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質の高い教育とは~各国の教育事情~

この書き物は昔資料として提供したものの抜粋です。

質の高い教育とは 
 質の高い教育と一言にいっても各国の経済状態や政治状況、地理的要因、言語的な背景から普遍的な「質の高い教育」といったものは存在しない。そもそも国によっても市民が広範に教育を受けられているのか、特定の集団だけ教育を受けられる、経済的な格差から教育の質が異なるといったように教育問題は様々である。いくつかの国や地域の教育における状況とその問題を見ながら一般に言う「質の高い教育」とは抽象度の高いもので、その概念が国や民族によってかなり左右されるものであることやこれらの国や地域の教育への取組を理解してもらいたい。質の高い教育と一言にいっても各国の経済状態や政治状況、地理的要因、言語的な背景から普遍的な「質の高い教育」といったものは存在しない。そもそも国によっても市民が広範に教育を受けられているのか、特定の集団だけ教育を受けられる、経済的な格差から教育の質が異なるといったように教育問題は様々である。いくつかの国や地域の教育における状況とその問題を見ながら一般に言う「質の高い教育」とは抽象度の高いもので、その概念が国や民族によってかなり左右されるものであることやこれらの国や地域の教育への取組を理解してもらいたい。

教育言語の問題 アフリカの事例から
 日本においては想像しにくいかもしれないが、アフリカのほとんどの国において、その国の言語形態は3つの階層に分けられていることが多い。「公用語」-「共通語」-「民族語」である。このことは、アフリカに限らず多数の民族が共存する国では同じような状況にある事例が多い。

 公用語はその国の政府文書や機関において、公式な言語として使われる。アフリカでは、旧宗主国言語であるフランス語や英語が使われる場合がほとんどである。
 共通語は様々な民族が集中する市場や都市などで交渉や交易の必要都合上生まれた言語で、各民族語がベースになっている場合が多く、周辺地域の住民であれば習得しやすい。
 民族語は各部族、村落において使われる言語で、そのコミュニティーに所属するものであればほとんどの人が使える言語である。
その国の高等教育で使われる言語は、殆どの場合公用語である。なぜならば、植民地時代には高等教育が現地民に広範に開かれたものではなかったことに加え、教育カリキュラム自体宗主国の言語のほうがはるかに進んでいた。よって、アフリカが独立し教育制度を導入する場合は宗主国の制度を導入することのほうが、1から現地の言語で教育制度を構築するよりコストや時間的にも優れていた。
 さて、この状況下で行われる教育の上の問題とは何であろうか。教育言語が公用語である場合、初等教育の段階から生徒たちはこれまで触れてきた民族語とは全くかけ離れた言語形態である公用語で、いきなり勉強しなければならないのである。このような状況に陥ると、初等教育の段階ですらドロップアウトする人々が続出する。自分が小学生の時いきなり英語で、四則演算をならって習得することが出来るかどうか考えてみてほしい。できる人はいるだろうがそれはほんの一握りでしか無い。
この状況が生み出すものは、少数のエリート集団とその他の一般人である。だが、国の産業発展に必要なのはある程度の教育を受けた一般市民である。この階層が極端に少ないことは、教育のみならず国家の産業基盤形成にも大きく影響をもたらした。
もちろん民族語によって教育を行おうと試みた国もあるが、国内に民族語が複数ある場合が当然で、財政が苦しいアフリカ諸国が各民族語に応じた教育プログラムを整備することは困難であったし、民族語で記載された書籍や教科書を作ったとしても市場が限られており、どうしても公用語での教育整備と比べると劣る物となってしまった。
このような場合おこなわれるのは、初等教育の段階までは整備を共通語で、行うといった手法である。ただこの初等教育を共通語で行う方法は、ナイジェリアやコンゴ民主共和国のように複数の共通語が存在する場合はうまくいかない場合も多かった。一方、タンザニアのように交易言語として広く普及していたスワヒリ語を公用語として導入したため、語法の整備や言語への需要の問題も解決され成功する事例も存在する。だが、依然として大半のアフリカ諸国における共通語の地位は公用語に比べて低く、中等教育から高等教育にかけてはほとんどが公用語で行われているのが現状だ。
教育における母語は文化や言語権の視点からも重要であり、家庭から異世界である学校の距離を縮め教育へのアクセスをしやすくする。このような点からアフリカにおいて質の高い教育を行うには、教育言語は非常に重要な点である。

