クライミングと法律 −誓約書の違法性−

その誓約書はなかったと思ってOK

創刊準備号でこう予告しました。 誓約書「事故が発生しても、すべて自己責任なのでジム側の責任は一切追及しません。」にサインしてしまったらジムでケガをしてもジムの責任はまったく追及できないのでしょうか?

結論から言うと法律はあなたの味方です。 大丈夫です。 実際、スキューバダイビング講習中の事故で裁判所はこう判決しました。 ( )内は編集部の解説。

一切の請求権をあらかじめ放棄させるのは、公序良俗違反で無効

「スキューバダイビングは、一つ間違えば生命に関わるスポーツ」「講習会の講師はスキューバダイビングの知識と経験を有しているのに対し、受講生はそのような知識や経験には乏しい」「そのような危険なスポーツに関して、対価を得て(お金をもらって)講習会を開催する場合、専門的な知識と経験を有する講師において受講生の安全を確保するのは当然のことである。」

「このような観点からすると、人間の生命・身体のような極めて重大な法益 (法が守ってくれる利益) に関し、受講生がスクール側に対する一切の責任追及をあらかじめ放棄すると言う内容の免責条項(=誓約書)は、スクール側に一方的に有利なもので」「社会通念上もその合理性をとうてい認めがたいものであるから、人間の生命・身体に関する危害の発生について、受講生がスクール側の故意 (わざと)、過失 (うっかり)にかかわりなく一切の請求権をあらかじめ放棄するという内容の免責条項は、少なくともその限度で公序良俗(民法90条)に反し、無効であるといわざるを得ない。」(東京地判平成13.6.20 判例タイムズ1074号)

民法第90条(公序良俗違反) 公序良俗に反する目的の法律行為は無効とする。

クライミングも生命に関わる危険のあるスポーツですからジムでの事故もダイビング事故と同じと考えればよいのです。

というわけで、「誓約書(=免責契約書)にサインしたじゃないか。治療費も賠償金も支払う必要はない」と言われても気にする必要はありません。「この誓約書は民法90条違反で無効です。はじめからなかったことになります。スキューバダイビング事故での裁判例もあります」と伝えてお話し合いの場を設けてもらいましょう。

もう少し詳しく言うと、この誓約書は消費者保護法にも反しています。このあたり正確に知りたい方は、例えば以下のHPごらんください。

登山事故の法的責任を考えるページ
http://tozanjikosekinin.site/

GoClimbing 創刊号より

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