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成長

 久しぶりに息子たちのバスケの試合を見に行った。というか、私にとっては、彼らは、中学の時のバスケの教え子なのだ。親子で、生徒と指導者に徹するのは難しいと言われているが、私は、指導者の仮面をかぶってバスケ指導をしていたわけではなく、むしろ、母親が、父性と母性を使い分ける程度のことで、親という目線で子どもたちに接していた。かえってそれが良かったのかもしれない。そういう性分なので、自然体の自分で指導者であった。

 さて、その熱血ともいわないが、子どもたちの伸びゆく姿を確かめられる、生き証人として子どもたちと関わった中、本当に申し訳ないのだが、私が一番、親として、大人としてを子どもたちから学んだ。今でもずっとそう感じているが、現場を離れて15年もすると、かつての子供たちは、親になり、教師になり、救命士になりと、社会人としての顔になっている。その顔を昨日は、たんまり見ることができた。そんな一日であった。

 体育館に到着するなり、息子たちが参加するチームメートに会った。その面々の大半は、彼らが中学の時、合同練習や夜間練習で私が指導に関わったかつての生徒で、一部に、サッカー部出身者も混ざっているような混成チームだった。当然、息子たちの出身校が母体ではない。が、私の当時としては奇抜な発想によって、他校の生徒もまとめて指導する形態を作りつつあったため、生徒同士はチームメートであるり、対戦相手であり、異学年であったが、とても仲がよい。独自チームという枠を彼らから取り外すと、一人一人は、バスケが大好きという共通項だけの個人だったからだろう。次男は仕事柄、バスケからずっと離れていたが、15年ぶりに出会った同士の懐かしさをたっぷり味わったに違いない。

 終日、体育館に詰めている間、数人が個々に私に声をかけてきた。かつての教え子。うーむ、名前を言われても顔と名前が一致しない。その間が笑いを起こす。爺さんになったというでもないが、本当にあのツルッとした卵顔のあの男子が、この髭爺さん?てくらいの差を感じる大人の男性である。女子だったちびでころんと太ったあの子が、こんなに背が伸びて、素敵なお姉さんになっちゃっている。再会の不思議というか、私を15年前に引き戻そうとする強い力に抵抗することはできなかった。もう、かつての指導者ではなく、バカ母面そのもの。

 指導している頃の自分は、実は、苦悩の毎日だった。小学生から大人まで指導した経験から、中学生の指導は、一番難しい課題を抱えていると言える。その理由に、彼らが多感な時期で、幼稚な小学生から三年間で、ともすると髭面のニキビ顔になり、ある日突然、鼻がでかっかくなる。靴のサイズも、24から28センチにも成長してしまう時期なのだ。大人の男になりかかる時期である。その成長に指導姿勢や内容が遅れないよう、前に前にモチベーションを持っていくのが非常に難しいのと、それがどの生徒にも当てはまらないという、個人差も大きな年齢だからだ。こういった、成長の違いや感性の差を前に、勝つことに目標を置けば、子供たちには不平等感が起こる。落ちこぼれを作ってしまうことになる。当然だ。身体能力も違えば、バスケットセンスもちがうのだから。また、中学でバスケの初心者もいる。ミニバス出身だからと言って、初心者に技術的に抜かれることだってある。私は、中学生くらいの年齢なら、他者との競争によって落ちていく生徒を作るのではなく、新たな自分に挑戦し、その達成感を大いに喜び、自分が自分を褒めながら前に進むエネルギーを培えるように仕掛けたかった。その戦術に苦労したのだった。

 果たしてその苦労が報われるのか、ほとんど実感しないまま15年があっという間に過ぎ、ついに彼らに再会したのが昨日だった。

 「中学の時のバスケが自分の今の姿そのものです。」「えっ?どちら様?」てうっかり口にしたが、彼はニコニコ顔で、「○○ですよ~。」と自己紹介してくれた。次男の同級生だった。大学卒業後、どこかに就職したらしいが、今は家の農場を手伝っているという。これからどうするのか聞くと、農場をやる自信がなくて、どうしようか迷っていたが、中学の時の自分を思い出して、自分にハードルをおいて、跨いで行く決心をしたと話してくれた。

 彼はミニバス出身者でもなく、特にバスケが好きでもなく、特に身体能力が高いというでもない。確かに、ミニバス上がりの面々にはついて行かれなく、毎日泣きながら練習していた。このへんは、羞恥心もなく、小学生の心情そのものなのだが、泣いて辞めたりしないのが男子になりかかる境目となる。二年間は泣きながら練習の日々だった。三年目に私は他校へ移動したが、残る一年を彼はやり遂げた。その頑張りと自信、高校でもバスケをやるというモチベーションをしっかり手にしていた。当時、彼にいろいろなことを教わった私でもあり、彼からお礼を言われることでもないと思うが、彼が私との再会を喜んでいたことが嬉しかった。

 

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