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【LAA】8月の大量ウェーバーと贅沢税回避の意味とは?

みなさんお久しぶりです!Kengelsです。
note企画のエンゼルス担当の一人として2年目に入ろうとしていますが、来シーズンも引き続き担当いたします。よろしくお願いします!

さて、エンゼルスは8月初めのトレードデッドラインで買い手として補強を敢行したものの、その後プレーオフ争いから脱落してまいましたね。

そして8月末、エンゼルスの選手が複数ウェーバーにかけられたのを覚えていらっしゃいますでしょうか。
ジオリト、ムーア、ロペス、リオン、レンフロー、グリチックらがウェーバーにかけられ、5選手が移籍しました。全員がオフにFA(フリーエージェント=エンゼルスとの契約が切れる)となる選手です。

当時このウェーバーについては、エンゼルスに対する批判もかなり巻き起こったところです。

そこで本noteでは、「当時のウェーバーはどんな意味を持っていたのか?本当にすべきだったのか?」について、遅ればせながらにはなりますが考えていこうと思います!
(実は8月の時点で本noteはほぼ完成していたのですがお蔵入りにしてしまっていました🙏)

選手がウェーバーで指名されるか、どの球団に移籍するかはエンゼルスが左右できることではないので、あくまでエンゼルスが選手をウェーバーにかけた時点を基準に考えていきます!

できるだけ一から分かりやすくするためにnoteの短さを犠牲にしています。1は前提となる説明ですので、読み飛ばしていただいても大丈夫です。

1.前提(ご存知の場合飛ばしてもOKです)

(1)ウェーバーとは?

そもそも「ウェーバーって何?」という方も少なくないと思います。まずはウェーバーの流れをご覧ください!

ウェーバーの流れ
①ある選手を球団が「ウェーバー」にかけ、選手の引き取り先を募集する

他の29球団はその選手を指名(クレーム)できる
(指名できる順番はシーズンの勝率が低い順)

③【他球団から指名された場合】
その球団は選手を獲得でき、選手は移籍になる
(契約は獲得先の球団がそのまま引き継ぐ)

【他球団から指名されなかった場合】=ウェーバー通過
球団は選手をA.そのまま残留か、
40人枠から外し、B.マイナーに降格させる(=アウトライト)、もしくはC.放出するという選択を取ることができる

ただし、Bについて、今回の選手たちは全員マイナー降格を拒否し、FA(フリーエージェント)になる権利を持っている。かつシーズンの残りの年俸もエンゼルスから支払われる (理由は※1で後述)

(ア)選手をメジャーの枠から外しマイナーに降格させたい場合、あるいは
(イ)契約の年俸がネックで他チームに契約を引き継いでほしい場合(←今回)など、選手をメジャーの40人枠から外せる状態にするには、球団はまずウェーバーというものにかけて選手の引き取り先を募集する必要があります

(ア)では球団は「できれば他球団は指名しないでくれ、ウェーバーを通過してほしい」と思いつつウェーバーにかけるわけですが、今回は(イ)で、むしろ逆です。他球団に指名されて、選手の年俸含め契約を引き取ってもらいたいというケースです。
そのため、ウェーバーにかけられたのはオフに契約が切れる選手たちでしたが、プレーオフ争いしていたチームが指名したくなるような、即戦力として需要があった選手がほとんどです。

✍️指名されて他球団に移籍した場合選手の年俸はその球団に引き継いでもらえる一方で、指名されなかった場合は、選手は残留とされるか、エンゼルスから放出され契約先を探ることになります。今回の選手については、どちらの場合でもエンゼルスがシーズン残りの年俸を負担します。(※1)

では、なぜエンゼルスは選手たちをウェーバーにかけ、年俸含め契約を他球団に引き継いでもらいたかったのでしょうか
その一番の目的は、「年俸の支払いを減らし、贅沢税ラインを下回ることを狙うため」だと考えられます。

そのため、前提として贅沢税の中身について知らないと、今回のウェーバーに賛成も反対もできません。
ここからは贅沢税についても軽く見ていきましょう!

(2)贅沢税とその超過ペナルティとは?

