ヨウジヤマモト着てみたくなった

「ヨウジヤマモト=落合陽一氏が着てる服」程度の認識だった人間が、昨日放送されたヨウジヤマモトのドキュメンタリーに衝撃を受けた話。

①手作業へのこだわり

型紙を手で引くこと。刺繍や染色を職人に依頼していること。イギリスで産業革命が起こり、様々なものが機械で大量生産されるようになったからこそ手作業での制作にこだわる人って、常に存在する。

例えば、デザインの父と呼ばれるウィリアム・モリス(William Morris, 1834-1896)は型紙や家具だけでなく、それらのデザインに使うモチーフ植物すら古くからイギリスに存在する種から選んでいた。

また、日本にも手仕事にこだわる芸術家は存在する。吉村芳生(1950-2013)は新聞の文字や写真を手書きで写し、その上に自画像を手描きするという途方もない作業で作品を制作していた。大量生産品の新聞を敢えて人力で再現するというのは非常に興味深い。

ヨウジヤマモトのデザイナー・山本耀司氏もそんな手仕事にこだわる人間の1人なのだ。映像を見る限り、山本氏は手の感覚やデザインのセンス等、機械化できないニュアンスへのこだわりが強いのだろう。人間が上手く言語化できず、機械技術に落とし込めていない細かな感覚。それがヨウジヤマモトが人々を惹きつける理由なのかもしれない。

②人材の育成

ドキュメンタリーの中に、山本氏が若手に服作りの集団教育を行うシーンがあった。個人的偏見として、感覚を大切にする傑出したプロデューサー(芸術家・デザイナー等々も含む)で教育を重視する人物の存在は珍しいのでは?と思った。

前項での職人起用しかり、若手教育しかり、文化や後進たちの存続や成長を意識できる人物は芸術の世界どころか一般社会にだって少ない。自分の目標で手一杯の革新者が培ったものを引き継がずにその分野が衰退、なんてよくある話だと思う。弟子のいない職人、後任の適役がいないワンマン企業、伝統が途絶えた後にわからなくなってしまった文化・伝統の数々。

山本氏は素晴らしい作品を生み出しつつ、自分が持ってる感覚や大事にしているものをきちんと後世へ残そうとしている。彼の功績に比べたらささやかなシーンであったけれど、見逃してはならない大事な要素ではないだろうか。

③こだわり

ドキュメンタリーの中で、仕事中もインタビュー中も黒い服と煙草をやめることのない山本氏。この建物本当に喫煙OKなんですか?みたいな場所でも、スタイル崩さないのかっこいい。ヨウジヤマモトの黒とダメージ加工がアンチ側からメインストリームになっていることを憂いつつも、その軸を捨てない勇気と強さが逆に輝いているような気がする。御本人も制作された服も、消費社会と一過性のオールブラックブームに飲み込まれていないのがその証拠だ。

同時に、新たなデザインを生み出し続ける燃料としての怒りや発想力を保ち続けていることも尊敬に値する。坂口安吾『堕落論』で述べられているように、日本人は無理やり律しないと昨日の敵を明日の友にしてしまう柔軟性がある。ゆえに、その怒りやアイデアを保ちつつ、「半歩だけ」先を行くデザインをアウトプットし続ける精神力は並大抵のものではない。

④「飾り」と「祈り」の境目

この4番目の項目に関しては、完全に筆者の好み。読み飛ばし大歓迎。

背守り(幼児のお守りとして、産着などの背の上部中央につける色糸の飾り縫い)をオマージュした新作に対し、山本氏は糸を4箇所につけるのは飾りだ、と主張するシーンが途中にあった。飾りと祈りの違い。ニュアンスの問題として片づけてしまえばそれまでだけれど、個人的にはそこにイコンと同じ矛盾を感じた。

イコンとは、キリスト教徒が家や教会で祈りを捧げる聖像のことだ。イコンは人の手によって作られる肖像画だけど、それは作り物じゃなくて聖人の姿そのものだって捉える必要があるから、飾りや人の手感を必要以上に持っててはいけない。(イコンの解釈については色々複雑なのでそのあたりは割愛)

これと同様にヨウジヤマモトの服、特に背守りを意識した新作も、人による手仕事で作られるけれど必要以上の手感・飾りを備えないようにしている。

人が作ってるのに人が作ってないようにするなんて、なんたる矛盾。でも、その矛盾が服や美術を含めた芸術の魅力になる。とはいえ、それを山本氏に求められたパタンナーさん、さぞかし大変だったろうな。  

以上、ドキュメンタリーを観て思ったこと。

黒服って素材感が命だと思っているので、ヨウジヤマモトみたいな黒はこれからも残り続けて欲しい。ファストファッションやオールブラックブームに乗っかっただけの服じゃだせないマチエールというか、美しさというか。

そしてその美しさは単にいい物を使ってるだけじゃなくて、山本氏のこだわりやヨウジヤマモトに携わる人々の手仕事で成り立っていることを、ドキュメンタリーを観て理解した。

そのストーリーを含めて、いつかヨウジヤマモトの洋服を着てみたいなぁ、と思った。

#NHK   #ドキュメンタリー  #ファッション  #ヨウジヤマモト  #山本耀司  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?