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太陽光パネルの発電量予測システムを開発、地球温暖化の解決を目指す:Nobest・石井宏一良

国内の太陽光発電の普及率は、2022年度の調査で6.6%(*1)。直近5年間で見ても、6%〜7%程度の間で推移しており、普及は思ったように進んでいません。

株式会社Nobestの代表である石井宏一良(いしい・こういちろう)さんは、太陽光の発電量を高い精度で予測できるシステムを開発し、太陽光発電の普及に向けた事業を進めています。

現在検証中の事業について話を聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。社会課題の解決に取り組むベンチャー企業を募集・採択し、メンタリングやネットワークによる支援などを通じてビジネスモデルの磨き上げと事業拡大を支援するプログラムです。KSAPの詳細はこちら


石井さんが開発した、発電量予測システム

石井さんはこれまで、技術開発系の企業3社でハードウェアやソフトウェアのエンジニアリングに約15年従事してきました。

そして2022年にNobestを創業。太陽光パネルを設置したときの発電量と、電気の需要予測を精度高く導き出すシステムを開発しました。

これを、太陽光パネルの販売事業者などに活用してもらうことで、太陽光発電の普及を図り、地球温暖化の防止につなげる狙いです。

「気象庁や日本気象協会が提供している10年分の気象データを、AIや量子コンピュータを用いて構築した自社のアルゴリズムと掛け合わせ、発電量を導き出します。現在は太陽光パネルを販売する事業者や不動産デベロッパーとやり取りをしながら、検証を進めているところです」(石井さん)

太陽光パネルの需要予測システムのイメージ

このシステムには、石井さんが個人で2020年に取得した特許(特許第6995402号が利用)が活用されています。

「Nobestの創業以前に、IoTデータとAIを活用した天気予測システムを考案し、特許を取得指定ました。A地点が雨であるとき、隣のB地点は晴れなのか、それともA地点と同じように雨なのかといった天気の相関性を予測する技術です」

当初はこの天気予測のシステムを応用した事業を構想していた石井さん。その1つがアウトドアレジャーの代替地の提案サービスでした。

例えば、目的地のキャンプ場が雨予報に変わった場合、晴れている別の地域のキャンプ場を提案するといった仕組みです。

そのほか、災害時の効率的な物資の配備計画に役立てるといったシーンも見据えて事業を検証していました。

KSAPに採択された当初の事業案

しかし検証を進める中で、「ニーズがないことがわかった」そうです。

「検証では、遊園地などのレジャー関係や不動産会社、食品メーカー、ゴルフ場予約サイトなどいろいろな業界の方々にヒアリングしました。最初の反応は良かったのですが、顧客が懸念していたことの1つが、代替地の候補の少なさです。例えばゴルフ場の場合、全ての市にあるわけではないので、天気が予測できたとしても、近隣の代替地を提案できないケースがあることがネックだとわかったんです。また、一般的な天気予報がすでにある中で、それを差し置いてこちらを採用する理由がないということも言われました」

こうした結果を踏まえて、チームメンバーと改めてディスカッションを重ねていく中で、石井さんは現在の事業へのピボットを決めました。

「ちょうど、並行して開発を進めていた電気の需要予測システムが出来上がったので、まずはその販売に舵を切ることにしました」

現在、石井さんは太陽光パネルの会社や不動産デベロッパーに対してヒアリングや営業を行いながら、改めて事業の検証をし直しています。

「太陽光パネルの営業の方々は、発電量予測のデータを営業ツールとして活用しているそうです。『この地域だとざっとこのくらい発電します』『電気代がこのくらい浮きます』という計算をして顧客に提案するのですが、そのときに使用するデータというのが、地域の平均値のようなものしかないそうなんです。精度としては高くないので、顧客の納得感を得られず苦戦しているとのことでした。

Nobestのシステムは、かなり高い予測精度が実証できているため、より効果的な営業ツールとして使ってもらえる手応えを感じています」

国内の生活を太陽光発電だけでまかなえるように

石井さんに、今後の展望を聞きました。

「まずは不動産デベロッパーに採択していただけるようステップを踏んでいきます。採択されたあとは、20年後、30年後まで使えるようにするにはどうしたらいいのかという課題を1つずつ潰していき、最終的には営業ツールとして欠かせないソリューションとして提供できるようにしたいです。

その次の段階では、太陽光パネルや蓄電池選定の課題を解決していきたいですね。どんな製品があって、自分のところには何が一番最適なのか、購入する側はわからないので、例えば価格と仕様で製品を比較検討できるようなサイトをつくるといいのではと思っています。太陽光パネルの代理店をやることも視野に入れています。

加えて、メンテナンスの問題もあります。設置したのはいいけど、皆さんメンテナンスってしたくないんですよね。電気代がいくら安くなるか、災害時でも電気が使えるか、そこにしか重きを置いていませんから。

例えば、パワーコンディショナーが壊れたけど、施工業者が潰れて、何を入れたのかが家主もわからないし、そのまま放置されているというニュースもありました。そうしたことを防ぐために、今、弊社では故障を検知するシステムをつくっています」

石井さんは、日本の人々が太陽光発電だけで生活できるようになるためのロードマップを描いています。

「そこまで行けたら、電気のインフラに頼らず生活できるし、エネルギー問題で苦しんでいる海外の人たちや、山奥で電気が届かない人たちにも届けられるんじゃないかなと思います。そのために、太陽光パネルの市場を盛り上げていきたいですね」

株式会社Nobestについて>

*1:令和4年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査 結果について(速報値)
図9-1 建て方別太陽光発電システムの使用率