贅沢税とは、主に戦力均衡のために、年俸総額が高いチームに対して各種ペナルティを課す仕組みです。各球団の年俸総額があまりに違うとまともな勝負になりにくくなってしまうためです。

贅沢税のライン(2023年の1段階目)は2億3300万ドル($233M)です。そして、ウェーバー時点でのエンゼルスの年俸総額は、Fangraphsの推計では2億3400万ドルSpotracの推計では2億3850万ドルで、贅沢税ラインをわずかに上回っていました。
(なお、ウェーバーの結果贅沢税ラインを下回ったかはまだ不明で、近々判明予定です。)

では肝心の、贅沢税ラインを超えた場合のペナルティとはなんなのでしょうか
エンゼルスが今季ラインを超えた場合、特に影響するのはこのあたりです。

贅沢税ラインを超過した分について、その20%がさらに課税される
(もし2年連続超過なら30%、3年連続なら50%とさらに重くなるため、今季超過の場合は来季以降贅沢税ラインを超えにくくなる)

大谷選手がオフに移籍した場合、本来エンゼルスは補償として来年のドラフトで2巡目後(およそ60位台)の指名権をもらえるところ、それが4巡目後(およそ130位台)なってしまう(※2)

オフにクオリファイング・オファー(QO)を受け拒否したFA選手を獲得すると、来年のドラフト指名権をより多く喪失(例えば1人目なら5番目に高い指名権)し、国際FAでも金銭面で制約が加わる

贅沢税の話を聞くと、ただオーナーが贅沢税を払いたくないだけという気がすることもあるかもしれませんが、実際は重要です。
贅沢税ラインを2年連続超えると税率は30%、3年連続だと50%とどんどん上がっていき、来年以降の身動きがとりにくくなっていきます

また、ドラフトの指名権も見過ごせないですね。②は大谷選手が移籍した場合に限られますが、例えば去年のエンゼルスの3巡目指名は剛腕ベン・ジョイスです。より魅力的な選手の獲得を目指せ、将来の強さに影響してきます。

このように、贅沢税ライン超過のペナルティは重い負担になるため、贅沢税のリセットを狙い年俸削減に奔走する球団はしばしば見られます。もちろん勝負期に数年連続で贅沢税を支払う球団もありますが、回避できるなら回避に動きたいペナルティなのは間違いありません。


2.エンゼルスはウェーバーを敢行すべきだったのか?

以上の前提を踏まえ、いよいよ「エンゼルスはウェーバーをすべきだったのか」を考えていきます!

ウェーバーは球団が独自に持っている権利で、選手の許可なく行えるものです。そのため、まずはエンゼルスにとってウェーバーがどういう意味を持つのかを考えていきます。
以下にプラス面とマイナス面をそれぞれ挙げます。

🟦エンゼルスにとってのプラス
①贅沢税ラインを下回ることを狙え、成功した場合種々のペナルティを回避できる(先述)
怪我人の復帰のために枠を空ける必要
③オフにFAとなる選手を試合に出す代わりに、若手含め、来季以降に繋がる選手を起用できる
オーナーの支払う金額を減らせる(以下では割愛)

🟥エンゼルスにとってのマイナス
ウェイバーにかけた選手の再契約の可能性が下がる
②チームの雰囲気悪化の可能性

FA等で敬遠されるリスク?

以下、私個人の意見を多分に含みますが、それぞれについて検討していきます!

🟦① 贅沢税ライン超えのペナルティ回避

既に1.(2)でご説明しましたが、贅沢税ラインを超えることによるペナルティを回避できるチャンスがあるのは一番大きいです。

今年贅沢税ラインを超えたままだと、税率加重によって来季以降贅沢税ラインを超えて勝負するのは大変になっていきます
ドラフト指名権の順位低下や国際FAでの制約も無視できず、有力なプロスペクトが少なくなっていて内部で育成する必要があるエンゼルスからすれば特に、これ以上好選手の育成チャンスを失うのは大きな打撃になります。
つまり、総じて来季以降のエンゼルスが強くなろうとする障害になるといえます。

既にプレーオフ進出が途絶えてしまったシーズンで贅沢税ラインを超えたばかりに、また勝負していきたいはずの来季以降の首をさらに締めることになっては目も当てられません。
そんななか、プレーオフ絶望となった後からでも、オフにFAとなる選手の放出で贅沢税ラインを下回ることができそうなら、それは重要な損切りとなります。(※3)

✍️ちなみに、家族の健康問題を理由に離脱しており、シーズン中の復帰を断念したマックス・スタッシが制限リストに入れられましたが、それも同じく贅沢税ラインを下回るのが目的です。

🟦② 怪我人の復帰のために枠を空ける必要

ご存知の通り今季のエンゼルスは離脱者が多く、シーズン中の補強の多くは離脱者の穴埋めをするためのものでしたよね。
結果としてロースターは膨れ上がり、IL(=故障者リスト)には大量の離脱選手がいました。
そのなかには今季絶望だった選手もいますが、シーズン中に復帰予定の選手も多くいました。60日間のILに入っていたホセ・マルテベン・ジョイスや、10日間のILにいたザック・ネトなどが一例です。

