【修斗】田丸匠「芸は身を助く」──世界ストロー級王者・猿田洋祐にTKO勝利した22歳の必然

7月15日(日)プロ修斗公式戦で、世界フライ級5位の田丸匠(NACSER DO SOL)が、二階級同時制覇を狙う世界ストロー級王者・猿田洋祐(和術慧舟會HEARTS)と対戦。3R3分49秒、田丸がTKOで勝利し、あらためて修斗世界フライ級王座そしてオクタゴン挑戦に向け、再発進した。

これまでノンストップのスクランブルを持ち味に相手に競り勝ってきた田丸だが、減量苦もあり猿田戦ではその動きは影を潜め、序盤から猿田にテイクダウンを許す展開に。

しかし、焦ることなくケージを使って、相手に削られることなく立っていった田丸は「勝負は3R」という事前の作戦どおり、最終ラウンドに後ろ廻し蹴りを猿田の顔面に当て、復帰戦をTKO勝利で飾った。

試合後、田丸はケージのなかで、「この前負けて、今日まで不安でしょうがなかったです。猿田選手は凄く強かったですが、押されても自分の動きを全うすると決めていました。僕はまだUFCを諦めていません。UFCに行くチャンスを探しているので、次も強い相手を当ててください」と自らを鼓舞するように決意を語った。

1996年1月生まれの田丸は岐阜県瑞穂市穂積の「NASCER DO SOL」に所属。マルコ・アントニオ・バルボーザを師匠とする野村浩之代表のもと、柔術やMMAを学び始めた。2012年「Copa ADI de Jiu-Jitsu」に出場したときは、アダルト白帯プルーマ級で初戦敗退。しかし翌年の「コパバルボーザ」では同級で優勝を果たしている。2013年5月のJML公武堂ファイトで腕十字で一本勝ち後、アマSB、ALIVE主催の名古屋ケージファイト等を経て、2014年に東海アマ修斗に参戦。18歳のときに「格闘家一本で行く。プロになる」と決め、2015年6月のプロ修斗デビュー以降、8勝1敗1分で世界フライ級王座を狙う位置まで駆け上がった。

1月の前戦では強豪ライリー・ドゥトロに「強いパンチをかいくぐってカウンターの打撃を打ち込みたい」と挑んだものの、際の打撃をもらい1R TKO負け。その後、4週間におよぶ米国サンディエゴ・アライアンスMMAでの海外修行でダリオン・コールドウェルやマイルズ・ジュリー、ウィルソン・ヘイスらとの練習を経て、今回の猿田戦に臨んでいた。

東京のようにトッププロが多く集う練習環境にはないが、「シャドーもスパーもサンドバックも、誰が相手でも自分の動きを大事に、惰性で動かない」ことを意識しているという。猿田戦では、野村代表をはじめ、元プロシューターの坂元寛史、森道楽らと立てた作戦を見事に完遂した。

「1、2ラウンドで伏線を張っておいた」という田丸。どちらに転んでもおかしくない勝負を最後に手繰り寄せたのは幸運であり、必然でもあった。SUNRISEを意味するNASCER DO SOL(ナセルドソル)の太陽は、世界の頂に昇ることが出来るか。22歳の挑戦に注目だ。

◆田丸 匠「最後に打ったバックスピンは軌道を変えました」

――野村(浩之)代表にも少しお話をうかがったのですが、試合ではこれまでにNASCER DO SOLで練り込んできたこと、距離感や構えやステップとか、それに米国修行もあったと思いますが、そこでやってきたことなどにトライしていたそうですね。

「そうですね。サウスポーをやってみたりとか、距離感もちょうど近い、ボクシングの基本みたいなこともやってみたりとか、空手もやってみたり、アメリカレスリングとか、アライアンスMMAで習ったことをやってみたりとか、いろいろ試してみました」

――とはいえ、猿田選手のプレッシャーはすごくて、なかなか田丸選手のペースにさせてもらえなかったように感じました。

「そうですね。嫌だな、嫌だなと思ったんですが、でも、今回の作戦は“入れない”こと。コツコツしっかりジャブを当てて、最後にデカい攻撃を当てる。その作戦をしっかり実行することでした」

――“入れない”というようにテイクダウンを取られても上体を抑え込まれてバックを取られることなく、さらに動かされて削られることもあまりなかった。ただ、1、2ラウンドと、テイクダウンは取られていたので、焦ることはなかったですか?

