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Bon Joviはすごい!〜ハードロック・ヘヴィーメタル雑語りへの反論〜:オジ&デス対談第8弾 Vol.2

 モスクワ・ミュージック・ピース・フェスティバル(以下、「モスクワ・フェス」)の話から始まった今回の対談。Vol.2でも引き続き、このフェスを補助線にして、かつての東西冷戦時代と2020年代の世界情勢や「ロック語りオヤジ」による無責任な語り口とその弊害について考えていきたいと思います。

音楽が社会を変えたという物語

デス:今回の対談で語りたかったことは何かっていうと、昔から音楽マニア、特にロックファンっていうのは、達観したニヒリスト気取りで時に「音楽で世の中なんか変えられないんだよ」みたいなことを言いたがる一方で、“ロックが社会を動かしたストーリー”がやっぱり大好きなんだよね。

オジサン: あの、よくあるやつあるですか?「大事なことはみんな音楽が教えてくれた」みたいな?

デス:そういう個人的な話もそうだし、あとはウッドストックとかライブエイドみたいな音楽フェスの歴史的意義とか、「パンクっていう音楽はイギリスの労働者階級の若者たちの“怒りの声”を体現していて、当時の保守的で新自由主義的なサッチャー政権に対する反旗だった」みたいなストーリーとか。グランジやオルタナに関しては、「ジェネレーションXの抱える閉塞感を表現したことで爆発的なムーブメントになった」とかね。

オジサン:ああ、なるほど。ロックが社会や世界にどう影響してきたか、みたいなやつですね。

デス:そうそう。他にも、グランジと近い時期のイギリスだったら、マッドチェスター・ムーブメントやレイヴ・カルチャー的なものについても、「我々はただ踊り続けることによってナンタラカンタラ〜」みたいなポエティックな語り口で、とにかく音楽が社会や世界とどういうふうに影響しあったとか、そういう話がなんだかんだで好きなんだよ。それ自体は悪いことではない。でも、その割に、ハードロック/ヘヴィーメタル(以降、ハードロックはHR、ヘヴィーメタルはHMと表記する)に関しては、世の中を良い方向に動かすような特別なパワーはない音楽ってことにしてる。

オジサン: 確かにHR/HMに関しては、彼らの口からはそういう話を聞きませんね。

デス: 彼らは、HR/HMが世の中を動かしたことがあっても、そういう点に積極的には着目したがらないし、もともとバカにしてるから、そういう可能性について考えないんだよ。Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン、以下「ツェッペリン)やQueen(クイーン)みたいに「HRの枠組みを超えたバンド」とされているバンドについては、例外かもしれないけれども。

オジサン: ツェッペリンで思い出しましたけど、「HMを最初に始めたのは誰だ?」論争ってのもあるじゃないですか。あと、「HMはこれとこれだけ聴いてればいい」みたいな言説もあったりしますよね。

デス:そうなんだよね。ロック親父たちって、HR/HMというのはこの世に必要のない音楽だの、80年代のHR/HMはロック史においては重要な意味を持たない空虚な音楽であっただの、そういうことを言う割に、でも、「HR/HMを始めたのは俺たちが敬愛する誰々…例えば、ツェッペリンなんだよね」って言ってみたりとか、「いや、さらにその前のThe Who(ザ・フー)なんだよね」「いやいやThe Beatles(ビートルズ)だ」「いや、The Kinks(キンクス)だ」とか、言いたがるわけだよ。HR/HMをバカにしてるくせに。

オジサン:ちょっと意味がわかりませんよね。

デス:HR/HMをバカにしておいて、その音楽を始めた手柄だけは、自分の好きな偉大なアーティストとやらに持たせたがるんだけど、そんなにバカにしてるんだったら、どっちかっていうとHR/HMの始祖であることは汚点じゃないの?って思うよね。「ビートルズがHR/HMを始めなければ、あんなくだらないジャンルは登場しなかった。これはビートルズの最大の汚点だ」「すべてはメタルを始めたツェッペリンが悪い!」って話になってもいいはずなのに。

オジサン:いや、ほんとそうですよね。で、最初の話に戻りますけど、過去の色んなロックフェスとか他の音楽ジャンルに関しては、それがどう社会に影響を与えたかということを語りたがるのに、HR/HMに関してはそういった影響はなかったことにされがちだ、と。

