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ゲーテの詩

こんにちは。

「人生」をテーマにゲーテの詩を集めました。 

良い意味で、鬱々とした気分に浸りたい時や
広い目で考えたい時などにもってこいの詩ばかりです。

どうぞお楽しみください。



省 察

ああ、人は何を願うべきか。
じっとしていた方がよいか。
しっかり自分を守っていた方がよいか。
それとも活動する方がよいか。
ささやかながら自分の家を建てるべきか。
それともテントの下に住むべきか。
岩をたのみとすべきか。
かたい岩でさえゆらぐものを。

一つのことがだれにでもあてはまりはしない。
めいめい自分のすることに注意せよ。
めいめい自分のいるところに注意せよ。
立っている者は倒れないように注意せよ。


い ま し め

いや遠くさまよい出でんとするか。
見よ、善きことはまこと近きにあり。
幸福をとらえる術を知れ、
幸福は常に手近にあれば。


人 間 性 の 限 界

いとも古き
聖なる父、
おおどかなる手もて、
雷鳴とどろく雲の中より
恵みのいなずまを
大地にまきたまえば、
その御ころものすその一端に
われは口づけす、
幼な児のごときおそれを
常に胸に抱きて。

いかなる人間も
神々と
力をきそうべからず。
もし人、高く伸び上がりて
頭もて星に触れなば、
おぼつかなき足は
踏みしむるところなく、
雲と風に
もてあそばる。

危なげなく
たくましき骨もて、
ゆるぎなき
不変の大地に立てば、
かしの木か
ブドウ樹に
比ぶるも
高さ及ばず。

神々と人間とを
分かつものは何ぞ?
神々の前にては
波さまざまに姿かえて流るれど、
流るるは永劫の大河。
我ら人間は
波にもたげられては
またのみ込まれ、
沈みはて行く。

一つの小さき輪
我らの命を限る。
世々かけて人の族(うから)、
絶ゆることなく
その存在のはてなき
鎖につながる。


神 性

人間は気高くあれ、
情けぶかくやさしくあれ!
そのことだけが、
我らの知っている
一切のものと
人間とを区別する。

我ら知らずして
ただほのかに感ずる
より高きものに幸あれ!
人間はそのより高きものに似よ
人間の実際の振舞いが
それを信じさせるようであれ。

自然は無感覚なり。
太陽は
善をも悪をも照らし、
月と星は
罪人にもこの上ない善人にも
同様に光り輝く。

風と溢るる流れと
雷鳴とあられとは
ざわめきつつ進み、
だれ彼となく捕えては、
急ぎ通り過ぎる。

同じように運命も
人々の中に探りの手を入れ、
少年のけがれない
巻き毛を捕えるかと見れば、
罪を犯せる
はげ頭をも捕える。

永劫不変の
大法則に従い、
我らはみな
我らの生存の
環をまっとうしなければならぬ。

ただ人間だけが
不可能なことをなし得る。
人間は区別し
選びかつ裁く。
人間は瞬間を
永遠なものにすることもできる。

人間だけが、
善人に報い、
悪人を罰し
癒し救うことができる。
またすべての惑いさまよえる者を、
結びつけ役立たせる。

我らはあがめる
不滅なものたちを。
彼らも人間であって
最上の人間が小さい形で
なし、あるいは欲することを
大きな形でなすかのように。

気高い人間よ、
情けぶかくやさしくあれ!
うまずたゆまず、
益あるもの正しきものをつくれ。
そしてかのほのかに感ぜられた
より高きもののひな型ともなれ!


(題 な し)

人の一生が何ほどのことがあろう?しかも幾千の人が、人が何をしたの、どうしたのと、あげつらう。
詩はさらに片々たるものなのに、しかも幾千の人に味わわれ、非難される。
友よ、ただ生きよ、ただ歌い続けよ!


慰 め は 涙 の 中 に

みんなが楽しそうにしているのに、
なぜ君は悲しんでいるのか。
君の目を見ればわかる、
ほんとに君は泣いたのだね。

「ぼくがひとりで泣いたとて、
それはぼくだけの苦しみだ。
泣けば流れる甘い涙に
ぼくの心は軽くなるのさ」

楽しげな友だちが君を招いている。
さあ、ぼくたちの胸に来て、
なくしたものはなんなりと
心おきなく打ち明けたまえ。

「にぎやかに騒いでいる君たちに
哀れなぼくの苦しい心はわからない。
いやいや、ぼくは何もなくしはしない。
切ない思いは数々あるが」

それなら直ぐに元気を出したまえ。
若い血潮の君なのだ。
君の年なら、力もあるし、
望みをかなえる勇気もあろう。

「いやいや、望みをかなえる道はない。
あまりに遠い隔たりだ。
高いみ空の星のように、
高いところで美しく光っている」

星を取ろうと望むものはない。
きらびやかな光を楽しむだけだ。
晴れた夜ごとに、空を仰げば、
うっとりしないものはない。

「うっとりしてぼくは、しげしげと
昼、日なか仰ぎ見るのだ。
夜は泣き明かさせてくれたまえ、
ぼくが泣ける間は」


五 つ の こ と

五つのこと五つを生ぜず。
なんじ、この教えに耳を開け。
高慢の胸に友情めばえず、
礼にならわざるは卑しき仲間、
無頼の徒は大をなさず、
ねたむ者は弱点をあわれまず、
虚言をなす者は誠と信を望み得ずーーーー
こを肝に銘じ、ゆめ惑わさるるなかれ。


他 の 五 つ の こ と

時を短くするは何ぞ?
 活動!
時を堪え難く長くするは何ぞ?
 遊情!
負債におとしいるるは何ぞ?
 手をこまねいて待つこと!
利益を得しむるは何ぞ?
 長く思案せぬこと!
名誉に導くは何ぞ?
 おのれを守ること!


最 も よ い こ と


頭と胸の中が激しく動いていることより
結構なことがあろうか!
もはや愛しもせねば、迷いもせぬものは、
埋葬してもらうがよい。


処 世 の お き て


気もちのよい生活を作ろうと思ったら、
済んだことをくよくよせぬこと、
めったに腹を立てぬこと、
いつも現在を楽しむこと、
とりわけ、人を憎まぬこと、
未来を神にまかせること。

知恵を大げさに自慢し見せびらかすのをやめよ、
謙遜こそゆかしいものだ。
君は青年時代のあやまちを卒業するかしないうちに、もうきっと老年時代のあやまちを犯すだろう。

われわれは結局何を目ざすべきか。
世の中を知り、それを軽蔑しないことだ。

安らかに寝ることを欲するか。
私は内的な戦いを愛する。
何ゆえなら、もし疑うことがなかったら、
確実なことを知る喜びがどこにあろう。


(題 な し)

詩作を理解せんと欲するものは
詩の国に行かざるべからず。
詩人を理解せんと欲するものは
詩人の国に行かざるべからず。

星のごとく
急がず、
しかし、休まず、
人はみな
己が負い目のまわりをめぐれ!

われわれにはいろいろ理解できないことがある、
生き続けて行け、きっとわかって来るだろう。

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