【QUINTET】北京五輪から10年・石井慧に訊く、QUINTETとMMAと、柔道。
7月16日(月・祝)、大田区体育館で『QUINTET.2』が開催される。1チーム5人による団体勝ち抜き戦で、石井慧率いる「TEAM VAGABOND」は柔道、柔術、サンボ、チダオバといった民族格闘技をバックボーンとする個性的なメンバーをそろえてきた。1回戦では、現代グラップリングの最先端をいく「10th Planet」と対戦する。
石井が集めたメンバーはどんな選手なのか。各選手に意気込みを聞くと同時に、海外武者修行中の石井慧の「いま」を訊いた。
◆1回戦・先鋒クリシェック・スチョラスキー(ポーランドBJJカップ76kg
級優勝(2018))
「イシイがポーランドでヒッチハイクをしているときに出会ったんだ。それで僕が柔術をやっていることを知って、交流が始まった。
(できれば誰と戦いたい?)みんなと戦ってみたいけど……ジオ・マルティネスと戦いたいね。足関節がとても上手いし、僕も得意としているから。ポーランドはマーチン・ヘルドを見てわかる通り、レッグロックが盛んなんだ。
(ギとノーギではどちらが好き?)ギだよ。ギがあるからノーギでも戦える。大きな相手でもね。でも足関節に関しては断然ノーギだ。許されている技が多いからね」
◆次鋒ジョアオ・アシス(2013年ADCC99kg級世界王者。2015年同級3位、IBJJFノーギワールズ2度優勝)
「最初はKINGS MMAの柔術の先生がイシイと引き合わせてくれたんだ。一緒にトレーニングしてすぐにイシイがすごくいい選手だとわかったよ。それから会えば一緒に練習するようになって、今回、イシイが僕にQUINTETのオファーをくれたんだ。
(1回戦の相手の10th Planetについて)彼らと戦うことに自信を持っているよ。つい最近も試合に出てきたばかりだしね。
(エディ・ブラボーと交流が深いディーン・リスターにも勝っているが)10th Planetが得意としているラバーガードやトラックポジションのことも理解している。彼らはガードがうまいけど、テイクダウンはあまりよくないんだ。引き込んで得意のガードをしてくるだろうから、足関節やサドルロック、ラバーガードからのいろいろな展開、オモプラッタに注意していれば、それほど怖い相手じゃない。
(できれば誰と戦いたい?)ブギーマンとやりたいね。大きな相手だし、名前もある。ただ、僕は対戦相手が誰になろうと、相手のスタイルやテクニックに応じて、投げてもいいし、上からでも下からでも攻められるよ。
(ギとノーギではどちらが好き?)ギだよ。ギは毎年、新たな技術が開発されるし、新しいチャレンジャーが現れる。ブラジル、米国、日本、モダン、オールドスタイル……さまざまなスタイルがある。それに挑戦するのが僕のパッションなんだ、もちろんノーギも好きだよ。お金を稼げるからね(笑)。
10th Planetは試合を多くこなしているし、経験もある。でもTEAM VAGABONDもとてもいいチームだ。今日(試合前日)もTEAM VAGABONDで一緒に練習をしたけど、カズショナクやクリシェックの足関節、テイクダウンも素晴らしかった。さらに自信を深めたよ」
◆中堅 石井慧(※下記に単独インタビュー)
◆副将アンドレイ・カズショナク(世界サンボ選手権90kg
級優勝(2007、2008)、世界柔道選手権90kg級第3位(2005))
「サトシとは柔道時代からよく顔を合わせていたんだ。国際大会やオリンピックででもね。日本チームがベラルーシで合宿したときにも共に練習した。それで今回、サトシが私にオファーをくれたんだと思う。オファーはとても嬉しく思うよ。彼が私のグラップリングのスタイルを覚えていてくれたということだからね。
