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【追悼 渡辺雅弘】Girasoul ~聴く者の魂を揺さぶるヴォーカリストMamiと、パーカッシブなカッティングを得意とするギタリスト渡辺雅弘によるアコースティックデュオ 《第8話》

cover photo by Keiji Koizumi

第7話 ↓


2023年4月18日(火)

 Mamiから「突然だけど、雅弘がギターを弾けなくなったら、私にはどんなギタリストが合うと思う?」というインスタグラムのDMが届いた。雅弘の体調が悪いようで、6月に予定されているライブでギターを弾けるかどうかわからないという。雅弘の病状を聞き、思いついた候補者を伝えた。


2023年4月20日(木)

 Mamiとのやり取りを終えたあとからずっと、雅弘に連絡を取るべきかどうか迷っていた。最後に連絡を取ったのは、ライブ翌日の深夜(3月28日の午前1時ごろ)。体調がすぐれないときはスマホを操作することさえ負担になると思い、遠慮していた。
 それでも、なにか励ましの言葉をかけたいと思い、簡単なものを送った。元気なときに目にしても、わざわざ返信しなくてもいいような簡単なものを。

 45分ほど経ったころ、スマホがブルっと震えたので確認すると、雅弘からスタンプが届いていた。こちらもスタンプで返した。


2023年4月25日(火)

 9時すぎに起床。夜型人間なので、普段はもう少しベッドに潜っているが、この日はなぜかいつもよりも早く目覚めた。
 近日中に会う予定の友人たちとLINEでやり取りしてからインスタグラムを開くと、MamiからDMが届いていた。今朝、雅弘が亡くなったという。目の前が真っ暗になり、立っているのがやっとだった。

 しばらく経ってから、Mamiにお悔やみの言葉を送ろうとスマホを手に取るも、何と言ってよいのかわからず、入力しては消去、また入力しては消去するという行為をくり返す。結局「連絡ありがとう。お悔やみ申し上げます」というありきたりの言葉を送ることしかできなかった。

 その後も雅弘のことで頭がいっぱいだったが、まだ彼の楽曲を聴く気分になれない。ゴールデンウィークの連休前に仕上げておかなければならない原稿があったので作業に取りかかるが、少しでも集中力が切れると涙があふれる。


 ようやく雅弘の曲を聴けるようになったのは、日付が変わってから。酒を飲みながら、MVやライブ映像を再生。

 最も多く聴いたのは、前年7月に雅弘が送ってくれたレコーディング前のリハーサル音源「太陽」と「パーティは終わらない」。11月に鳥やすに行った翌日、LINEでリリース時期を尋ねると「誕生月の3月くらいに出したい」と言っていた。それが4月に延び、それも不可能になってしまった。最後に最高の曲を作っておいて、リリースする前にいなくなるなんて・・・。

 もらったリハーサル音源の中には「いびつ」という曲も入っていたが、ストレートに家族への愛を歌うその曲を聴くのはあまりにも辛く、一度しか聴くことができなかった。

 気がつくと空が明らんできたので、時計を見ると5時半。グラスに残っていた酒を一気に飲み干し、ベッドに潜り込んだ。


 夢を見た。近しい誰かが亡くなって動揺している。フラッシュバックのように多くの友人の顔が浮かび、その中には2023年2月14日に急逝したHi-STANDARD恒岡 章つねおかあきらの顔もあった。
 最後に雅弘の顔が浮かんだところでハッと我に帰ると、目の前に雅弘がいた。まだ病におかされる前の若々しい雅弘に「なんだ、夢か。雅弘が死んじゃった夢を見たよ。ごめん、ごめん」と笑いながら雅弘に謝ったが、彼は何も言わずに微笑んでいた。

 ガバっと目を見開いた。一瞬、自分がどこにいるのかわからず、ぼんやりした頭を整理して、夢を見ていたことに気づいた。
 インスタグラムを開き、雅弘の訃報を伝えるMamiからのDMを眺める。これも夢だったら良かったのに。


2023年5月1日(月)

 神奈川県の登戸へ。高校の同級生が住んでいた登戸には、上京直後に何度も訪れていたが(30年以上経っているので当然だが)すっかり再開発されていて、改札を出た途端にどの方向に進んでよいのかわからなくなる。スマホを頼りに5分ほど歩くと、喪服を着た人々の姿が見えてきた。

 斎場の前で、東京木曜會のyskとomelette、THE NEATBEATSの土佐和也、和術慧舟會AKZAの小泉慶嗣と合流。RHYMESTERのDJ JINは、まだ到着していなかった。

 入口のドアが閉まっていたので中の様子がわからず、MamiにDMを送ると、少し遅れるという。「早めに来場しているのでは?」と思って連絡したわけだが、平日なのでそうもいかなかったのだろう。

 焼香が始まる前に雅弘の顔を見ることができるというので、受付を済ませて列に並ぶ。場内には昨年の夏にレコーディングされた未発表音源が流れていた。雅弘が生きているうちに発表されなかったことを残念に思いながら柩の中で眠る雅弘の顔を拝ませていただく。安らかな表情に思えてホッとした途端に涙があふれた。

 ロビーに戻ると、飛田雅弘の姿が。雅弘と2回しか会ったことがない彼が参列してくれたことが嬉しかった。
 定刻通りに通夜式が始まり、わずかに遅れてMamiも到着。

 焼香を済ませて会場の外へ。読経が終わったあと、最後に雅弘の顔を見ることができるというので1時間ほど待つ。DJ JINも合流して雅弘のことを語り合う。
 Girasoulを幾度もサポートしてきたベーシストのオオクスコウジや、ピアニストの木村イオリ、元Colored Jam店主の森下貴之も参列していた。

 読経が終わり、雅弘と最後の対面。もう二度と会えない。再び涙があふれ出した。



(つづく)

第9話(最終話) ↓

#創作大賞2023 #Girasoul #ジラソウル #Mami #渡辺雅弘

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