「あそこで焦ってすぐに立つと“猿田ループ”にはまるので、そんなに無理せずにもう下になっていて、立てるなら立てばいいと。減量のキツさもあったので、スタミナもほとんどないことは自分もセコンドもわかっていたので(苦笑)、ロスしないように必死でしたね」

――あえて組みの攻防を挑まなかったのは、やはり減量の問題があったのですね。

「今回は怪我もあって体重調整がうまくいかなくて、コンディションは最悪でした。計量の1週間前くらいから熱も出て……いろいろギリギリでした。それでも自分のやってきたこと、やれることを模索して、勝てる作戦を野村先生とチームで考えて臨みました」

――“猿田ループ”にハマらずスタミナを使いすぎないのが作戦だった。テイクダウンされても上半身を立ててノーダメージで立つことができていました。

「はい。もし尻餅を着かされても押し込まれても焦らず無理をしない。組み技でのスタミナは明らかに劣ると考えていたので、3ラウンド目に勝負しようと。その前に1、2ラウンドで打撃で削ってしっかり伏線を張っておいて。それで、最後の3分で下になってもいいから思いっきり倒しに行く一撃を当てようと。それが作戦でした」

――試合前から3ラウンドを通して戦うことを想定していたと。そしてそれを実行できた……。

「もう冷蔵庫に貼ってあったんです。『猿田選手に3ラウンドを取ってフィニッシュして勝ちました』って」

――試合前に「勝ちました」と過去形で? まるでロンドン五輪前に村田諒太選手が「金メダルを取りました。ありがとうございます」と張り紙していたように。

「はい。3ラウンド目が勝負なのも冷蔵庫に貼ってました」

――テイクダウンから焦らず立って、たしかに打撃で少しずつ削っていきました。ジャブ、オーソドックス構えからの左ハイ、そして後ろ廻し蹴りと繰り出していきました。

「ジャブを当てていって、セコンドの陣営が猿田選手の様子を見て、『猿田選手の右目が腫れている』という話をしていて、『そこがたぶん見えていないから』といわれてジャブから左ハイも本気で当たって。その延長線上に、後ろ廻し蹴りも当たったのかなと思います」

――あの後ろ廻し蹴りは練習していたのですか。

「あれ、めちゃくちゃ練習してました」

――しっかり練習していた技だったのですね……。

「ジムに、僕の一番の打ち込み相手の坂元(寛史)さんや森(道楽)さんもいて、深夜まで練習に付き合ってくれました」

――東京のようにプロファイターが豊富にいる環境でなくても、岐阜で地道な打ち込みやシャドーを繰り返しているそうですね。それが本当に試合で生きた。

「そうですね。野村先生に言われたんですが、芸は身を助ける、と」

――しかし、これまでの試合で後ろ廻し蹴りはあまり記憶にないです。

「今まであまり打撃は出してなかったです。勢いで突破できちゃっていたので。パンパンパンと打って組んでいた。作戦どおりに今までやれたことがなくて、それを今回は実践しました。普段の自分でいることに集中して、ラウンドを取られることがあっても落ち着いて、自分を信じて機を待とうと」

――チャンスをうかがっていた。さきほど「1、2Rで伏線を張って」と言っていたのは?

「最後に打ったバックスピンは、それまでに打ったバックスピンとは軌道を変えていたんです」

――序盤のバックスピンキックはあえて違う角度で打っていたと!?

「はい。3Rの本命のタックルに合わせるバックスピンに繋げるために。それがうまく繋がってよかったです」

――その意味では、猿田選手の動きが見えていた?

「そうですね。(猿田は)蹴ってこないですし、前足も見て、パンチかテイクダウンで来ると」

――そしてチャンスが来たと。

「チャンスが来て、しっかり取れました。僕一人だと制御が効かなくなることも多いんですけど、チームのみんなの作戦と指示を全うすることができました」

――うーん、ちょっと大人の田丸匠ですね。

「もう22歳になったので(笑)。今までは勢いばかりでなんとかしていて、それに甘んじていた部分もあったのですが、前の(ライリー)ドゥトロ戦やアメリカ修行などで得た経験をもとに、どんな相手と戦っても勝つこと。そして倒すこと。その完成形に近づけるためにも練習してきた打撃をしっかりとやろうと。そういう未来への戦いでもありました」

――困窮したときに助けとなったテクニックも本質的に強くなるための“未来への戦い”だったと。最後、ケージのなかで「まだ諦めていないんです」と言いましたね。

「僕の……僕らのチームのプランでは、僕はUFCに行って、UFCのチャンピオンになって、いっぱい豪遊してお金持ちになるという、そういうプランなので、1回負けただけじゃ、まだ道を諦められないです」

――その意味では、厳しい状況のなか、厳しい相手に作戦を実行して勝ち切ることができました。

「勝てて良かったです。次は勢いも出せるよう万全の体調で試合に臨みたいと思います」

【AOKI AWARD 第7回受賞は2015バンタム級新人王&MVP田丸匠】

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