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夢 ー時空を超えて 1ー

1000日修行26日目
最近私は夢を見ない。いや、見ているのだろうが覚えていない。起きた時に、少しだけモヤがかかるみたいに、夢を見ていたかもしれないと思うことはあるが、いつの頃からか殆ど覚えていなくなった。

それとは真逆で、高校何年生の時かに見た夢を未だに細部まで綺麗に覚えている。

実家の目の前の道路の向こう側には狭い畑があり、その向こうに旧道の細い道が走り、さらにその旧道に沿って川が流れている。川幅は5mくらいの細い川だが、夢の中でその川は見た事がないほど水嵩を増していた。私はその川のそばに佇み、その反乱一歩手前の川に逆さに落ちているバスを呆然と眺めていた。

いつの間にか私の隣には初老の男性が立っており、私にはその人が私のガーディアンエンジェルだと分かっていた。

「あの中に私はいたのですね?」その男性に声をかけると、彼は言葉を発せずにただ小さく頷いた。どのくらいその水の中に逆さまに水没しているバスを眺めていた事だろう。おもむろにその男性が口を開いて「もうあまり時間がありません。お母さんにお別れを言って来て下さい」と告げた。私もものも言わず頷き、そこからほど近い実家に母に会いに行こうと振り返った。

霊になると、ものすごいスピードで移動すると聞いた事があるが、本当にそうで、私は一瞬のうちに実家の座敷に立っていた。

目の前に母が座っていた。

いつもよりひとまわりもふたまわりも小さく見える母は、仏壇の前に座り込み泣いていた。
「お母さん!お母さん!」
大声で何度も呼んだが、一向に気付く気配が無い。そうこうするうちに、姉が座敷に入ってきて、母に「お母さん、そんなに泣かないで。どんなに泣いてもトモコは戻って来ないんだから」と言ったのと同時に、ガーディアンエンジェルから、「そろそろ戻って来てください、お迎えがいらっしゃいますから」との声が聞こえた。

分かってはいたつもりだったが、その時に本当に、「私は死んだんだ」と思った。

もう時間だと再び声が聞こえ、私は母を見ながら「お母さん、行くね」と声をかけた。その瞬間母は「トモコが来ている」と叫んで、その場を離れようとしていた私を追いかけてきた。だが霊体である私はあっという間に元いた川のそばに戻っていた。私を追いかけて外に飛び出した母は、家の門口まで走ったが、遠ざかる私を見ながら「逝ってしまった」と呟いて膝からくずおれた。姉が母を追いかけて来て、その背中をさするようにしているのが見えたのを最後に、私は家の方角から目をそらした。

しばらくすると、道の向こうから光る物体が近づいてくる。その光は間近に迫ってきたら人の形なのが見えるようになった。その背中には大きな翼。

…天使さまだ…

「ここから先は、私は行けません。こちらの方といかれて下さい」 
ガーディアンエンジェルが私に言う。私はその光る天使さまに手を取られて、またもや凄いスピードで移動する。

私は猛スピードで移動しながらも、天使さまに「今回の大水で沢山の方が亡くなられましたね?」と尋ねたら、「そうですね」と天使さまは応えてくださった。

そして、やっと大きな門の前に着いた。門の向こうからは見た事もない様な、温かくて柔らかい光が溢れ出ていた。その門を薄く開けた天使さまは、何やら中から手渡されていた。そしてこちらに向き直り、「ここにサインをして下さい」と言って、私に羊皮のようなものとペンを渡して来た。

一度ペンはとったものの、これにサインをしてよいものだろうか迷い、そのままその場に固まってしまった。

夢はそこで覚めた。

40年以上前にみた夢だが、本当に細部まではっきり思い出す事が出来る。不思議な夢だ。
そしていつも、あの時サインをしていたら、私はこの世にいなかったかも知れない、と、妄想を抱くのであった。

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