アイドル


現実の空に飽き果てた私を、連れ出してほしい。

彼らは、人生と共にある。
まだ大した年数を生きていないけれど、覚えている人生のほぼ半分を彼らとともに過ごした。入学式は二回、卒業式は三回経験した。成人式もあって、入社式もあった。
私は生粋のヲタクだけど、気の多いヲタクだ。
ずっと彼が一番だったわけでは無い。辛いときに寄り添ってくれたのは彼では無かったこともある。
でも、泣きたくて辛くて、意味もなく死にたくなった時、必ず聴く音楽があった。
エレキギターの前奏が流れ始めると、私の存在を肯定してくれる。車のシートで眠る夢を見ながら泣いた夜は数えきれない。
大好きだ。この曲が、この曲と共にある思い出が、彼が、寿嶺二が、心の底から大好きだ。

楽しいことばかりではない。
降りようと決心したこともある。
それでも日常にふと彼を見かけると、ただ本当に幸せであってほしくて、未練がましく連れ帰っていた。がましく、ではない。それは明らかに未練だった。
嫌いになったことなんて一度もない。

ゆったりと永い日々が過ぎ、彼らの後輩が公演を始めた。多くの人が一目見ようと押し寄せる。私も引きずられるように会場に入った。

メシアだった。夜空に燦然と輝く7つの星は、非現実を肯定し、そこに変わらずに、いや、知っている姿よりも格段に進化してそこに存在した。

泣いてしまった。軽々しく響くこの言葉が持つ本来の意味で、感情がこみ上げた。共にあるために努力していてくれる。週末の度に通っては泣いた。自分を取り巻く環境はこんなに大きく変わったのに、彼らは例えようもなく優しい。愛おしくて、楽しかった思い出が涙として溢れだす。


そうしたら、私には会いたくなる人たちがいる。


現実の空は窮屈だ。天気こそ変わるが変化なんてしない。自分の可能性も見失って、その場しのぎで生きている。日々の忙しさに殺されて、心が先に死んでいく。心が死ぬと、意味もなく些細なことで死にたくなる。
これが現実の空に飽きる、ということなのだとしたら、私は、他でもない彼らに、連れ出してほしかった。

SSS当選は幸運だった。
あいにくの空模様だったが、それもそのはず。待ち望んだ逢瀬だ。空も嫉妬する。

彼らは、”存在”した。
私の手を強い力で引っ張って、瞬き輝く世界に連れ出してくれた。

会いたかった。伝えたかった。
アイドルとして輝く彼らは、誰が何と言おうと王者だ。

フラッグを掲げて堂々と歌いきる。涙よりも先に悲鳴が出た。格好良すぎる!
カルナイは4人だ。どんな数字よりも、4人でいることに価値がある。
贔屓目だ。推しフィルターなんて何枚もかかっている。承知の上で、これは恋に近い衝撃だ。ビビっと来てしまった。

寿嶺二は私の中で、博愛精神で生きることなかれ主義者。だから彼を愛するのは難しい。全てが愛おしく思えるから。グループや事務所の垣根を超えて、彼が愛する全てを愛したいと思ってしまう。
だから、勝手にまた応援することにする。
まだ終われない夢を咲かせる彼、彼らを、ずっと好きでいさせてほしい。


だから物販はもっとがんばれ。


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