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ナースさんのお仕事 特別養護老人ホーム編 〜褥瘡が多すぎる件、最難関の看護業務〜

 今後はこれがスタンダードになる。

 「特別養護老人ホームってどんなところ?」「老人ホームでの看護について調べたら広告が多すぎて訳わからなくなったクマー!」「医療・介護業界向けのガチな看護を知りたい」
 など思っている方への記事となってます!

 前回は特別擁護老人ホームの看護業務と薬剤師との関わりについて書きました。これは2番目に難しい看護業務だった。
 今回はY特別擁護老人ホームで最も難しい看護業務、褥瘡関連をお送りします!

 この記事はY特別養護老人ホームという褥瘡利用者がとても多い事業所のフィクションです。
 僕が働いていた場所が特定されると、入居している人が特定できる。なので特定と避けるために工夫するとフィクションになってしまう。事をご了承頂きたく思います。

 今回はほぼ業界人向けの内容です。。。一般向けにすると専門用語が使えないし、文章が不必要に長くなる。業界人が嫌がる。
 しかし、業界人向けにすると一般の方がついていけない。凄く問題が起きている程度にしか伝わらない。
 正直、それで勘弁して頂きたい。不可能だ。そもそも、特別養護老人ホームの記事を見るような人は業界人しかいませんが。。。

 さて、Y特別養護老人ホームでは褥瘡利用者が8人いる。50名中8名が入所中に褥瘡になっている。
 まずはどんな原因で褥瘡になったのかを説明します。

褥瘡が多い原因

褥瘡が多い原因①介護士が未熟、早期退職する。
褥瘡が多い原因②介護士が多忙、事業所の対応力を超えている。
褥瘡が多い原因③ハイリスク利用者が多い。
褥瘡が多い原因④管理職の指導力不足。
褥瘡が多い原因⑤何をしても給料は変わらない。

 正直、どんな老人ホームでも起こり得る問題ですし、現在の日本では対応困難な5種類の原因がある。対岸の火事と思うと怪我をする。

褥瘡が多い原因①介護士が未熟。または早期退職する。

・派遣労働が多い。
・成熟する前に仕事をさせすぎる。
・解雇できない。

 現在の日本ではどうしても介護従事者が足りない。何をやっても足りない。無資格でも何でも良いから介護の仕事をして欲しい。
 就職面接に来た人は、無資格でも外国人でも誰でも採用しています。
 今までプロサッカー選手を目指してました。以前はエレベーター関係の会社で電気工事士してました。ニートやってた。アパレルの仕事をしてたけど出産と育児で退職。子供が中学生になったので介護の仕事をしたい。
 など、そんな完全なる素人が介護業界に入って来ます。褥瘡がどんな病気でどんな症状があるのか、褥瘡を起こさないために何をすれば良いのかをゼロから教える必要があります。

 現在では、無資格+派遣契約の人が来るんですよ。元ニートしてた人や専業主婦してた人が働きたくなって派遣会社に相談したら介護を勧められて就職した人 とかです。
 派遣の人を育ててもあまり旨味がない。短期契約なので途中で辞める事が前提の派遣契約です。育てても旨みは少ないが、とにかく育てる他ない。
 しかし、アパレル業界に戻るというのは流石にショックだったなー

 無資格+外国人+派遣契約 でも全然OK!面接に来た人は全員採用です。
 記憶が曖昧なんですが、フィリピン人で無資格+派遣契約の人がいたんですよ。
 元々フィリピンで生活してた人。兄?が日本に来て飲食店を経営していて、兄の援助で日本に来る。兄の店で働きながら日本語に慣れたので介護に転職したフィリピン人の介護士がいました。
 兄の飲食店は不安定なところがあるので、自分は介護業界にリスク分散して一族で生きていく。そんな事をやりたいのだろう。記憶が曖昧なんですが、概ねこんなストーリーです。
 全くして介護に関与がない方ですし、日本語が通じないし、訳のわからない事をするし、とても大変。
 面接に来た人は全員採用!普通なら即座に不採用になる。運良く採用されても解雇のリスクはあるが、そんなことできる余裕はない。

