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【MMA】佐々木憂流迦、魅津希、井上直樹らをマネージメントするシュウ・ヒラタ氏「私が選手にいつも言っているのは、『自分自身を“会社”と考えてください』ということです」

11月16日(金・現地時間)米国オクラホマ州ショーニーのファイアーレイク・アリーナで開催される『Invicta FC 32』に魅津希(SERRA LONGO FIGHT TEAM)が参戦、米国のヘザー・ジョー・クラーク(SYNDICATE MMA)と対戦することが発表された。

当初、セラ・ロンゴ・ファイトチームに移籍した魅津希の練習生活について、魅津希本人とマネージャーのシュウ・ヒラタ氏にうかがう予定だったが、ヒラタ氏との話は選手のマネージメントに留まらず、練習環境の作り方や選手とコーチのありかたなどにも及んだ。ヒラタ氏の許可を得て、下記に掲載したい。(Photographs by Invicta FC/On The Road Management)

◆シュウ・ヒラタ「UFCで日本人王者を誕生させたい」

「(夫妻で魅津希選手を住まわせ面倒を見ていることについて)やはり世界のトップを目指して頑張っている若いアスリートは、やれるだけのサポートはしてあげたいです。どうしてもUFCで日本人チャンピオンを誕生させたい──これを目標にもう20年近くこの仕事をしています。

UFCは、毎週トーナメントがあるゴルフやテニス、年間200試合近くある野球やバスケ、さらには階級が細かく分けられ、ヨーロッパやアジアチャンピオンが存在するボクシングなどと比べても、チャンピオンになることが、他のプロスポーツと比べてかなり狭き門なのは分かっています。それでも日本人チャンピオンを作りたい。

いい社長(選手)は、うまくスタッフの
士気を高め、周囲に自分を強くさせる

そのために、私が選手にいつも言っているのは、『自分自身を会社と考えてください』ということです。ファイター『魅津希』という会社がある。その“社長”が井上瑞樹であって、“専務”がヘッドコーチのレイ・ロンゴ、“常務”がマット・セラ、そして“役員”がフィジカル担当のトニー・リッチ、“営業本部長”が私、といった役割だとして、最終決断を下すのは社長です。いい社長というのは、うまくスタッフの士気を高めつつモチベーションを上げて、みんなで『魅津希』という選手を強くさせようと思わせないといけないわけです。

ということは、選手が一方的にこうしたい、ああしたいと言うだけ、つまり他の人の考えを全く聞かないワンマン社長のようになってはいけないんですよね。逆もまた然り。ああしろ、こうしろと言うだけのコーチではダメ。チームで常に話し合いをしながら進めていくということが必要だと思うんです。

そして大切なのは、ちゃんとファイトマネーのパーセンテージをジムに支払うこと。この部分は、私がパーセンテージや条件を交渉しないといけないのですが、これもプロなら当然のことだと思います。コーチだってプロですから、ジムの会員費だけとか無料でやってくれるはずがありません。

毎日“株式会社・自分”の
役員会議”をすること

MMAというのはいろいろな技術を学ばないといけないわけですから、選手それぞれで練習メニューが変わるのは当たり前です。なおさらコーチやマネージメントと日々コミュニケーションを取りつつ、仕事をしていかないといけません。

日本のスポーツ選手はコーチの言うことを聞いてさえいれば勝てるといった考えの人が多いですけど、本当のトップレベルのアスリートは違います。自分をマネージメントしている。日本人は真面目だから、例えばある有名大学に受かりたかったら、この優秀な予備校に通って、そのカリキュラムをちゃんとやれば行きたい大学に受かる、といった感覚があるように見受けられて、メガジムの場合でも、そこのコーチの言うことを聞いていれば強くなると思っているアスリートも多いのですが、そうじゃないんだ、と私は説明しています。

【写真】セラ・ロンゴとクリス・ウェイドマンチームの選手たちがプロサッカーの試合にゲストとして招かれたときの写真。佐々木憂流迦、魅津希らもフィールドに立った。

メガジムに来るアスリートの60~80%くらいは完成されているアスリートが多いんです。ネジで例えたら、しっかりしたネジなんだけど、それを状況に合わせて──対戦相手や体調に合わせて──うまくアジャストしながら、必要ならちょっとネジを改良して、うまくはめこむ、みたいな感覚を持っている。だから、そういった微調整のためにも自分の思っていること、疑問に感じたことはすぐにコーチに言わないといけません。そしてコーチだって、選手がどう思っているのか知りたいわけです。つまり、毎日のように“役員会議”をするんだ、と私は選手に言っています。

スポーツの指導者と選手の関係にも
『インフォームドコンセント』が必要

日本でも『インフォームドコンセント』(「十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」)という言葉が使われるようになりましたが、スポーツの世界の指導者と選手の関係もこれが大切だと思うんです。科学的知見に基づき、それを指導者がちゃんと選手に説明し理解させてから練習に関して考える。

日本のスポーツの指導者たちは『俺が育てた選手』みたいな言い方をよくしますけど、欧米の考えはコーチが選手を育成するけど、コーチを育てるのも選手だ、というものです。コーチが優秀でいくらすごい練習メニューを考えようが、才能のある選手が道場に来ないと結実しない。いくらすごい練習メニューを考えようが、それを実行し、努力するのは選手なんですよね。選手が努力して頑張って、結果を残すからコーチも有名になるんです。そのための環境を互いに作らなくてはいけない。

そういった感覚が欠けているのが日本を含むアジアのスポーツ界だと私は思っているんです。つまり選手はコーチを選ぶ権利があるということ。最近問題になっている体操やボクシングの例を見ても、日本ではそれがなかなかできない、おかしな仕組みになっているなと感じます。

また、MMAの世界で日本人選手が圧倒的に不利なのは、日本で言うフィジカルとレスリング力だと私は思っています。それを克服するには、それぞれちゃんとした先生につかないといけないですし、日々、レスリングの強い選手とも練習していかないと、MMAの世界でトップが取れるわけがない。この二点において、圧倒的に遅れているのは日本のMMA業界だと私は思っています。

アメリカでは『フィジカル』という言い方はしません。『Strength and Conditioning』コーチと呼ばれます。つまり力をつける、そしてコンディショニングを整える。アメリカではストレングスタイプのコーチとコンディショニングタイプのコーチで分かれることが多いのですが、日本人選手はスタミナでは問題ない選手が多いので、ストレングスの先生をつけないといけないと私は思っています。それもあって、今回のセラ・ロンゴ・ファイトチームのフィジカルの先生はどちからというとストレングスタイプのコーチであるトニーに依頼しました。

本気で世界のトップを狙う
選手をサポートしたい

トニーはロングアイランド大学でスポーツサイエンスを教えている先生で、MMAに限らす多くのプロアスリートも見ています。大学で最新のトレーニング施設も使えるから、その知見も持っている。9月になって新学期が始まったので、これから週に一度は、このロングアイランド大学での練習も取り入れる予定です。もし足で痛めている箇所があったら、プールの中で走れるランニングマシーンなども用意されていますし、怪我と疲労を和らげる冷凍療法など、とにかく最新のトレーニングを経験してもらい、その中から魅津希選手がこれだ、と思うものを見つけてもらい、それをもとに練習スケジュールも調整していく予定です。

MMAが世界のスポーツとなったいま、非常に狭き門ですが、魅津希選手のように本気で世界のトップを狙うという選手を、これからも私はサポートしてこうと思います」

【関連記事】
魅津希、米国ジム生活と11.16移籍初戦を語る

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