デス:うん。だから、モスクワ・フェスについても、出演者が80年代のハードロック・バンド中心だから(但し、スコーピオンズとオジー・オズボーンは70年代から活動している)か、ウッドストックとか他のミュージック・フェスティバルと違って、語りもしないし、そもそも知りもしないみたいなかんじ。

オジサン:対談の最初にも言いましたけど、ボクもデスのひとが今回話題にするまで、よく知らなかったですからね。

デス:それは語り継ぐ仕事をすべき人々がちゃんと仕事してないからだよね。
 で、60年代や70年代のロック全盛期から80年代まで活躍してきたひとたちって、モスクワ・フェスの時期には、大御所ではあっても、そのほとんどがもう流行りの中心ではなくなっていた。だから、すでに話したように、東側のソ連に入国できて、大観客の前で、異国の若者向けに、一体感を促すような音楽をやれるバンドっていうのは、案外限られてたわけだよ。

オジサン:そうですね。

デス:あのモスクワ・フェスでも、実は誰をヘッドライナーにするかでかなり揉めたって裏話があるけど、あの面子の中でも、あの役割が最適だったのは、やっぱりBon Joviだろうなあって思うんだよ。

オジサン:すでに話している通り、色々考えてみるとそういう結論になりますよね。


アビーロード

モスクワ・フェスから考える東西問題

デス:あとさ、ロックフェスってトラブルも起きがちじゃん?“オルタモントの悲劇”とか有名だけども…。

オジサン: “オルタモントの悲劇”って何ですか?

デス:オルタモント・フリーコンサートで、The Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)の演奏中に観客が殺害される事件があって…

オジサン:あ、あれですね。ヘルズ・エンジェルスの…

(編集註:オルタモント・スピードウェイで開催された、ローリング・ストーンズ主催のフリーコンサート。会場決定が開催日の直前だったこともあり設営や警備に不備も多かった上に、何十万という人が集まったことで会場では殴り合いなども多発。また、ヘルズ・エンジェルス(地獄の天使)というバイク・ギャングに警備を担当させたことも事態を悪化させたと思われる。ストーンズの演奏中にステージに銃を向けたとされる黒人青年がヘルズ・エンジェルスのメンバーに刺し殺された他、このフリーコンサートでは事故死を含めて4人の死者が出ている)

デス: うん。でも、ロックフェスに不慣れなソ連の会場で特にトラブルもなく盛況のうちに終わったっていうのは、それだけでもまあまあすごい。

オジサン: まぁ、けっこうな数の警備兵を配置していたくらいですしねぇ。

デス:でさ、今って、新しい冷戦が始まったとか言われるように、時計の針が逆に回ってる。もう20年ぐらい前から、急速に経済成長している中国がこのまま軍事的にも大きくなると新しい冷戦が始まるんじゃないか、とは言われていたけれども、残念ながらいよいよ本格的に新しい冷戦の兆候が見え始めてるよね。しかも、思ってたよりも深刻な様相。

オジサン:そうですよね。

デス:モスクワ五輪ボイコットの話はもうしたけど、件のアフガニスタンは、ソ連侵攻と撤退の後、しばらくしてアメリカが侵攻したり色々あって、結局、最終的にまたあの悪名高いタリバン政権に戻って、アフガンの人たちは未だに苦しんでるわけだよね。ロシアはロシアで、せっかく一応は民主国家になったはずなのに、プーチンの独裁政権化が進む中でウクライナに侵攻したり、まるでスターリンの再来のようになってる。そんな今のロシアで、ああいうフェスって開催できると思う?

オジサン:まぁ無理ですよね。

デス:今でもロシアで西側のアーティストの単独公演はできないわけじゃないだろうけれど、やっぱ音楽フェスってメッセージ性があるからさ。当時も思い切り「米ソ友好!」とか「もう冷戦なんかやめよう!」とかいうストレートな文言は使ってはいなかったけれど、このまま雪解けに向かいたいよねっていう空気が確かにあったわけだよね。

オジサン:モスクワ・ミュージック・「ピース」・フェスティバルですからねぇ。

デス:で、そういうメッセージっていうのは、多かれ少なかれ双方に変化や歩み寄りを促すものだから、今やったらロシア政府から見れば「プーチン大統領、あなたもこの戦争状態を終わらせるために力を尽くしなさい」ってメッセージになっちゃう。まぁ、ウクライナへの侵攻を続けたいプーチンにとっては当然面白くないよね。