 そんな未熟な介護士が多いと褥瘡が起きやすい。褥瘡に関する経験や知識が足りない状態で仕事をしてる。
 早熟な方もいるが、1〜2年ほどかけて育てるべき。外国人なら4〜5年かけて確実に成長させるべき。
 しかし、人手不足が著しいので成熟する前に仕事をさせる他にない
 
 成熟するまで耐えるしかない。教える方も大変だが、教わる方も大変なんです。説明を受けている暇がない。新しい知識を入れる余力がない。だから時間をかけて育てたいが上手く行かない。

 成熟するまでは褥瘡が多発するが、どうにか耐えるしかない。
 と思っていたら離職してしまう。給与の問題でアパレル業界に戻りたくなって退職。とかですね。あれはショックだったー。
 介護従事者の離職率が高い事が問題になってますが、Y特養や個人の努力により解決できる問題ではない。

褥瘡が多い原因②全職員が多忙。事業所の対応力を超えている。

・ベテランであっても対応力を超えている。
・介護「助手」が足りない。
・全職員が多忙。事業所の総合力が落ちている。

 何年も介護業界にいてベテランの域に達している介護士は特に問題はない。しかし、あまりにも多忙で対応力が落ちている。
 介護「助手」が足りない。地下の倉庫から物品を持って来る。部屋の掃除やゴミを集積場へ持っていく。このあたりの業務に介護の資格はいらないが、この業務でベテランを使ってしまうともったいない。

 今までは経理事務などをしている事務員が届いた荷物や介護物品を各部署へ配っていたが、事務の仕事も忙しいので徐々に滞る事が増えた。最終的に届いた介護物品は各部署が倉庫へ取りに行く事になった。
 なので、ベテラン介護士が物品を倉庫へ取りに行く。

 今まではシルバー人材の人が掃除やゴミの回収をしていたが、引退してしまって誰もゴミの回収ができなくなった。
 よって、ベテラン介護士が掃除やゴミの回収をする。

 あらゆる職種の職員が多忙で事業所全体の総合力が落ちている。

褥瘡が多い原因③ハイリスク利用者が多い。

・逝去するまで入居するシステムから重症者が多くなる。

 Y市で路上生活をしていて冷たくなっていたところを発見された男性。認知症も見られ、生活保護となりY特養に入所した利用者がいました。
 入所時は路上生活できるほどの状態です。二本足で移動し、自力で食事もできるし、極めて不衛生な環境で生存していた。
 しかし、入所して10年。70歳だったのが80歳となる。徐々に状態は悪くなり重症化。今では寝たりきりで自力でほとんど体を動かせません。しかし、終末期とするにはまだ早い。

 そういった長期入居により重症化がある。元々は路上生活をしている人だから他に行く場所もない。終末期病棟に行くほどでもない状態がキープされる場合、どこにも行けない。

 そして、Y特養の劣悪な環境により褥瘡が生じる。

 事業所の対策として重症者の新規入所を断っている。すでに入所している人ですら手一杯なのでこれ以上重症者を増やせない。
 すでに入所している方が重症化するのは防げないが、新規重症者を断ることはできる。
 もちろん、社会的に良いことではないですが。

褥瘡が多い原因④管理職の指導力不足。

・指導力や人間性に欠ける管理職により総合力の低下。

 介護業界では人手不足が著しい。管理職の人手不足により、実力に合わない管理職。技術はあるが指導力に問題がある管理職。経験はあるが性格的に問題のある管理職などが出現する。
 何らかの問題があっても他に管理職ができる人がいないので、実力に似合わない管理職がいる。

 そうなると、指導力が足りない事で褥瘡対策が上手くいかない。「お前に言われてもやりたくない」と反発される場合にはどうにもならない。
 僕は懇切丁寧に教えたし、僕の変な英語で逆に訳がわからなくなった可能性もあるが。どんなに失敗しても絶対に否定しなかったし、どれほど物足りなくても成長できるようにフォローした。
 だから、僕の説明は積極的に聞くし、僕の指示通り動く。でも管理職と喧嘩してやる気なくなったり、アパレル業界に行きますー と言われると流石に辛い。