(10th Planetの足関節について)私にとっては10th Planetに限らず、全員が新しい相手。彼らのビデオも観たけど、私は私の戦い方をするだけだよ。私の役目は相手を“抜く”こと。相手は誰でもいいし、“その瞬間”を待って、サンボのテクニックで極めて勝つところを見せたいね。
サンボで世界王者に4度、柔道では欧州王者になった。戦うことが私の人生なんだ。その意味でQUINTETは私の人生の一部ということになるね。QUINTETにふさわしいスペクタルで美しい試合をするよ」
◆大将ミカエル・ドピッツ(柔道ジョージア ナショナルチャンピオン)
「最初はオリンピックでイシイのことを知ったんだ。ラシャ・グルジャーニ(北京五輪第柔道・男子100キロ超級準決勝で石井慧と対戦)が僕の友達のコーチで、それ以降、イシイがジョージアで練習をしたりして交流ができた。
僕は柔道をやっていたけど、チダオバのバックボーンもある。今回のQUINTETのようなノーギでもチダオバの身体の使い方が生きるし、何よりチダオバのファイティングスピリットが一番の武器だ。試合は生きるか、死ぬか、だ。どんなことがあっても勝ちを狙うよ。
(できれば誰と戦いたい?)一番、興味があるのはジオ・マルティネスさ。僕はジョージアの戦い方とジョージアのファイティングスピリットを見せることができる」
【10th Planet総帥 エディ・ブラボー インタビュー】
【そして試合はどうなったのか? 今大会も名勝負が続出! 試合動画】
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◆石井 慧「日々の練習で成長を感じ、試合で結果を残すこと」
――今回のTEAM VAGABOND、本当に石井選手が格闘技の旅というか、ご自身が今まで練習してきたところで出会ってきた選手たちだったんですね。
「そうですね。もう本当に自分の知っている強い選手に声をかけた感じです。ジョアオは米国で練習しているときに出会って、ADCCチャンピオンですし、結果を出してきた選手です。柔術系の選手ってけっこう下になることが多いのですが、チェックマットの選手はテイクダウンも強い。タックルが早いし、テイクダウンディフェンスもできる。あまり下にならないという強みもあります。
カズショナクは、北京オリンピックでは泉浩選手に勝っていますし、僕が初めて柔道の練習で負けたベラルーシの選手でした。今日練習したんですけど、足関節とか思った以上のものを持っています。重量級ですし、もっと力でガンと来るかなと思ったら、本当に足関節もうまくて丁寧で、テイクダウンもすごく上手い。
ミカエルも柔道・チダオバからくる身体の強さがあります。何より、内に秘めたファイティングスピリットが強い。
クリスとも今日、練習でやったんですが、やっぱりポーランドだけあって足関節が非常にうまい。彼はすごく楽しみです。あと、クリスは小さくてもすごく力が強いです。たぶん、10th Planetに勝てば、次のファイナルは、どちらが上がってきても、問題なく勝てるというくらい、強いメンバーが揃いました」
――石井選手自身は、前回の試合を経た経験もいきそうです。
「グラップリングマッチの戦い方がようやくわかってきました(笑)。これまではどうしてもMMA前提で考えてしまっていたので」
――上から攻める石井選手のスタイルとラバーガードやロックダウンもある10th Planet勢の攻防が興味深いです。
「ラバーガード自体、僕はどういうものか本当に知らないんです。いろいろ練習では経験していますが……、ラバーガードってどんな動きをいうんですか」
――ラバーガードをよく知らない。そういえばヒクソンもエディ・ブラボーから「ラバーガードって実際どんな動きなんだ?」と聞いて受けていました。(説明を受け)入らない自信がありますか?