彼らが復帰するときは、その度に枠を空ける必要があります
来季もいる選手や今季のうちに試したい若手を簡単に枠から外せませんし、そうなるとオフにFAの選手を動かす必要性があります
遅かれ早かれ、今回の対象選手を放出せざるをえなくなる可能性は高かったわけです。

✍️実際にウェーバー直後、ホセ・マルテがウェーバーで移籍した選手と入れ替わるかたちで復帰したほか、ジョイスやネト、スアレスなど多くの選手がシーズン中に復帰を果たしました

🟦③ 来季を見据えた起用に繋がる

②の怪我人に限らず、マイナーの若手選手の昇格や起用にも繋がります。

エンゼルスは残念ながらプレーオフ進出がほぼ途絶え消化試合化してしまっていましたが、消化試合のせめてもの旨みは、今季の勝ち負けにこだわらず来季を見据えた起用ができることにあります

9月からは枠の拡大もありますし、エンゼルスのマイナーは層が薄いですが、それでも来季に向けてメジャーで試したい選手はいます。オフにFAでいなくなる可能性が高い選手を起用するあまり、来季以降戦力になり得る選手を起用できなければ本末転倒感があります。(※4)

✍️実際にカイレン・パリスジョーダン・アダムズらのプロスペクトが昇格するなど、若手たちがメジャーで起用されました。


以上がプラスの点です。今度はマイナス面も見てみましょう。

🟥① 対象選手の再契約の可能性低下

再契約したい活躍を見せている選手限定にはなりますが、このデメリットは小さくないと思います。

もちろん他球団に行った後再びエンゼルスと契約する可能性はありますが、可能性は下がってしまいました
特に、ムーアやロペスは個人的には再契約してほしかったので残念でした。一方で、シーズン最後までいたとしても再契約できるとは限らず、他チームと契約するケースもかなり多いです。

🟥② チームの雰囲気悪化の可能性

チームはただの選手の寄せ集めではなく、選手同士の関係性や球団との信頼関係によって成り立っているものです。そんななかでゲームのように選手を獲ったり手放したりしていたら、チームの団結力や連帯感の醸成に悪影響をもたらすリスクがあります。

一方で、そうは言いつつも怪我から復帰する選手をILに入れっぱなしにするわけにもいかないのも事実です。

🟥③ FA等で敬遠されるリスク?

エンゼルスがビジネス上の利益のためにすぐ選手を切るチームだと見られるリスクがあるかもしれません。もしそうなると、例えば今後FAの選手がエンゼルスとの契約を敬遠する一因になる可能性があります。

ただし、ウェーバーで指名された選手たちの今後の動き方は、(MLBでは頻発している)トレードで移籍する場合と実質的に同じです。
また、規模は小さかったものの、当時エンゼルスだけでなく他に4チームが同様の動きをしていましたし、今回に限らずMLBではサラリー削減のための動きが行われることは珍しくありません。(※5)

客観的に見ても今回の動きが特別非人道的ということはないと思いますし、今後の選手との契約にも特に影響はないだろうと思います。


3.対象選手にとってはどうなのか?

エンゼルス側がウェーバーするかを独自に決められるものの、球団と選手はビジネスで割り切れる関係ではありません。ウェーバーにかけられた選手にとって、今回の動きがどうなのかも見ていきましょう。

🟦プレーオフ争いとプレーオフ出場の可能性

今回ウェーバーで指名された選手は移籍先でプレーオフに出場する資格があります。
規定では、現地8月31日時点でロースターにいる選手にそのチームでのプレーオフ出場資格があるとされています。つまり当時のウェーバーはそれを満たすギリギリのラストタイミングでした。

各選手はオフにFAのため、当時のタイミングで契約を引き継いでまで選手をほしがったのはプレーオフ争い真っ只中だったチームです。
そのため、消化試合に甘んじていたエンゼルスからプレーオフ争い真っ只中のチームへの移籍となりますし、プレーオフに出場できる可能性もありました。

🟥自分の意思と関係なく立場が不安定になったり、新チームへの移籍を強いられる

今回のウェーバーはエンゼルスに限ったものではないですし、移籍が活発なMLBでは、頻発するトレード含め選手がチーム都合で急遽移籍になるケースは多いです。

しかし一方で、例えばジオリトらは移籍後1ヶ月足らずでまた新天地に移ることになります。
ジオリトは急遽移籍となった際、伝えられた翌日に、他の客に混ざって飛行機の最後部、3人がけの真ん中の座席で移動したそうです。

自分の意思に反していても移籍を余儀なくされ、またも新しい環境に移って慣れなければならないというのは負担になり得ますよね。選手を駒としか見ていないと思われる方もいるでしょう。

