガポールが発展するためのインセンティブを与えた彼の功績でした。彼は、気温が高い熱帯性の気候であったこともありビジネスの拠点になりにくかったシンガポールで、ビジネスに適した強力な法治国家、公正な官僚制度、有利な税制などの好条件を整えました。
クォンは、「シンガポールが非常にうまくやったことの1つは自身がプラットフォームであることを理解したことです。帝国は、ユーザーを引き付ける方法を考えません。」と述べています。
クォンはTerraについても同様に考えています。Terraは草の根的な革命を目指していますが、初期の"ポリシー"は必然的にトップダウンです。通貨の仕組み、マーケットモジュール、国庫など、プロジェクトが語る言葉には国家の言葉が多用されています。特にTerraは中央銀行のような役割を果たしているようで、最も有利と思われる方法で進歩を促しています。
(クォンは、テラが政治的な後押しなしに機能していることを強く指摘しています。政府が貯蓄率を設定することについて、彼は「政治的な金利設定はドルの貯蓄機能にとって大きなバグであるだけでなく不道徳だ」と述べています。)
さらにクォンは、ユーザーを惹きつけ進歩を促すためには理想的な条件を整える必要があると理解しています。
その一環として、Terraチームはシステム上で構築されるあらゆるプロジェクトを支援することを約束しています。具体的には、Terraは既に、Terraを利用している人は昼夜問わず電話でアドバイスを受けられるという取り組みを発表しています。
もう一つの要素は、Terra自身のミッションとしてそのプラットフォームの改善を急速に進めていることです。「私たちは常に、業界で最も早く改善・ローンチすることを目標にしています」とクォンは語ります。
少なくとも、Terraが自らを近代国家とみなしていることは明らかです。その考えは、優先事項、文化、そしてその未来にも影響を与えているようです。
6. デススパイラル:リスクと規制
もちろんTerraには失敗する可能性があります。
Terraはあらゆるプロジェクトと同様に、技術の複雑さ、不安定な世界情勢、規制の不確実性が絡み合いながら動いています。しかし、このセクターにはこのような固有のリスクがあるにもかかわらず、Terraは特別なケースのように感じられ、脆弱であると同時に特に強固であると考えられます。
それではまず、Terraが失敗するシナリオを見ていきましょう。
6.1 アルゴリズムを用いたステーブルコインの失敗例
今年の5月下旬、暗号通貨市場は混乱を起こしました。同月19日にはビットコインが30%下落し、市場全体もそれに伴って下落しました。その後、Lunaは打撃を受け4.10ドルの価格まで下落しました。これは1週間前に比べて75%も下落したことになります。
投資家がLunaを信用しなくなったことでUSTの需要も後退しました。これにより、USTの価格は1ドルのペッグを下回り、保有者はUSTをLunaに交換することになりました。これによりUSTの保有者はLunaの需要がなくなったときに、実質的にLunaを増産したことになります。その結果、Lunaの価格はさらに下落し、悪循環に陥りました。このままでは破綻してしまうのではないかとの声もあっがりました。
このようなリスクは「デス・スパイラル」と呼ばれ、アルゴリズムを用いたステーブルコインに共通するものです。実際これらを「失敗するように作られている」と指摘する学者もいます。彼らは別の資産に裏付けられていませんが、セカンダリートークンによって暗黙のうちに保証されています。USTはLunaによって担保されているわけではありませんが、後者が前者を支えているという感覚は間違っていません(そしてその逆もまた然り)。疑似リザーブトークンに対する信頼が失われると取り付け騒ぎが発生する可能性があります。
このような動きは他のプロジェクトでも見られます。6月にはTitanというプロジェクトがデススパイラルに巻き込まれました。TitanはTerraと同様にアルゴリズムを用いた2つのトークンシステムで運営されていました。彼らのIronトークンは、75%のUSDCと25%のTitan自身のトークンでバックアップされたステーブルコインとして機能していました。Titanの価格が下がり始めると、Ironの価格も下がりました。アイアンの保有者は、0.90ドルのトークンを0.75ドルのUSDCと0.25ドルのTitanと交換することで裁定取引を行い、その過程でTitanがさらに鋳造され効果はさらに悪化しました。最終的にTitanの価値は0ドル近くまで下がったのです。
しかし、同じアルゴリズムステーブルコインでも、TitanとTerraの比較は不公平と言えます。後者にはより強固な安定化機能、精鋭の創業チーム、そしてクリプト業界で最も活発なコミュニティの1つがあります。また、Terraは市場の内外を問わず数百万人に利用される製品を開発してきました。
これらすべてがTerraが恐怖の5月を乗り越えるのに役立ちました。CoinGeckoによると、USTの最安値は0.96ドルでしたが、他の情報源によるとさらに下落したようです。いずれにしても、USTはペッグを取り戻すことに成功し、Terraのシステムが急落を乗り切ることができることを証明しました。Lunaのスライドが止まり、Terraのアルゴリズムが船を正しい方向に導いたのです。