「ああ、この動きですね。いろいろな柔術家とやっていますけど、練習でもかけられたことないです。身体が大きいから、これはたぶん僕にはかからないと思います」
――石井選手といえば、強烈な噛みつきパスガードです。CARPE DIEMの岩崎正寛選手が「マルキーニョスがあんな風にパスされるのは初めて見た」と書いていました。
「ありがとうございます。僕の噛みつきパスガードは飛んじゃうんです。片足を上げるという動きがない。なので、いきなりサイドに乗るので、ラバーガードも二重絡みも心配はしていないです。どんな相手がきてもパスはできると思います。
一般的に柔術家のパスは、結構スペースを無くして、ケツでプレッシャーをかけてパスしていくんですが、僕の場合、隙間が空いていて、あまりプレッシャーがかかっていないように見えるんですけど、“点”でプレッシャーを抑えてパンと飛ぶ。それを耐えるには、おそらくZガードしかない。今は、そのZガードに対してもさらに、パスする方法も完成したので、それも問題ありません」
――あのパスガードの跳び方、エリオ・グレイシー戦の木村政彦のようだという意見もありました。
「自分、あの噛みつきパスガード、もともとは元谷金次郎先生に教えてもらって、そこからずっと練習をしているので(※石井は清風中学時代に修道館で元谷から寝技の指導を受けていた。元谷はかつて木村の師匠の牛島辰熊と寝技で激闘を繰り広げた武専出身の“四国の鷹”柏原俊一から寝技を教わっていた)」
――何十年越しで磨いて、ノーギでも使っていると。
「そうですね。グラップリングだといいんですが、柔道だと足を絡められたら、すぐ“待て”がかかっちゃうので、だから、両足で跳ぶというのを作っていきました」
――そのときは点で抑えていると。腰を殺しているんでしょうか。
「腰というより、もう肩で抑えている感じですね。そこにギロチンを合わせてこられても大丈夫です。頭を突っ込んじゃって、もしギロチンを取られても足は越えているし、岡見(勇信)さんがUFC日本大会で取られた(ヴォンフルー)チョークもあります」
――10th Planet勢を相手にあのパスガードの攻防は見どころですね、MMAのひとつとしてのグラップリングもあるでしょうけど、こうした純粋なグラップリングもやっていて、研究しがいがあると感じますか。
「そうですね。あと、グラップリングのスペシャリストとの試合で極められるようになったら、MMAでも殺傷能力が高くなると思うので、その部分でも磨いていきたいです」
――日本のファンからすれば、MMAでの石井選手の動向も気になるところです。海外を拠点として練習し、主戦場も海外です。ブラジルや米国、オランダを経て、現在はクロアチアでミルコ・クロコップと練習を積んでいるそうですね。同じ環境に留まらないというのは、どういった理由からでしょうか。
「自分で……道が無いなかで開拓者じゃないですが、自分で切り拓いていく必要がありました。日本だとあまりヘビー級はいないですが、アメリカにはそういった選手もいます。アメリカにいたときは、ゲガール・ムサシのところに行って、ゲガールの練習のシステムがいいと感じて、オランダにも行きました。そこから、いろいろな経験をするなかで、今回はミルコのところで練習をしています。練習相手はやはり大切で、オランダではヘビー級相手はキックボクサーとやることがあったのですが、ヘビー級の総合格闘家とのスパーリングはあまり出来なかった。その点でミルコのところは、心配する必要がありません」
――そういえばオランダでは以前、リコ・ヴァーホーベンとも練習をしていましたね。大きいですが、キックボクサーでした。
「そうなんですよね。やはりヘビー級で総合格闘技のスパーリングをやらないといけない」
――クロアチアにはミルコをはじめ、UFCファイターも来ることがありますね。しかし、言葉も異なり、全く知らない土地での生活は、もう慣れているという感じでしょうか。
「やっぱり大変なこともいっぱいありますけど。でも、それも含めて勉強なので」
――一度KOされた人間のところに行くというのは、柔道時代から強い相手の懐に飛び込むというスタイルに変わらないようですね。
「それもありますね。やっぱり負けたので、どういう練習をやっているのかというのを知りたかったというのもあります」
――実戦のミルコは打撃の脅威もありますが、触ること自体が難しい選手です。実際に練習をされていて、どう感じていますか。
「純粋に力が強いんです。押しが強かったり。下から蹴られたりしても、浮いてしまう。あと、隙間がないんですね」
――隙間がない?
