暖かな午後に衝撃を受けた話
今はもうなくなってしまったが、よく通っていたマンガ喫茶があった。
当時はまだネットカフェという言葉は一般的ではなく、普通の喫茶店と同じような店内にたくさんのマンガが置いてある形式がよくあった。
その店は会員証などもなく、仕事途中のサラリーマンがよく休憩していた。買い物の主婦や、ヒマをもてあました学生など、みんな黙々とマンガを読んでいた。
わたしはそこでよくアイスティーを頼んだ。
実はこのアイスティー、メニューには載っていない。ただ、頼めば普通に出てくる。別においしいというわけではなく、単に安いからよく注文していた。
その日は、いつものように店内に入り、店の奥にある1人がけの椅子に腰掛けた。近くを通りかかった店員に声をかける。
よく来るお店なので、だいたいの店員の顔は把握している。
だが、その若い男性の顔には見覚えはなかった。
新しく入った学生なのだろうか。どことなく不慣れた雰囲気がある。
「注文いいですか?」
「はい」
男は伝票を手に取った。
「アイスティー、1つください」
わたしの言葉に対して彼は信じられない一言を返した。
「ホットのアイスティーですか?」
え?
ホットのアイスティー?
どういうこと??
わたしは驚きの表情を浮かべたが、彼はそんなことお構いなしに返答を待っている。自分の発言に対して、一切疑問はないようだ。
「あの、アイスティーなんですが」
「ああ、冷たい方のアイスティーですね。かしこまりました」
頭が頭痛だ、みたいな答えだ。
数分して、氷が浮いたアイスティーが運ばれてきた。
もしあのとき、
「ホットのアイスティーで」
と答えたら、一体に何が運ばれてきたのだろう。
ただの紅茶だろうか。
ホットのアイスティー。
一度お目にかかりたいものだ。
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