褥瘡が多い原因⑤何をしても給料は変わらない。

 利用者が生きてても、死んでても給料は変わらない。それなのになぜ真面目に仕事をするのか。
 明らかにやる気のない介護士がいるから褥瘡が起きる
 アパレル業界や飲食なら頑張れば頑張るほど給料は増えます。しかし、介護業界にはそれがない。これが最大の弱点。
 世間的に評価されたい、金銭的な評価をされたい。と思う人はこの業界に向いてない。評価されたいから介護するという軟弱な精神では続かないところがある。
 しかし、そんな強いメンタルや崇高な意志を持った職員だけ集めることはできない。

最難関の看護業務

 ということがあり、褥瘡の利用者が非常に多い。
 フィブラストスプレーを使う人が2人。ハイドロサイトが2人、フィルム保護が2人、発赤ができたり戻ったりが2人。で合計8名。

 あまりにも具体的な事や時期を言うと、利用者を特定できる可能性がある。この辺りで勘弁して下さい。
 フィブラストスプレーという特殊なスプレータイプの薬剤を使うと30分前後かかります。それが2人。
 ハイドロサイトという特殊な絆創膏を使ったりすると、15分前後はかかる。それと8人全員同じところにいるわけではないので移動時間がかかる。
 また、処置をしている最中に入浴や救急対応に呼び出される。

 褥瘡処置を全部やるのに早くても2時間前後かかる。看護部2人で分担しているが負担は大きい看護業務です。
 現在、褥瘡対応者が8人です。しかし、これ以上増える可能性が非常に高い。これがY特養で最も難しい看護業務。
 褥瘡に対する知識がない職員には看護部が教育をする。教育にかかる時間や負担があり難易度が高い看護業務。

 自分が完璧に出来ていても他のメンバーが出来ていないと意味がない。
 褥瘡対応ができてない介護士に指導したり、褥瘡ができないような業務システムを考えるのに難航している看護業務。

 褥瘡があってもなくても、利用者が生きてても死んでても自分の給料は変わらない。無駄だと思える看護業務。

 それらを総合すると、Y特養において最も難しい看護業務は褥瘡関連業務。いや、あまりにも難しすぎて手のつけられない看護業務か。

 これどーしようもなかった。辞めてしまったのでこの後はどうなってるか不明。でも今だに、どうやったら良かったのかを考えてしまう。

今いるメンバーで最高の結果を

 管理職に大きく問題があった。
 「外国人に何言っても通じなくてムカついた!」「あいつらやる気ないからな!」「俺の仕事は完璧だ。これで褥瘡ができるのは介護士が悪い。俺は何一つ悪くない」「日本の介護システムが悪い!」
 など、管理職に現状を解決しようと考えてる感じはなかった。

 これね、将棋で言うとすごく面白いんです。
 「歩は前方1マスしか進めないクソ」「前に1マス進めるなら横1マス動けよ」「持ってる駒がクソだから厳しい状況なんだ。俺は悪くない」「何で横に9マスしかないんだよ、10マス目があれば余裕なんだよ!」
 って聞こえるんです。そんな事言っても歩は前方1マスしか進めません。歩の性能は上がりません。将棋は縦9マスと横9マスの範囲内で勝負をする。このルールをぶっ壊すのは難易度高いなぁと。

 今いるメンバーで最高の仕事をすることを考えるべき。
 目の前の盤面を必死見て、どうしてその盤面になったのか、今後どんな盤面になるのか、どうやったら盤面を好転できるのか。
 文句を言っていても盤面に変化ない。延々とずーっと現実逃避して盤面を見てない。何も行動をしていない。
 とはいえ、優秀な管理職を集めるのも改心させるのも難しい

 これが日本の特別擁護老人ホームの限界だと感じました。
 その上、これ以上介護業界が良くなることはない。今以上に介護事業へ税金を使うのも難しいし、人口が増えることもない。
 しかしながら、そんな状況下で考えられる現実的に一番良い介護を目指すべきだと思う。
 今後はY特養のような老人ホームは増えるでしょう。
 その時、何をするか。

 ではまた!じゅわっち1
 

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