「脇とか硬いですし、差し込む隙間がないんです」
――なるほど。MMA王国である米国と比べるとクロアチアはいろいろな面で違うようにも感じますが、実際に行ってみていかがでしょうか。
「いい意味で閉鎖的なんです。例えば、日本だったら、海外でクロスフィットが流行っているというと、少しあとに入ってきて皆がやる。ある食べものがいい、というと皆が食べる。アメリカのボディビルダーが言っていたんですが、そういった流行の情報のほとんどがゴシップだったり、マーケティングだと。何らかの意図のもと流行らせている。
結局、いいものって、昔からあるものなんです。そういう考えがクロアチアはけっこう根付いていて、あまりクロスフィットとかもしない。本当に昔ながらの身体づくりをしています。もちろん新しいものもあるんですが、そこはちゃんと取捨選択をして、いいものを選んでいるという感じを受けます」
――歴史の研鑽を経たものをやっていると。ロシア選手がハンマーを振り続けてきたように。
「あと、ウエイトトレーニングをよくやりますね。純粋にベンチプレスだったりもします」
――さきほど、石井選手のパスガードは少年時代からの柔道の教えを磨いたものだという話がありました。いまあらためて、柔道の金メダリストからMMAに転向して、柔道とMMAはまったくの別競技でありながら、格闘技としてとえると繋がっている部分もあるのではと思うのですが、2008年の北京五輪から10年を経て、柔道とMMAの相違点をどのように感じていますか。
「そうですね……あまりいまの柔道は、昔のように、今のMMAには使えないかなと思います。今はタックルも駄目になって。たぶんすぐテイクダウンを取られると思いますし、足を触ってもいけない。技術に関して閉鎖的に感じます。“技術は生もの”なので、常に新しい技術が出てきてアップデートされます」
――柔道からMMAで、大きく変える必要があった。それでも生きているものがあると。
「僕は左組みだったので、左が強くて、腰の回転の強さがあります。でも、そうなると、例えば、柔道の左組みの人は構えがオーソドックスなので、そのままオーソドックスにすると、腰の回転が反対になるんです。左組みだと、サウスポーに変えないと駄目なんです。そういった柔道のことがわかっていると、けっこうアダプトしやすいかなと思います」
――腰の回転、そして足技も石井選手の大きな武器になっていると思います。
「そうですね。やはり染み付いている足技が生きています。身体操作も。ただ、重い階級と軽い階級は違うので、重い階級になると、純粋な体力というものが必要かなと思います。体の強さ、ですね」
――そこで、さきほどのクロアチアでのトレーニングにも繋がるわけですね。さて、今後も含め、QUINTETで石井選手自身は、誰と肌を合わせてみたいという考えもありますか。
「ジョシュ・バーネットが一番やってみたいですけど」
――練習でやっているんじゃないですか?
「試合と練習は違うので、試合で1回やってみたいなというのがあります。何より、今回チームで勝って、また、ラスベガス大会とか、ロンドン大会で、ジョシュとやれたらなと思っています」
――なるほど。いまは海外でベルトを目指して日々、練習を重ねていますが、どうやって強くなっていこうということを考えてやっていますか。
「試合で結果を残すのが一番うれしいし、モチベーションになりますけど、簡単に決まる話ではないこともあります。そんな中でも、一日一日、目標を決めたり、自分の中で『これは成長したな』と思う状態があることが大切かなと思っています。その二つが重なると、一番いいです」
――その一日一日の練習の中では、手応えは感じている?
「はい、それはもちろん」
――石井選手のグラップリングもMMAの試合も楽しみにしています。最後にファンにメッセージを。
「ぜひ試合を見て、評価してください」
――試合前にありがとうございました。
【TEAM 10th Planet】
先鋒:PJバーチ
次鋒:リッチー・マルティネス
中堅:ジオ・マルティネス
副将:アミール・アラム
大将:アダム・サックノフ
先鋒:ユン・ドンシク
次鋒:所英男
中堅:ハイサム・リダ
副将:桜庭和志
大将:中村大介
【TEAM Tiger Muay Thai】
先鋒:クリストフ・ヴァンダイク
次鋒:タレック・スレイマン
中堅:バイキング・ウォン
副将:アレックス・シルド
大将:スチュアート・クーパー
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