オジサン:プーチンにとって面白くないのもそうですし、それだけに限らず、ウクライナを支持している国々における「ロシア文化ボイコット」の影響も無視できないんじゃないですかね。ニュースなんかで見聞きした範囲でも、ロシアによるウクライナ侵攻後、ドイツの青少年合唱団だったかオーケストラだったかがモスクワに公演に行くの行かないので揉めたとか、逆にロシア出身のアーティストがヨーロッパの各地で解雇されるような例も相次いだようですし。どっち側もモスクワ・フェスの頃とは逆の非友好的な態度を取る感じになっちゃってますよね。

デス:そうそう。対立の仕方がモスクワ五輪ボイコットの時ぐらいの敵対ムードになってるし、今はなんせプーチンがトップだから、一応ゴルバチョフがトップだったモスクワ・フェスのときよりも悪いと言ってもいい。しかも、どういうわけか、昔と違って欧米の右寄りの連中は今のロシアやプーチンが好きだったりとかして、それはそれでおかしい。欧米に関して言うと、どちらかと言うとリベラルとか中道保守とかの人たちがロシアに対して厳しいし、ロシアをボイコットすべきだっていう論調になってるよね。

オジサン:ウクライナの映画監督(編集註:セルゲイ・ロズニツァ、ベラルーシ生まれ、ウクライナ育ちの映画監督。ロシアの社会を批判するドキュメンタリー作品『ドンバス』などが有名)が、「ロシアだからってボイコットするのではなくて、芸術や文化に関わる人間こそが交流を続けなきゃいけないんだ」みたいなことを言って、めちゃくちゃに批判されたりとかしてたじゃないですか。あれ、すごく変だなって、ボクは思ってるんですけど。

デス:小泉政権下での北朝鮮に対する右派の過剰な強硬姿勢と同様、ロシアに対する西側のリアクションにもすごい危ういところがあるよね。そういう意味でもあのモスクワ・フェスって様々なことを考える材料になるわけだよ。今、現状ではロシアで普通の音楽フェスなんてとてもじゃないけど難しいって話をしたけども、あの頃だって、べつに簡単じゃなかったんだよね。でもさ、かつてあのフェスがあったからこそ、今もああいうフェスが必要だよね、せめてあの頃ぐらいには関係性を良好に戻さなきゃいけないよねっていうことを考えるきっかけが得られる。まあ、そういう偉業を成し遂げているわけだよね。その流れに乗って、1991年には、モスクワ・フェスに続く西側ミュージシャン主催のフェスとして、HR/HMの祭典であるモンスターズ・オブ・ロックのロシア版が開催されているし。

オジサン:そうなんですね。どちらもHR/HMの偉業としてきちんと語り継ぎたいですね。


統一後も保存されているベルリンの壁

Wind of Change 〜あまり語られない功績〜

デス:モスクワ・フェスに関して、Bon Jovi以外の話をすると、オレが同じくらい感動したのは、クラウス・マイネなのね。

オジサン:Scorpions(スコーピオンズ)のヴォーカルのひとですね。

デス:あのフェスの映像を色々見てると、トリのBon Joviまで全てのバンドが順番に演奏し終わって、その後にちょっと余興みたいなかんじで、各出演バンドのメンバーたちが入れ代わり立ち代わりで交じり合って、オールスターで往年のロックナンバーを一緒に演奏しているんだけど…。あれは、最初から企画されたものなのか、即興でやってるのか、ちょっとわかんないけども、なんとなく「もうちょっとパーティーを続けようぜ!」みたいなノリなのよね。

オジサン:ステージ衣装じゃなくて、普段着っぽいTシャツ着てたりするメンバーもいましたよね。

デス:それで、その場でみんながすぐに演奏できて、アルコールやドラッグ(の撲滅)や世界平和と関係が深いミュージシャンの楽曲で、みんなが知ってる…ソ連の若者も知ってるような曲、具体的にはElvis Presley(エルヴィス・プレスリー)とかツェッペリンとかLittle Richard(リトル・リチャード)とかPlastic Ono Band(プラスチック・オノ・バンド)とかを演ってるんだけど、そこで誰よりもクラウス・マイネがね、すごく張り切って歌ってる。Scorpionsは、あの中ではベテランだし、一応ソ連公演自体はあの時点で2回目だったんだけど。モスクワ・フェスはベルリンの壁が崩壊する直前なんだよね。

