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田舎の三層構造

 先日、地区内の婦人に「40年ここに住んできて、あんたみたいな人は誰もいない」と、人格批判された。言われた時は息を呑んだ。さすがの私もぶったまげた。よく考えてみると(2日ほど、頭をもたげた)笑、この夫人がこのように私に言う理由がわかった。私のちょっとした言い方を、この人なりの解釈で、文句を言われたと誤解しているからだが、それで、文句を言われたと早とちりする理由は、私が都会から来た変人で、要注意人物であり、とかく批判的に見ているということがあると思う。地元から一歩も外の世界に出たことのない人にとって、都会の人は物怖じせずに、知り合いでもない人に気軽に話しかけるというのはあるけど、それが、一歩引いている人達にとっては怖いのである。怖がりが何をするかと言うと、北朝鮮の金正恩さんを見ていると分かる通り、また、習近平国家主席や、アフリカのバジル大統領もそうだが、外敵とみなすと威嚇をする。どれほど力があるかを外にアピールする、あれだ。アレと同じで、この夫人は、自分の思いの丈を私に威嚇射撃してきたのだろう。まともにそれを受けた私は、当日と、翌日の半日ほど萎えた。こんなにショックな事はない。どれだけ腰を低くしてもこうなるのだ、この夫人は。まあ、今回が初めてではないが、と、過去も思い出した。私の顔も見たくないそうだ。

 まあ、こんなふうに赤の他人から言われた経験など、ここに住み着いてこの方だけだけど、この方は、40年前、茅野の「山裏」というところから嫁がれて諏訪に来た人らしい。ところで、諏訪の「お街」の先住人は、茅野の「山裏」出身者のことを「田舎者」と馬鹿にして、偏見丸出しにしている。「山裏の人は家を片付けないから、汚い」「山裏出身だから何をやっても鈍臭い」と、温泉で仲良しさん達がひそひそ陰口を叩いて交友を深めている。いやーな雰囲気なのですぐに分かるが、こういう時、私は蚊帳の外だ。私がそういう場に遭遇すると、さっと、ひそひそ話を止めるからすぐに分かる。いい年をしてもこうだ。というか、田舎の話題なんてこんなことしかないのだろう。世界情勢を語るような、床屋談義なんてできないのだ。田舎の確執とは、このような構造の下にあり、市内の地域ごとには更に目糞鼻糞を笑う的な確執合戦が展開されている。

 私の場合は、茅野であろうが諏訪であろうが、この地域一帯の先住民から「よそ者」扱いされるので、いろいろなパターンで威嚇射撃されるが、この「諏訪の平」の先住民には昔からある偏見や人を村八分にするような、排他的な態度や言葉、場合によっては、地区の役員さえやらせないような嫌がらせを平気でする。そういう場面に出くわすと私は、賛同しないので、キックアウトされてしまう。わざわざ敵を作っているようなものだけど、ここで保守に染まると、面倒くさい表面の近所付き合いをせざるを得なくなる。だからわが道を行くのだが、わが道を行くというと他にもう一つ派閥がある。

 諏訪のどこの地域が先住民地区で、どの地域がニュータウンか、はっきりしている。私の住む地域は、新しいアパートや新築住宅が少なく、他所から人が入りにくくなっている。というのも、諏訪湖周辺地区は、大水害を何度か過去に経験していて、埋め立てを余儀なくされた地域がある。今でも地盤の緩いところでは地面が沈下している。大雨が降ると、諏訪湖面よりも低い土地の道路が川のようになる。水害を逃れて悠々自適に暮らせる土地として、私の住む地区は一等地とも言われているが、その地政学的要因もあって先住民が住み付き、代々の土地を守っているのである。比較的安価で土地が買えるのが埋め立て地域で、そこには他所から来た若い夫婦や、都会人の住宅もたくさんある。そういう地域で育った若い人達は、先住民が多く住む地区をどう見ているかと言うと、「あの土地に嫁など行ったら大変。お姑さんにいびられ、絶対服従になる。」と、固定観念がある。もう一つの派閥というのは、このニュータウンから先住地区にお嫁に来る奇特な人達で、ここにお嫁に来るとなると、温泉にはないらないので、住む家にお風呂を作ることが絶対条件になっている。これにはびっくりしたけど、そういえば、私の世代で他所からお嫁に来て、地域の温泉に入っているのは、私だけかもしれない。で、この派閥の家人は、地域の役員などは持ち回りなので受けるけど、地域の催し物などには絶対に参加しない。まあ、先住民はこれらの人達を「挨拶もしない嫁さん」などといろいろ言っているが、お互いが混ざり合わないため、言われていることすら知らないで終わっている。そして、これらの派閥と私のようなよそ者はどうかというと、そこは先住民と同じで、近づかないようにしている。いわば、保守のそのまた保守の強い人達ということになる。

 このような厄介な土地柄ではあるが、温泉や森、山々の変化、気候や食べ物などと天秤にかけると、やはり私はわが道でここに暮らすのを選択する。

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