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【PANCRASE】16連勝・砂辺光久「チームの力と自分の閃きを大切に」=最強挑戦者・室伏シンヤを衝撃の失神TKO

4月15日、東京・新木場スタジオコーストで開催された『PANCRASE 295』メインで、初代ストロー級キング・オブ・パンクラシストの砂辺光久(王者/reversaL Gym OKINAWA CROSS×LINE)が、同級1位で第4代修斗世界フライ級王者の室伏シンヤ(挑戦者/SUBMIT MMA)を相手に防衛戦を行った。

試合は2R4分11秒、砂辺がTKO勝利し、2度目のストロー級王座防衛に成功。序盤は室伏の長いリーチから繰り出される打撃と組みのトランジションに苦しんだ砂辺だったが、2R、左ジャブで攻勢に出ると、ギロチンに来た室伏を抱え上げて、アゴを固定しスラム。衝撃の失神TKO勝ちでベルトをその手に戻した。

デガゴンのなかでマイクを握った王者は、「格闘技は儚くて、戦いたくても戦えない人もいる」と語ると、大会後の控室では劇的な逆転勝利の瞬間、そして「チーム砂辺」への感謝の想いを語った。

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宮下トモヤに勝って報告したかった

——“最強の挑戦者”室伏シンヤ選手を相手に、2度目のストロー級王座防衛に成功した砂辺光久選手です。おめでとうございます。

「ありがとうございます」

——試合前にチームで円陣を組んで、セコンドの勝村周一朗さん(リバーサルジム横浜グランドスラム代表。砂辺は今回の試合前に同所で合宿)から一言あったそうですね。

「毎回、試合の前は円陣を組んで、勝村さんが一言言ってスタートするんですけど……大晦日の試合のときに、宮下トモヤさん(2011年12月31日白血病により他界。ブログ「仲間の皆へ」)のお母さんから連絡があって、『トモヤも一緒に連れて行ってね』ということを言われて、そのとき、もちろん一緒に連れて行ったんですけど、結果が残せなかった(RIZINキックルールで藤田大和に3R KO負けので、今回は勝って報告したいな、ということをみんなで話しました」

——それで、今回の試合後のマイクがあったのですね。勝利後すぐにセコンドの勝村さん松根良太Theパラエストラ沖縄代表らとハグしていた姿も印象的でした。

「勝って、みんなに報告ができました」

——今回の試合はタイトルマッチの5Rをやりきるようなイメージもあったのでしょうか。

「その準備もしていましたけど、セコンドとは事前に3Rで倒すぞ、という話をしてたんです。会見でも『あいつ(内藤のび太・2014年9月にRNCで室伏に一本勝ち。5月12日ONEでアレックス・シウバと対戦)より早く倒す』って言っていたし、セコンドと話していたのは、1、2Rを削って取って、3Rでしっかり倒すぞというプランでした」

——しかし、試合は序盤から、室伏シンヤ選手の打撃を受け、右ローをこつこつと蹴られる展開でした。嫌ではなかったですか。

「いえ、同じことやっているなって思っていました。別にヤベえ、という感じはなかったです」

——上下に打撃を散らしながら、シングルレッグでとらえては、足を離し際に打撃も打ってきました。

「ヒジを狙ってましたね。でも読みどおりです。チームで立てた作戦の想定内です」

——室伏選手のシャープな打撃や際の打撃も想定していたと。1Rの後半には砂辺選手からもダブルレッグに入ってテイクダウンを奪いました。

「そうですね。このままだとラウンド取られるなと思ったので、取り返そうと思ってテイク取ったんですけど、自分がダメージを残すことができなかったので、向こうにポイントが入ってましたね(※1R後のオープンスコアではジャッジは3者とも室伏のラウンドとアナウンス)」

——インターバルの段階ではセコンド勢と、2ラウンドは取り返しにいこうと話されたのですか。

「そうですね。『もっと手数を増やして、自信を持っていくぞ』と。セコンドの言うとおり動いただけですね」

——思っていた室伏選手と実際の圧力の違いはありましたか?

「やっぱり思ったより手が長いな、と感じました。(自分と)同じくらいですよね。今までこの階級で同じ身長(-52.2kg、砂辺172cm・室伏171cn)の人とやったことがなかったので」

——身長以上に手足も長い。だんだんと自分の距離、あるいはペースになってきたなと感じたのはどのくらいからでしょうか。

「今回、自分のペースは取れてないんじゃないですか」

田原しんぺーをKOしたパワーボムをイメージしていた

——そうですか? 2R徐々に左が当たり、室伏選手のシングルレッグを切ったあたりから、砂辺選手が攻勢に出たように感じました。がぶりからニンジャチョークを狙い、首相撲からヒザも突いて。ただ、室伏選手のハイクラッチのシングルは差し上げましたが、小手に巻かれて払い腰で投げられました。あのフィニッシュ前のギロチンは立ち際でしたか。

「あれ、なんでギロチンだったんですか?」

勝村 立って脇を潜ってバックに回ろうとしたところだったよ。

——ジャンピングガードで首を取られた瞬間も落ち着いているようでした。

「全然、上体が折れなかったんで極まらないなと思ってました。実際、首は極まってはいなくて。相手を持ち上げたときに、左手で顎を上げるようにセットして受身が取れない状態にして、一緒に同体でバンッて落としたら、ブワッて音が聞こえたので、それでパウンドで追撃して、という感じでした」

——ギロチンを仕掛けられたときに持ち上げて上体を立てて、左手をしっかり顔にセットしているのが見えました。さらにジャンピングスラムで背中で受け身が取れないように頭から固定して落とした。あれは練習では……できないですよね。