オジサン:壁の崩壊は同じ年の11月ですからね(モスクワ・フェスは8月)。

デス:もちろん崩壊の兆しみたいなのもあったのかもしれないけど。Scorpionsのメンバーは、戦後生まれではあるけれど、オレらよりはずっと上の世代で、自分たちの親がナチス政権や第二次大戦を体験した世代で、独ソ戦の記憶とかがまだ新しくて色濃い時代に幼少期を過ごしてるし、生まれた時にはもう東西分裂してて、東ドイツとその背後にいるソ連の脅威ともずっと対峙してきた。当然ながら連合国軍の占領も幼いながらに経験している。

オジサン:東西冷戦の、地理的な最前線で生まれ育って生活してたわけですよね。

デス:そうそう。そういう西ドイツのバンドであるScorpionsのクラウス・マイネが、他の若いバンドのメンバー以上に張り切ってる感じがある。彼はすごく歌が上手いから、プレスリーとかのラフなロックンロールみたいなものを歌わせると、上手すぎてちょっとミスマッチに聴こえたりもするんだけど、そういうことも気にせずに張り切って歌っているあの感じがね…。

オジサン:感動的である、と。

デス:まあ、これはオレの勝手な想像だけれども、東ドイツ対してもソ連に対しても、いろんな複雑な思いを抱えざるを得ない西ドイツの国民でありミュージシャンである彼にとっては、あの場に立って、米英独露出身の同じロック仲間と一緒に、ソ連の若者たちを相手にひたすら楽しく演奏できるっていうのがすごい感慨深かったんじゃないかなっていう風に見える。現にね、そのすぐ後のアルバムで、Wind of Changeっていう曲を発表しているのね。この曲は、今ではScorpionsの代表曲のひとつとされているけど、タイトルの通り、「変化の風」、つまり、冷戦が終結に向かっているなっていう当時のポジティブな空気を歌った曲で、モスクワでのその経験とかもその歌を作る上で…

オジサン:関係していますよね。

デス: このWind of Changeが、実はCIAがこの曲を作る上で関与してた、なんて噂があって(※海外ジャーナリストらの検証によると、この噂は根拠に乏しくてほぼデマらしく、作詞作曲を担当したクラウス・マイネは「僕は聞いたことない話だ。興味深いし、映画になりそうでクールだ」「ちょっと変な話だけど、一方で音楽が持つ力を示している」などとユーモア交じりでコメントしている)。

オジサン:そうなんですか(笑)

デス:うん。まぁ、そういう変な噂があったりもするんだけど、なんにしても良い曲だし、それこそDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)のHeroesなんかと同様に、欧米では“冷戦終結に一役買った名曲“みたいな扱いをされている。でも、日本国内では、デヴィッド・ボウイのHeroesほどは評価されてないように感じるんだよね。発表から30年以上経って、変な噂がつきまとうくらいに有名で、評価も高く売れた曲なのに。

オジサン:まあ、そもそもその両者に対するアーティストとしての評価の違いっていうのがすでにありますよね。それで、今のクラウス・マイネが張り切ってたって話ですけど、壁があった時代にドイツで生まれ育った人は、いろんなことを考えざるを得なかっただろうとは思いますね。
 Scorpionsはハノーファー出身でベルリンからは地理的には遠いですけど、冷戦を身近に感じているからこそ、アメリカやイギリスから行った他のアーティストたちとはまた全然違った感覚があったっていうのは、確かにそうなんだろうなと思いますね。(編集註:ドイツは東西に分断された際、首都ベルリンも東西に分割された。ベルリンは東ドイツ領内にあったため、西ベルリンは東ドイツの中にある西ドイツの飛び地になっていた。)


統一後も保存されているベルリンの壁

無責任な論評と厚顔無恥な態度

デス:でさ、昔は、HR/HMをどちらかというとバカにしてたような雑誌も、近年は無節操にBon Joviを表紙にしたり、Def Leppard(デフ・レパード)のライブレポートを載せたりとかもしているから、今ではどうかわかんないけども、オレが音楽雑誌をよく読んでた頃には、ライブエイドとかウッドストックの話は良く出てくるけれども、モスクワのこういう話をHR/HM系専門ではないロック雑誌が熱心に取り上げていたことって、ちょっと記憶にないんだよね。