もちろんこれからもテストは続きます。クォンはUSTの最大の防御手段を蓄積された需要であると考えています。Chai、memeChat、Anchor、Mirror、そしてそれを活用した他の多くのプロダクトのおかげで、USTは強固なユーザーベースを持ち、急速に成長しています。たとえLunaが衰退したとしても、その成熟したUSTの需要は蒸発しないでしょう。
この点について、Delphi DigitalのCTOであるルーク・サンダースは「USTを中心に構築されたユーティリティは、他のステーブルコインにはない大きな安定化効果を持っている。」とまとめています。
クォンはデススパイラルを懸念する人々を否定していますが(好きな言葉は「バカ」や「ゴキブリ」など)、彼はUSTにさらなる補強を加えるための措置を講じているようです。最近のツイートでは、予備資産がTerraにやってくると言っています。
最終的にはこのリスクがTerraに織り込まれているように感じる人も多いでしょう。完全に安全であれば、Lunaの価値は数桁上がるかもしれません。
6.2 規制、取り締まり
クォンの大胆な態度はTerraに批判する人にだけではなく、規制当局に対しても同様ですキム・ベクが言うように「彼は規制当局に指を立てるのが好き」なのです。
それを如実に表しているのが、Mainnet conferenceで受け取った書類に対してSECを訴えるという決断です。このカウンターパンチはクォンがSECの召喚に応じることから解放されることを目的としています。
これはクォンの性格に忠実な行動のように見えますが、賢明ではないかもしれません。しかし、クォンは法的な補償の可能性について前向きに考えていました。「現在の規制環境では、おそらくそうなるでしょう。」
彼はこう続けます。
既存のシステムをこれほどまでに破壊しようとすれば、規制面での課題が出てきます。これは担い手たちが対処しなければならない課題です。
私は彼らのこの姿勢を聞いて、2つの明確な反応せざるを得ませんでした。
大胆不敵で素晴らしい
卓越した規制チームを編成すべき
Terraの非中央集権原理に反していますが、Coinbaseはここでのモデルとなります。Coinbaseは破壊的イノベーションに繊細さをもたらすことができる専門家のチームを構築することで真に規制のMoatを築いてきました。
多くの点で、Terraは規制措置から利益を得るための体制を整えているはずです。サンダースはこのように説明しています。
さらにサンダースは、USTがUSDCやテザーを抜いて最大のステーブルコインになれるかどうかは規制当局がこれらの中央集権的な競争相手に対してどのような措置を取るかに大きく左右されると付け加えています。
おそらくこのことと、彼が韓国人であることが、クォンがSECに一矢報いる力を感じている理由なのだろう。しかし、たとえTerraがその分散性のために本当の意味での検閲を受けられないとしても、規制によってそれが破壊される可能性があることは確かです。
最も被害が大きいのはメインストリームへのアクセスが遮断されることでしょう。ユーザーがTerraを売買できなければ、メインの機能が大きく阻害される可能性があります。おそらくこの種の動きはAliceやSeashellのようなビジネスも停滞させるでしょう。
チームの人脈を考えると、そのようなシナリオであっても韓国でTerraが抑制されることはなさそうです。最悪の事態になったとしても韓国での運営はある程度は守られるでしょう。
クォンは間違いなくこれらのシナリオをゲームのように考えていると思います。ルナティックは、規制に対しても彼の立派な献身さと機転が利くことを期待しています。
6.3 取引処理速度の向上
Terraが成長するにつれて取引の処理速度が低下するというリスクがあります。Terraがメインストリームを目指していることや、既存の幅広い使用状況を考えると、これは特に心配になるかもしれません。多くの新しいプロジェクトが立ち上がろうとしている中で、そのような懸念が前面に出てくる可能性があります。
しかし、Terraはこのような潜在的なリスクを考慮しているようです。まず、TerraはTendermintと呼ばれるCosmosのプルーフオブステークの仕組みを使って作られています。Tendermintでは1秒間に1万件の取引が可能ですが、Terraがこの数字を達成することは当面なさそうです。クォンは以前、Terraは現時点で1秒間に最大1,000件の取引を処理すると述べていました。
第二に、Terraは資本を改善に充てています。「Project Dawn」では、雇用、パートナーシップ、その他のイニシアチブを通じて、インフラのアップグレードに10億ドル以上を費やすというチームの意向が発表されました。0xwagmiは次のように述べています。
サンダースはこれを見て安心したようです。
6.4 限られたマインドシェア
Terraは過小評価されているのではないでしょうか?Terraは時価総額が世界で13番目に大きいプロジェクトです。Uniswap, Axie Infinity, Stellar, Aave, Filecoin, Helium, Sushiその他多くの有名プロジェクトを凌駕しています。実際に目に見える形で使用され、主流となっており、カリスマ的なリーダーがいて、プロダクトが続々と登場しています。
なぜもっと話題にならないのでしょうか?