「練習でやると友達いなくなっちゃう(苦笑)。相手の頭がバウンドしないようにスラムしました。何年前かわからないけど、田原しんぺー選手をノックアウトしたパワーボム(2010年9月フライ級王座次期挑戦者決定戦で田原が三角絞めを狙ってきたところを持ち上げスラム)を思い出していたんです」

——あの田原選手を高々と持ち上げて叩きつけた試合を思い出していた。あの試合もパウンドへの繋ぎが速かったです。

「そういうイメージを持って試合をしてました。実際、今日会場に来る前に、勝村さんと、『互いの心理状態やセコンドの気持ちは田原戦のときに近い。相手のほうが意気込んでいるし、兄弟(兄・室伏カツヤ/元プロ修斗世界フライ級 2位・SUBMIT MMA代表)で対策も練ってきているだろうから、対策の差はたぶんあっちにあるとは思うけど、今までやってきたものの何かが出るんじゃないか』という話をしていたんです。それが、試合終わった後に、あっこれだ、と思って。なんか後でシンクロしたというか」

——試合前に田原戦のことを話していたんですか。そして室伏選手もリフトされても極めきる気持ちで腕を放さなかった……。ギロチンが来ることも想定を?

「ギロチンは想定してましたね。ただ、こうなるとは思ってなかったです。1Rにテイクダウンを取ってグラウンド状態でギロチンを取られたら、こうやってディフェンスするぞ、というのはさっきまで控室でやってました。試合出る直前まで」

——まさしくチームの勝利ですね。

「もちろん。僕個人の勝利は一度もないですよ、今まで」

静岡の人たち(室伏応援団)が『悔しいけど、いい試合だった』と言ってくれて嬉しかった

——この試合前は、年末のRIZINでキックルールでの試合に臨みました。遠回りしたという思いはありませんでしたか。

「あれを見て、砂辺光久だったり、パンクラスというのを知ってくれた人がいると思うんです。自分が思う『パンクラス王』というのは、パンクラス=砂辺光久というのがすぐ出てこなきゃいけない。まあ、大晦日に関しては、それが石渡伸太郎だったのかもしれないけど、何人かの人には砂辺光久って何者なんだ? という印象は残したと思います。それでパンクラスのリングにちょっとでも目を向けてもらって、砂辺光久はキックボクサーじゃないけど、実際、こういう勝ち方がパンクラスで出来るんだぞ、というのを知って、またパンクラス面白れぇなって思ってもらってパンクラスに対する熱が上がってくれれば、僕がRIZINに出た意味はあると思います」

——キックルールでの試合に向けて積み上げた打撃の練習も無駄にはならなかった。

「そうですね。今回も厳しいところで活きました。遠回りじゃないですね。『パンクラス王』になるために」

——「パンクラス王」であることと「キング・オブ・パンクラシスト」は別ですか。

「全然、違います。それは別にチャンピオンじゃなくてもいいんです。『パンクラス王』の称号を手に入れるまでは、僕は続けなきゃいけない。それに伴う一つの宝物というか、自分の見せ方として、ベルトが付いているというだけで、別にベルトがあるから王様だ、っていうことではないんです。パンクラスと言ったらすぐに砂辺と言われるような、そういう存在にならなきゃいけない」

——なるほど。しかし、あらためて、MMAのセオリーとは異なる砂辺選手の動きには驚かされます。

「松根さんも言うんです。『チームの力と砂辺さんの閃きを大切に』って。自分はセコンドのことを信頼していて、セコンドは自分の閃きを信頼してくれているので、互いの信頼関係のもとに成り立った勝利の積み重ねです。(※砂辺は試合前に勝村、松根に修斗のベルトのレプリカをプレゼント。会見で「今、自分がこの場にいられるのは、勝村さん、松根さんのおかげで、何かできないかと考えていました。自分のジムにはベルトのレプリカがあるけど2人のジムにはない。今は少し試合から遠ざかっているので、今ジムに通っている人は2人の過去のことを知らないかもしれない。その人たちに『ここのジムの代表は本当に強いんだよ』ということを知ってもらいたかった。ベルトは本当に特別なもので、死ぬまで、いや、死んでも宝物。そのベルトを2人とも獲ったのに手元にない。それを還元したいと思いました」と語っている)。これで16連勝。ゴールドベルトもそろそろ……とは思いますけど、この階級でまだ5回防衛してないので」

——2011年から16連勝。初代フライ級、初代スーパーフライ級、初代ストロー級の三冠を獲得しています。今後の目標は?

「『パンクラス王』になること。あなたの知っているパンクラスって誰ですか、と問われたときに、一番に砂辺光久って出てこなきゃ意味がない。鈴木みのる、船木誠勝って言っている間は駄目なんです。難しいですよ、すごく。3回初代でチャンピオンになっても、それが手に入らない」

——前戦でのバックスープレックスや今回のチョークスラムのような試合は、砂辺選手ならではの動きのように思います。

「それを自分がやり続ければ……自分に注目していない人が注目してくれたらいいな。あいつの勝ち方面白えよって。帰り際に、静岡の人たち(室伏の応援団)が、『悔しいけど、いい試合だった』と言ってくれたときは嬉しかったです」■

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※試合後、会場外で待っていた静岡からの応援団に挨拶する室伏シンヤ。敗者もまたチームで戦っていた。砂辺の言う通り、格闘技は儚く残酷だが、それゆえに勝利の価値がある。

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