オジサン:割とロック親父が好きそうなエピソードですけどねぇ…。

デス:「NIRVANA(ニルヴァーナ)とかPearl Jam(パール・ジャム)とかが、アメリカの肥大化した音楽産業にNOを突きつけた!」「Sex Pistols(セックス・ピストルズ、以下「ピストルズ」)やThe Clash(クラッシュ)が金持ちの音楽になり下がったベテランロック勢を一掃した!」みたいな話はやたらとありがたがって、しつこくしつこく、もう耳タコだよレベルに繰り返しているのにね。でもさ、ぶっちゃけ、物語のスケールとして、どっちの方が大きいか、国際社会的な意味が大きいかって言ったら明らかでしょ。

オジサン:はい。

デス:それなのに、「NIRVANAとGuns N' Roses(ガンズ・アンド・ローゼズ、以下「ガンズ」)は同じレーベル所属だけど、カート・コバーン(NIRVANAのフロントマン)がガンズが嫌いだったから、同じパーティーに出席したくないと言った」とかいうどうでもいい話を引っ張り出して、「カートのロック産業の商業主義に対する徹底的なまでの嫌悪感と繊細さ」みたいなものをえらく有り難がって繰り返し語ってるんだよ。

オジサン:あの〜、売れたくないならデビューしなければいいんじゃないですかね?
 あと、そういう“反旗を翻したアイコン“みたいにされちゃったのが、カートにとっては重荷だったんじゃないかっていう気もしますしね。

デス:そもそも、NIRVANAは、"アンチ偶像崇拝"っていうようなことを言ってたわけだよね。また、NIRVANAのそういう部分を、いわゆる"ロックスター"然としたロックミュージシャンが多かった80年代とはすごく違うタイプのミュージシャンだってことで、もてはやしてたところがある。でもさ、偶像崇拝を否定するって言ってるミュージシャンをありがたがって結局偶像にするっていうのは、それはどんだけマヌケなのかっていうね。

オジサン:本当ですよね。

デス:自殺したという事実を取り上げすぎてたのも問題があるし。でさ、NIRVANAがブレイクしたのが91年だけれども、モスクワ・フェスは、その2年前なわけだよね。たった2年前のことはネグるくせに、カート・コバーンが繊細でなんたらかんたらみたいな話はいつまでもずっとし続けてる。それで、「俺たちはあんなチャラついたHRじゃなくて、本当に世界を変えるような、人々の心を震わせるようなロックが好きなんだ」みたいなこと言ってるんだけれども、甚だ疑わしい。しかも、そういうふざけた態度をとっていたにもかかわらず、そういうのを1ミリも反省してる様子もなく、今頃になってBon Joviを表紙にしてね、「総特集!時代を超えるアンセム」「USロックの王者」とか言ってんだよ。お前らその「アンセム」「王者」をバカにしてなかったっけ?って話なんだけど。

オジサン:ロキノン(日本の音楽雑誌Rockin' Onのこと)ですね。

デス:そう、ロキノンのことだけど。

オジサン:せめて、当時自分たちはこんな態度だったけど…、みたいな反省をちょっとはしろよ、って気持ちにもなりますよね。

デス:一般論としてはアーティストだって人間だから、そういうことに傷ついたりストレスが溜まったりするわけだよね。いや、まったく平気なひともいるかもだけど、それはその人が特殊なわけであって、普通は相応に嫌な思いをするわけだよ。音楽関係であれそれ以外であれ、ライター連中だって、自分たちの仕事をいい加減に中傷されたら辛いわけでしょ。
 で、モスクワのああいう映像を見たら、みんなすごく一生懸命音楽をやってるのがわかる。それなのに、適当に、あんなものはくだらない産業ロックだ、とかさ…。

オジサン:簡単にいうと、オワコン扱い、って感じですか?

