スポーツクライミング・オリンピック選手選考のCAS提訴問題を考える 前編

11月1日、衝撃的なニュースが飛び込んできました。以下です。

クライミングで五輪選考基準変更 日本は取り消し求めCASに提訴「日本山岳・スポーツクライミング協会は1日、東京都内で記者会見を開き、国際連盟が当初定めた基準の解釈を「大きく変更した」と主張した。」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191101-00000205-kyodonews-spo

発生した事態はこういうことのようです。         

1.①IFSCが、楢崎&野口選手だけでなく、原田&野中選手も「TOKYO2020 CONFIRMED QUALIFIED ATHLETES」リストに掲載する。②今回コンファームした男女各2名計4名の他には、もうこれ以上の日本人選手はコンファームできない、とJMSCAに連絡してきた。

2.①はJMSCAとしても異議はない。なぜなら、IFSCが定めた選手選考規定についての、IFSCによる従前の解釈(以下、IFSC旧解釈)によると、このリストの意味は出場資格保有者リストだからた。しかし②には異議かある。IFSC旧解釈からこの結論は導けない。言い換えると、このことは、IFSCが勝手にIFSC旧解釈から新しい解釈(以下、IFSC新解釈)に乗り換えたということを意味するからだ(なんども問い合わせても十分な返答がない)。

3.このままでは選手が不利益を被ってしまう。これまで通りのIFSC旧解釈で選手選考を行ってもらうため、IFSCによる IFSC新解釈取り消しを求めてCASに仲裁を申し立てた。

厄災を発生させたのはIFSC  JMSCAや選手は被災者という視点   

この問題を考える前提として認識しておくべきことがあると感じます。それは、IFSC選手選考規定(2019.2.1付)を、日本側が自分たちの都合の良いように解釈して、東京2020オリンピックの日本代表選手選考基準を作成し2019年5月に公表したのではないだろう、ということです。

これはIFSCとJMSCAの力関係を見れば明らかです。競技についての最終的な決定権限はIFSCにありますから、上位のIFSCの意向を無視して、下位団体に過ぎないJMSCAが勝手に振る舞うことはできません。

IFSCルールの一丁目一番地にはこう明記されています。

「1.1 国際スポーツクライミング連盟(IFSC)は,国際クライミング競技のあらゆる面を担当する国際的 連盟組織であり,国際クライミング競技に関するすべてのことがらに対する,最終権限を有する.」

つまり、日本代表選手選考基準 (2019.5)は、IFSC選手選考規定についてのIFSCによる解釈に基づいて作成されたということです。 したがって、もし日本代表選手選考基準に問題があるのなら、その原因はIFSC側にあるのだろう。まずは、こう推定するのが合理的と思います。

「今回の厄災を発生させたのIFSCでJMSCAや選手はその被災者では」という視点は今回の問題を考える上で、とても大事だと感じています。

JMSCAの胸の内を推測してみる

JMSCAの胸の内は以下のようではなかろうか、と推測しています。

「IFSCが2020東京の日本出場選手は既に全員確定したと連絡してきた。これまでの彼ら/彼女らの解釈(IFSC旧解釈)を捨てて、新しい解釈(IFSC新解釈)を採用しないとこんなことにはならない。まさに朝令暮改。そして禁反言だ。

こっちはIFSC旧解釈に色々と疑問があったから、「ほんとにこの解釈(=IFSC旧解釈)でいいのか?」と 何度も問い合わせた。そうしたら「大丈夫だ。IFSC旧解釈が正しい。IFSC選手選考規定を作った自分たちがそう言うんだから間違いない。」と 言ってたじゃないか。

 だからこそ、そこまでIFSCさんが言うならと、難解なIFSC旧解釈に基づいて選手選考をやってるんだ。なのに、今になってちゃぶ台をひっくり返すなんてムチャだ。選手に申し訳なさすぎる。

このような要求を「はい、わかりました」と受け入れるわけにはいかない。上位団体に逆らうことになるし、費用も掛かるがCASに提訴してはっきりさせよう。これまでの経緯をCASに説明すれば勝算は十分ある。」

IFSCにも言い分はあると思います。しかし、現時点では、IFSCの声明は確認できません。CASでの仲裁案件になっていることが理由なのかもしれませんが、IFSCはなるべく早く自分たちの見解を開示する必要があるのです。

不明確なIFSC選手選考規定 複数の突っ込みどころ  

CAS提訴を受けて、外岩志向の弊誌『GoClimbing』も選考基準をはじめて読み始めました。

1.IFSC選手選考規定
https://www.ifsc-climbing.org/images/World_Competitions/FINAL_-_2019-02-01_-_Tokyo_2020_-_Qualification_System_-_Sport_Climbing_-_eng.pdf

2. IFSC選手選考規定の和訳 ( 第32回オリンピック競技大会(2020/東京)選手選考システム )
https://www.jma-climbing.org/downloads/201905210001.pdf

3. 日本代表選手選考規定(第32回オリンピック競技大会(2020/東京)におけるJOC推薦選手の選考について )
https://www.jma-climbing.org/article/2019/05/21/Player-selection-of-Tokyo2020/

読んでみるとIFSCの選手選考規定には「よくわからない、ここ? 」というところが複数ありました。

とりあえず2つあげてみます。一つ目は開催国枠ルールと1国男子2名女子2名ルール に関する疑問です。

開催国枠ルール > 1国男子2名女子2名ルール ?

IFSC選手選考規定の開催国割当には「開催国には男女出場枠1が保証される」とあります。これはどう解すべきでしょう? 

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