ショートケーキ's

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ノート

ショートショート『灯火橋』

藍色の空が橙色の光を侵食していくとき、僕はホテルの部屋でビールを飲んでいた。一人掛けのソファに座って窓から外を眺めると、そこには海が広がり小さな島が浮かんでいる。ホテルから海の方に道路が伸びていて、一斉に街灯が付いた。道路を挟んで等間隔に立つ街灯の光はぼんやりとしていて提灯のようにも見える。綺麗だ。完全に夜にならないうちに写真を撮っておこうと、鞄から買ったばかりのフィルムカメラを取り出した。立ち上

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「当たり」やん!(10分の1やん)
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ショートショート『グリーンヒーロー』

カシャ。

小さなシャッター音に気づくと、金髪の若い男は露骨に嫌な顔をして舌打ちをした。私は右腕に付けた緑の腕章を提示しながら、こう告げた。

「歩きスマホ違反です。こちらをご確認いただけますか?」

首から提げた小型デジタルカメラの液晶画面を見せようとすると、男はそれを払うような仕草を見せた。

「もういいよ。書くから早く寄越せよ」

常習犯なのだろう。その後の流れをよく知っていて助かる。私は背

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胸いっぱいやん!
8

ショートショート『アミェ』

木村雨水は雨が嫌いだ。

雨の日には頭痛がする。最近では「気象病」とも呼ばれているそうだ。頭がガンガンして気が滅入る。今朝もベッドから出られない。布団で全身を隠すが、そんなことで現実から逃避できるはずもない。ノックもしないで部屋に入ってきた母親に布団をはぎ取られ、それでも枕に顔をうずめていると、お尻をぴしゃりと叩かれた。

いつから、こんなに憂鬱になったのだろう。それはたぶんわかっている。学校で漢

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最高やん!
8

ショートショート『ママのパン』

うっすらと目を開ける。窓の外の世界はまだ暗い。太陽が現れるまで、もうしばらく時間がかかりそうだ。最近は仕事が忙しいからか、朝まで熟睡できないことが多い。脳が興奮状態のままなのだろう。ボクの部屋には二段ベッドが二つあって、ボクは足元の方にある扉から見て左側の上で寝ている。他の奴らが起きている気配はない。暗闇の中、少し開いたままの扉から一筋の黄色い光が差し込んでいる。ちょうど、ボクのふくらはぎくらいま

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ナイスセンスやん!
6

ショートショート『ココロの飢え』

ココロはペンを置いた。

これは何も単なる動作の描写ではない。突然、ココロは小説を書くことを止めてしまったのだ。あんなにも夢中だったのに。

僕がココロと付き合い始めたのは今から2年前の秋。

いわゆる合コンでの出会いだったが、当時30歳を間近に控えたココロは、どこか余裕を感じさせるほどつまらなそうにしていた。どういうわけか、そんな冷めた表情に惹かれた僕は、何とか連絡先を交換するやいなや、猛アタッ

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「当たり」やん!(10分の1やん)
7

ショートショート『ブルーアイランド』

冒険家のジョージ・アオーレは、まだ夢の中にいるようだった。

彼を乗せた船は大波に飲まれ、沈没。しかし、死を覚悟したものの、自分は生きている。

ただ、“夢の中にいるよう”と言ったのは、生きていることを実感したからではない。今、自分が置かれている空間が、あまりにも現実離れしているのだ。

アオーレは、なんてことはない普通のベッドから身体を起こし胡坐をかいているが、この決して広くはない部屋一面が真っ

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泣けるやん!
6

ショートショート『FM FNC』

<5月17日 PM8:45>

「さぁ、この人に最高の舞台が整いました。9回裏、2アウト満塁、3点差。一発出れば逆転サヨナラの狂想曲。その時を待ちわびるように杜の都・仙台のボルテージは最高潮を迎えています。早瀬投手コーチがマウンドに駆け寄り、内野手が集まります。ネクストバッターズサークルの村崎。相当なプレッシャーを感じていることでしょう」

「そうですねぇ。彼にかかる思いは、もはや少年やそのご家族

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ナイスセンスやん!
4

ショートショート『行列のできる睡眠術師の憂鬱』

「先生、今夜もよろしくお願いいたします」

男は恭しく頭を下げると、布団に入って仰向けに寝転がった。

先生と呼ばれた男の名は道山(どうざん)。人々を快眠に誘う「睡眠術師」として名を馳せ、今ではクライアントが絶えない。20時頃から遅いときには深夜2時頃まで、大企業の社長や政治家、人気女優の自宅や宿泊先を次から次へと訪問し、睡眠術を施す。

今宵最後のクライアントは、日本各地に飲食店を展開する実業家

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泣けるやん!
5

ショートショート『桜の家』

小さな村のはずれに、大きな桜の木があった。

幹は言うまでもなく、そこから分かれる枝一本一本まで太く長く、それはもう立派な桜の木だ。満開の季節を迎えれば、豪華爛漫に咲き誇る。村人たちが一度に集まっても、全員を覆うことができた。

見上げれば、空に一面の桜。この桜の木は、何もない小さな村にとって自慢だった。

あるときから、この桜の木の下に「海の家」ならぬ「桜の家」と呼ばれるものが現れるようになった

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泣けるやん!
6

ショートショート『お風呂を知らない子供たち』

「噴射まで、3、2、1……」

音声ガイダンスのカウントダウンが終わるとブザーが鳴り、シャワーが噴射された。横一列に整然と並んだ裸の少年たちを、上から、前から、後ろから、水しぶきが打ち付ける。

壁一面が清潔感たっぷりの真っ白い空間に、フローラルの香りが漂う。このシャワーには、人の垢を洗い流す洗浄成分に加え、香り成分が配合されている。ただ、少年たちは目を固く閉じ、息を止めているため、それを味わうこ

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うれしいやん!
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