デス:そうそう。Bon JoviとかOzzy Osbourne(オジー・オズボーン)とかScorpionsくらいのバンドになると、別にそういうちょっとした流行り廃りとかにもあんまり左右されずに、その後も活動できていたけども、もうちょっと小さいバンドとかだったら活動がままならなくなっていた可能性もあるわけじゃん。

オジサン:なんならあれですよね。あのAnvilの映画(『アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち』)じゃないですけど、それなりのクオリティのデモテープを作っても契約してもらえないとか、80年代だったら当たり前のようにデビューできたようなバンドがデビューできなくなったりとかするわけですよね。

デス:要するに、才能のある人たちを潰しているわけだよね。しかも、すごくくだらない理由で。
 比較的HR/HMが人気あるって言われる日本ですら、例えば、SEX MACHINEGUNS(セックス・マシンガンズ)はデビュー前後、ちょっとビジュアル系っぽいルックスにしてたりもしたんだよ。音楽的には純粋な正統派ヘビメタをやってるようなバンドは、ライブハウスで出演お断りされちゃったりするからっていうことで、外見を流行に寄せてたと聞いた。

オジサン:そうだったんですか?!

デス:まあ、それも含めてネタっぽくやってるっていうか、明らかにビジュアル系のパロディですよみたいな感じなんだけど。ただ、ああいうバンドだったから、そういう逆境も、ある種のお楽しみにできたんじゃないかな。

オジサン:まあ、SEX MACHINEGUNSって、バンド名もピストルズをモジって「そっちがピストルならこっちはマシンガンだぞ」みたいなバンド名ですし、歌詞もちょっと大まじめに敢えてふざけてるみたいなところがあって、そういうスタイルのバンドだからこそできた、みたいなところはあるかもしれないですね。

デス:でもさ、あんな実力のあるバンドでさえ、そういう苦労をして、特別な演出しないと、デビューもできないし、ライブもできないみたいなのは、営業妨害というか、まぁ酷いよね。いろんなジャンルの人たちが、いろんなところで活躍して緩く共存してりゃいいわけじゃんね。つまり、ロキノン親父的な謎のHR嫌いの連中っていうのは、人の夢とか仕事を暇つぶし程度の動機で盛大に邪魔してるわけだよ。

オジサン:あ、ちなみに、一応言っておきたいんですけど、ボクたち別にNIRVANAとかパール・ジャムとかも好きですよ。なんなら、パール・ジャムはデスのひとがかなり好きなバンドの方に入りますよね?

デス:うん。グランジでめちゃくちゃハマったのはSoundgarden(サウンドガーデン)とAlice in Chains(アリス・イン・チェインズ)だし、NIRVANAもほぼ全部持ってるしね。

オジサン:ボクたち、別にオルタナ勢が嫌いなわけじゃなくて、オルタナ勢を持ち上げるためにヘビメタ下げをする奴らが嫌いっていう話をしてるので、まあそこは誤解されたくないなっていうことで。

デス:しかもね。いざヘビメタが嫌いな理由を聞かされて「まぁオレとは考えが違うけれども、あなたはそういう考え方なのね」「趣味や価値観の違いだよね」と納得できるような普通の理由だったり、「面白い見解だな」と興味深く聞ける理由ならいいんだけども、だいたいの連中はテキトーなこと言ってるだけなんだよね。

オジサン:だいたい聴きもしないで言ってますよね。


デス:そう。でさ、カート・コバーンは、音楽産業の犠牲になった人、なんなら殉教者みたいな扱いされてるわけだよね。音楽業界に反旗を翻したものの、不器用だったからうまくサバイブできなかった、みたいなね。それは間違ってないかもしれないけれども、一方でロックスター的な立場をそれなりに楽しんでたという証言もある。あと、カートは、売れるようになった後でだんだんと奇行が増えていったから、アメリカではそういうのを悪趣味に面白がるゴシップ記事とかもあったらしいんだよね。

オジサン:ああ〜、“エキセントリックなミュージシャン“を面白がる、あの感じですね。

デス:オレは、そういう海外の記事はリアルタイムで直接は読んでないけど。で、カートはそういうゴシップ系メディアや軽薄な音楽雑誌のしょうもない報道のせいで消費され犠牲になったみたいな語り方もされるわけだよ。でも、そうやってカート・コバーンに同情してみせるライター連中は、音楽雑誌やメディアに関わる者としての責任感をどのくらい持ってるの?って訊きたいんだよね。実際にHR/HMをテキトーに貶しておいて、なんの責任もとってないわけじゃん?

オジサン:そうですね。

デス:で、図々しくもBon Joviを表紙にしてるわけじゃん。それでよく「カート・コバーンは辛かったんだ」とか言えるよね。カート・コバーンみたいな人を追い詰めてるのは、お前らと変わらないような奴らじゃないの?って言いたくなるわけだよ。

=Vol.3に続く=


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