それはその成り立ちに起因するところがあると言えるでしょう。これまでTerraはアジア市場を中心に活動してきたため、欧米の人々にはその広がりや影響力があまり知られていないのです。しかし、Terraの最大の拠点のひとつがポーランドにあるように、Terraが広がっていけばその状況も変わっていくでしょう。
またもうひとつの理由はTerraがマーケティングを一切行わないことです。彼らはその代わりに自分たちが生み出す価値によってコミュニティを構築したいと考えています。確かにその価値に焦点を当てることは正しいことのように思えますが、Terraはもっと独断的に普及活動を行うことができるのではないかと考えるのは当然のことでしょう。
0xwagmiは「エコシステムにはもっと優れた人材が必要だと思います」と語りました。
また、デイヴ・バルターは「Rustの開発者が不足しており、エコシステムの拡大速度が遅くなっているのではないか」とコメントしています。
万能ではありませんが、マーケティングによって開発者やその他の貴重な貢献者を集めることは可能です。Terraは優れた才能を有意義に引き出す機会があると考えればマーケティングに対して自らを閉ざしてはなりません。特に供給が不足しているときにおいてはなおさらです。複合効果は、どんな費用も相殺してくれるはずです。
7. Crypto Steve Jobs:Terraのユニークな強み
私たちはすでにTerraが特別で興味深いものであることの多くを強調してきました。しかし、Terraのブルケースに貢献するためにも他にいくつか取り上げるべきトピックがあります。おそらく最も重要なのはクォン自身です。
7.1 ド・クォン
クリプトはイデオローグを惹きつける傾向があります。非中央集権の福音を信奉する人の中には、妥協を許さず代替案を検討することができない思考停止の人がいます。
しかしド・クォンはそのような人ではありません。彼は信者のように献身的でほとんどの政府を基本的に邪悪なものと見なしているようですが、卓越した知性と冷静さ、そして先見性を持っています。また、彼はリーダーとしての才能にも恵まれているようで、Terraのコントリビュータたちを活気づけ、プロジェクトのビジョンを力強く表現することができています。クォンは、過去100年の偉大な発明家の一人を思い起こさせるような厳格な基準を持つ非常に激しい人物です。
0xwagmiは彼をこう語っています。
軍隊に所属していたこともあってか、経営陣は武闘派と言われています。また、0xwagmiからの引用です。
あまりにもしっかりとした支配者にはデメリットも多いのですが、クォンはそのラインのちょうどいいところにいるように思います。彼はTerraの心臓部であり、彼の猛烈なモチベーションは素晴らしいものであると考えられまし。さらに、彼はTerraを推進するためにはどちらかというと容赦ないかもしれませんが、コミュニティに対してはソフトなアプローチをとり、新規参入者を歓迎し、彼らが軌道に乗るようにサポートしています。
最後に、クォンが明らかにお金以上のもので動いていることも注目に値します。彼は「この旅で億万長者になるつもりはありません」と語っています。
7.2 コミュニティ
私が話を聞いた関係者は、Terraのコミュニティが重要な強みの一つであると述べていました。Stargazerによると、
これにはクォンが重要な役割を果たしていることは間違いありません。Stargazerもこの点を強調していました。
コミュニティが強い理由のひとつは真の信頼を得ているからでしょう。Terraは今年の初めに、エコシステムの発展を目的とした「Project Surge」を発表しました。このプロジェクトではコミュニティのメンバーがTerraをさまざまなチェーンに広めることを奨励しました。メンバーは、DeFiプロジェクトやプロトコルのロングテールに参加しそれらについて学び、Terraの導入を提案することが奨励されました。このような働きかけがTerraがいかにコミュニティを活性化し、意味のある仕事を与えられているかを示しています。
結果的にTerraのコミュニティは成長しているようです。過去1年間のコントリビュータ数とコードコミット数を見ると、どちらの指標にも意味のある成長が見られます。
この傾向は素晴らしいものですが、もちろんまだ改善の余地があります。例えばSolanaのコードコミット数は7.5倍です。
7.3 マルチチェーンの未来のために
Terraは独自のレイヤー1インフラを運営していますが、他のチェーンに取って代わられたとしてもプロジェクトは成功します。実際、Terraには複数のチェーンが存在し、多くのトラフィックを受け取る未来のために作られています。
それは、Terraの最も重要な製品がコアインフラではなく、ステーブルコインだからです。USTの普及はTerraの優先事項であり、チームは積極的に他のチェーンへの普及を望んでいます。Terraチームのメンバーである0xwagmiはこう説明しています。
この行動を促進するため、Terraはチェーン間のブリッジ構築にリソースを費やしています。
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おそらく他のどのプロジェクトよりも、Terraはクリプトの主流になることを目指しています。彼らはボンネットの中で起きていることを理解することに興味のない人々に、その特別な利益をもたらすことができます。実際にChaiではその能力がすでに証明されています。新しいプロダクトは、プラットフォームの「ネーレゴを並べる方法を無限に拡大し、目まぐるしい可能性を開いています。
それが私たちをどこへ導くのか?それは誰にもわかりません。
しかし、何百万人もの人々がTerraを使って生活を営むことは決して考えもつかない絵空事のようなものではなく、そのような世界が私たちが思っている以上に近いことを示しています。私たちはやがて、Terraで何が起こっているかわからないまま、近所の店にUSTで支払い、Anchorで貯金し、Mirrorで取引をするようになるかもしれません。そう考えるととても素敵だと思いませんか?
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