また、一度目で指名されなかった場合その後も再度ウェーバーにかけることが可能なため、もちろんそれが球団の権利とはいえ、選手は明日自分がどこの球団でプレーしているのかも分からないという不安定な立場に置かれてしまいます。
MLB全体といった広い枠組みで、一定程度制度の見直しが議論されてもよさそうです。


本noteの結論

当時多くの選手をウェーバーにかけたエンゼルスの動きはセンセーショナルでしたし、非情だと拒絶反応があった方も少なくないと思います。

実際に、選手にとってウェーバーは負担になり得るものだと思います。
低迷を続けるエンゼルスから出てプレーオフ争いができると喜ぶ選手もいるかもしれない一方で、TDLでやってきた選手は1ヶ月足らずでまたも球団都合によって移籍を余儀なくされるわけです。
また、チームにおいては球団と選手との関係性や、仲間意識の醸成等はとても大切です。

一方で、贅沢税超えの補強を敢行したにもかかわらずコンテンドに失敗し、しかしそのなかでも来季以降も戦わなければならないエンゼルスが、選手のことを思ってそのままでいる余裕はなかったということもまた確かでしょう。
贅沢税超過のペナルティを確実に受け、怪我人の復帰や来季もいる若手の起用を難しくしながら、オフにいなくなる可能性が高い選手たちを残して試合に出す、というのも来季以降も戦っていくチームとしてあるべき状態とは思えません。

チームからすれば、贅沢税ラインを下回って来季への重い足枷を軽くすることを狙えるうえ、離脱者の穴を埋める形の補強によって膨らんでしまったロースターを整理することができ、来季を見据えた怪我人の復帰や若手選手の起用に繋がります。
つまり、経済的な面と編成上の両方から、来季以降のチームの弱体化を食い止めることができる方策といえます。

来季以降も戦うにはやらざるを得ないもので、現行のウェーバーシステムと他球団の白熱するPS争いを利用した冷静な動きだったと個人的には捉えています。
コンテンド失敗を認め、オフにいなくなる可能性が高い選手の放出で来季以降に響きにくい形を作れたのはせめてもの挽回策だったと思っています。

おわりに

本noteではウェーバーの是非について、私の考えを書いてきました。とはいえあくまで一意見ですし、必ずしも正しいとは限りません。みなさんはどうお考えになったでしょうか?

また、エンゼルスが贅沢税ラインを下回れたかどうかは近々明らかになる予定です。
もちろん支払い回避にトライしたことに意味はありますし、いずれにせよ枠を空ける意味はありましたが、ウェーバーを敢行してなお下回れていなければ残念です。明らかになるのを待ちたいところですね。

【12/4追記】
エンゼルスが贅沢税ラインを下回れていたことが判明しました!わずか$30K (約450万円)だけ下回ったようで、今回扱ったウェーバーやスタッシの制限リスト入りが功を奏した形となりました。

本noteは以上になります。最後まで読んでくださりありがとうございました!


【注釈】
一度下書きの時点で投稿してしまったため本noteの投稿日が8/31と表示されていますが、実際の投稿日は12/3です。

※1 対象選手たちがアウトライトを拒否でき、かつ年俸を負担されるのは、彼らが全員サービスタイム5年を超えているからです。
この辺りについてはフレッチャーのアウトライトについてのnoteで説明しましたので、詳しくはこちらをご覧ください。

※2 大谷選手がQOの対象選手であるためです。
なお、贅沢税については必要になりそうな分に限って説明しています。
もう少しちゃんと知りたい方は、Felixさんの記事が分かりやすく網羅なさっていますのでこちらをご覧いただければと思います。

※3 実際に来季エンゼルスが贅沢税ラインを超えるかはまた別の話にはなりますが、シーズン中に超える可能性は少なからずあると思います。

※4 マイナーから新たに40人枠に加えられた選手にも金銭支払いが生じますが、最低年俸の日割りになるためそこまで大きい金額にはならないはずです。

※5 例えば、もらう選手をより強い選手にしてほしいため別で高年俸選手の支払いを引き受けるチームAと、そこまで機能していない高年俸選手を出してサラリーを削減したいチームBがトレードし、高年俸選手を引き受けたチームAが年俸だけ負担してその選手をすぐ放出するといったケースもしばしば見られます。
(今回のトレードデッドラインでもジーン・セグラという例がいました。)

追記
12/4 贅沢税回避判明の旨追加と、表現について細かい変更を行いました。

【出典等】
見出し画像はエンゼルス公式Twitterより引用しています。
下線が引かれている箇所にはリンクが付されています。
なお、内容の正確性には注意していますが、もし間違い等ありましたらお知らせいただけると大変助かります。

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