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iTunesでは聴けない BUMPの幻の名曲

いつもポケモンの話ばかりしているので、たまにはBUMPの話をする。


僕は中学生の頃にBUMPを聴くようになって以来、かれこれ10年以上にわたって彼らの楽曲を愛している。何ならほとんどBUMPの曲しか聴かないという、BUMPファンの中でもかなりとんがった部類だと思う。


別に「BUMP以外はカス」みたいな排他的思想の持ち主ではなくて、ただ単に色々なアーティストを聴くのが性に合わないだけだ。たくさんのものに手を出すことが得意でなく、どちらかといえばひとつのことについて掘り下げたい人間なのである。そうは言っても近頃はアニメの曲なんかも聴くようになったので、だいぶ丸くなったとは思うけど、それはまた別の話。


今回話したいのは、最近になってBUMPの曲を聴くようになった人が知らないであろう、とある名曲について。この曲は僕が中学生の頃に「カルマ」と時を同じくして作られたのだが、恥ずかしながら僕は数年前までこの名曲の存在を知らなかった。それには曲の成立に関するちょっとした理由がある。


もったいぶっても仕方がないので曲名を明かすと、「冒険彗星」という、いかにも宇宙が好きなBUMPらしいおしゃれなタイトルがついている。これがとんでもない名曲なのだが、残念ながら世の中にはあまり知られておらず、BUMP通の人ですら知らないでいるような状態が続いている。


「冒険彗星」は「カルマ」と同じく、アニメ「テイルズ オブ ジ アビス」のために制作されたのだが、「カルマ」をBUMPのメンバーが演奏しているのに対して、「冒険彗星」は榎本くるみさんが歌っている。早い話が、BUMPの名義ではなく、あくまで藤原基央による楽曲提供という形になっているのだ。


こういう経緯があるので、BUMPによる演奏がなされたことは一度もなく、CDはおろかライブでさえメンバーの演奏を聴くことはできない。ある意味では幻の名曲と言ってもいいかもしれない。プロデューサーから楽曲提供を提案された藤原はあまり乗り気ではなかったらしいが、最終的にはやってよかったと語っているそうだ。


音楽について語ることはただでさえ難しいものだけど、「冒険彗星」の素晴らしさについても「騙されたと思って聴いてくれ」としか言いようがない。それでもあえて言語化を試みるなら、まるで彗星のような曲だとでもいう他ない。


夜空を流れる彗星の輝きは見る者の心を揺さぶる一方で、その輝きは数十年に一度、あるいは数百年に一度という周期で、しかもほんの数分の間にしか出会うことのできない奇跡的なものだ。「冒険彗星」はアップテンポなメロディラインで彗星の目撃者となるワクワク感を表現する一方で、その儚く刹那的な光に人と人との出会いを重ね合わせた歌詞によって、出会いと別れがもたらす喜びと悲しみの間(あわい)に身を置き、胸を裂かれそうになる登場人物の思いを見事に描き出している。


出会いが奇跡であったことに気がついた時には、すでに魔法の時間は終わってしまっていて、別々の道を歩み出す決意をしながらも、ふと後ろ髪を引かれてしまうような、そんな切なさだ。


自分の軌道と光度で 心は燃えて声に変わって
繋がって生まれた 偽りのないメロディ
その鼓動と周期を 把握して生まれた意味は
生きてゆく意味など 超えた場所にある

「冒険彗星」


彗星は物理法則に従って定められた確かな軌道を歩む。星々は自分の進むべき道を知っているのだ。そして一度すれ違ったふたつの星々は、もう二度と出会うことはないだろう。


あなたと繋いだこの歌を 
歌いながら 迷いながら
私はここ 冒険の途中 
ひとりにひとつ与えられてしまった 世界の真ん中

同上


星々は生涯変わることのない軌道と光度を与えられ、それは意志によって変えることのできない「運命」のようなものだ。人間には生まれた瞬間から「世界」が与えられる。裕福な家庭に生まれるか、貧しい親元に生まれるか。生まれながらにして幸福な環境に恵まれるか、はたまた不幸な境遇に置かれるか。いずれにせよ、世界は自分が望んだわけではない。世界とは、まさしく「与えられてしまった」ものに他ならない。


自分ではどうすることもできない「世界」に、不満や絶望を抱くことだってあるだろう。この世界はあまりにも過酷で、思いやりや優しさに欠け、心をへし折られるような悪意や憎しみに満ち溢れている。いくどとなく悩み、迷い、苦しみ、絶望に心を蝕まれそうになることだってある。


それでも人は誰かと出会い、残酷な生に微かな希望=「歌」を見出すことができる。一度は交わりながらも二度と接することのない平行線のように、ほんのわずかな時間だけ共に歩んだ人と一緒に紡いだ物語の続きを、生まれてしまった命を燃やし尽くすまで歌い続ける。それは「生きる意味」などという言葉では表現することのできない、そうかといって「使命」や「覚悟」にも似つかない、いわば「魂の求め」とでも呼ぶべきものなのだろう。


「冒険彗星」の知名度が低い最大の理由は、この曲がiTunesで配信されていないことにある。聴きたいと思ったらCDを購入するか、YouTubeで探すしかないのが現状である。あまり優れているとは思えない楽曲(おっと失礼)でさえ星の数ほど配信されているこの便利な世界で、このレベルの名曲が配信されていないのだ。コメント欄でどなたかが書いているように、はっきり言ってこの世のバグとしか言いようがない。


そういうわけなので、BUMPファンの人はぜひ「冒険彗星」を聴いてみてもらいたい。誇張抜きで素晴らしい曲です。僕もこの曲を聴いてからテイルズを観ようと(中学生の頃に放送していて、僕は頭が悪いので話が全然わからなかった)思っているのだけど、なんだかんだで先延ばしになってしまているので、これを機に頑張らねばならない。


できることならライブでやってほしいけど、たぶんやらないだろうなあ。








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