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カラオケでのめずらしい光景の話

わたしの知人にトリと呼んでいる男がいる。

もちろん本名ではなくあだ名で、なかなか独創的な人物なのでエピソードにも事欠かない。

彼は音痴である。

これは自他共に認めるもので、本人に直接事実を言えなくて曖昧な笑みを浮かべる必要もない。本人もよく言っていたし、周りからも言われていた。中学の時、自分の音痴のことを弁論文に書いたくらいである。

3~4ヶ月ぶりに彼と2人でカラオケに行ったときのこと。
彼は歌いたい曲があって前日から何度も聞き込んでいた。

そして、いざ歌ってみると、

「あれ?おれってこんなに音痴だっけ?マジで?ちょっとショックなんだけど」

と愕然とした表情を浮かべていた。

何度も曲を聴いていただけに音の違いがハッキリと分かったらしい。
わたしは事も無げに「うん、そうだよ」と答えた。

ショックを受けつつも彼は歌い続けてる。

ここでもう1つ、重要な事実を説明しておく。

彼は重度の花粉症だった。

一年中だいたいグズグズなっているのだが、花粉のシーズンになると見ていて哀れになるほどだった。あまりのかゆさにかきまくっていたら目尻から血が出たこともあった。

その日は室内と言うこともあり、花粉症はひどくなかった。
しかし、それから信じられない光景を目の当たりにすることになる。

わたしは某アーティストの「flower」という曲を入れた。
画面いっぱいに花畑が映し出される。

すると、今までまったく何ともなかったトリがくしゃみをしだしたのだ。
「うそだろ?」と思ったのだが、画面に花畑が出るたびにくしゃみをしている。

どうもバーチャル花粉にやられているようだ。

別な曲で、空からの光景が画面に出たときも盛大にくしゃみをしていた。
「なんでこれでくしゃみでるの?」と尋ねると、
「大空に自分が羽ばたいて大量の花粉を浴びるイメージをしたから」と答えていた。

いやはや、人体とは不思議なものである。
それとも彼が特殊なだけなのだろうか。

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