紛争地域の教育 シリアの事例から
 紛争地域においては、教育を享受・提供するにあたって大前提である教育インフラへのアクセスが不可能になるというかなり深刻な問題を抱えている。シリアは内戦以前15歳から24歳の識字率は95%と高く、基礎教育についてはある程度のレベルに達していた。しかし、現在シリアでは300万人の子どもが就学出来ておらず、シリア内戦最大の激戦地アレッポでは就学率6%、シリア全体でも戦前100%近かった就学率は50%近くに低下している。また、シリア国内の学校の四分の一が損壊しており、現在のシリアの教育インフラを復興させるには約3580億円の費用が必要である。また、近隣諸国に難民として逃れた子どもや家庭の経済的な貧困状況から就学せずに労働に就く子どもも少なくない。        
*銃痕の残る黒板
 確かに、内戦という状況下で、シリア政府が教育問題に着手することは現実的では無い。だが、シリア難民の最大受入国でもあるヨルダンにおいては、2013年から、午前中にヨルダン人、午後にシリア人が学べるよう公立学校に2部制を導入し、2016年までに200校でこの制度の導入が行われるなど、難民受け入れ国側からの支援がなされている。一方、このダブルシフト制導入のため授業時間短縮が余儀なくされ、当のヨルダン人生徒の学力低下が問題となっている。同じくシリア難民の受け入れ国であるトルコにおいては、ヨルダンと同様に難民の公立学校への受け入れや、一時的教育施設(Temporary Education Centre:TEC)を難民キャンプに設置することなどがシリア難民の子どもへの教育支援として行なわれている。

地理的な背景の教育問題 パプアニューギニアの事例から
 パプアニューギニアは発展途上国に共通の予算不足や教育言語の問題に加えて、山岳地帯と多数の島、更にまばらな人口分布、交通インフラが未発達であることから教育改革が非常に遅れてきた。また、地方においては教員数の不足も深刻であり、かつ教員がよく休むというモラル面からも問題が存在する。
 そこでパプアニューギニアにおいては、遠隔通信技術を用いた教育改革が推進されている。具体的には、授業を撮影し、それを首都の教育メディアセンターと呼ばれる施設で編集後に番組として放送し、受信校がこの番組を中心に授業を編成するといった体制である。メリットとしてはテレビと受信装置さえあれば、全国どの学校でもビデオ授業をすることが可能であることや、ある程度の質(撮影授業を行う教師の質に依拠するが)を確保出来ることが挙げられる。
 一方テレビ画面では、授業番組の板書が視認しにくいことや、理科科目では実験機材がなければ実験を眺めるだけになってしまうこと、質問が出来ないことを始めとした双方向性の欠如といった問題点も存在する。

教育のジェンダーギャップ パキスタンの事例から
 パキスタンにおける教育問題では、上記の国々のように教育システムやその普及といった面でも問題が存在するが、特に顕著であるのが男女間の教育の差である。パキスタンにおいては1970年代から世界的な潮流に合わせて、ジェンダー問題への取り組みはなされてきたものの、国民の意識レベルではあまり進展が見られていない。
そもそもパキスタンや南アジア周辺では、識字率が極端に低い上にジェンダー不平等が内在している。2001年の識字率は男性66.4%に対して、女性は 37.4%である。年々識字率は増加傾向にあるものの、依然として女性の識字率は男性の識字率の半分程度で推移していることから、ジェンダー不平等が存在するのは明らかである。原因としては農村部において依然として存在する欧米流の教育の忌避やイスラーム教の文化社会的慣習「パルダ」といった女性の社会的隔離などが挙げられる。初等教育から高等教育までの進学率においても女性は男性に比べて極端に低い。女性教育が必要であることへの認識の低さや「パルダ」の存在、また地方には女子校が存在しないこともあり、女子校自体へのアクセスが物理的に難しいことから、女性の識字率、進学率はパキスタン国内であっても差異が存在する。また、公立学校は男女別学であり、教員も同性でなければならないが、女性教員が足らず地方では女子校が存在しないことも大きく影響しているとみられる。女子教員の不足が原因で女子校の減少を招き女性が教育を受ける機会を減らしてしまう。女性の知識層の育成を妨げてしまっている。このことが更に女性教員となりうる女性の数を減らしてしまう原因ともなり悪循環が続いている。
このような状況下の中でパキスタン政府は長年教育状況の改善に力を入れており、識字率の向上等成果は一定程度見られるものの、未だに問題解決に至っていない。そこで、女子校のない地域に女性教員を定期的に派遣し、識字センターを設置するなど、民間レベルの活動が注目されている。

 
教育の質向上の取り組み フィンランドの事例から
 フィンランドは世界的にも教育先進国として有名な国である。教育過程は初等・中等が無料で提供されているのに加え、就学前教育と基礎教育については、遠隔地に暮らす児童の送迎や給食も無料で提供される。また教育言語に関しても、フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語であり、およそ5%の生徒がスウェーデン語を教育言語として基礎教育と後期中等教育を受けていることに加え、少数言語であるサーミ語などマイノリティに対する教育機会も準備されている。移民等に対しても、異なる母語を使用する生徒を教育する場合、地方政府が追加予算を申請することができるなど、教育言語面においても充実した支援システムが整えられている。成人後教育にも力を入れており、成人後専用プログラムは、成人後専用プログラムは就職後や家庭を持ったあとなど様々な状況が想定されており、仕事を並行して行えるよう柔軟な制度になっている。そのため、生涯にわたって教育が受けられるシステムになっている。仕事を並行して行えるように柔軟な制度になっている。主に成人後には職業訓練や資格、学位の取得など様々な状況が想定されており、生涯に渡って教育が受けられるシステムになっている。

参考資料

http://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=1913
【シリア危機5年目】紛争の代償:シリアで教育が失われていることによる、深刻な経済的損失を試算
・「教育2030」の意味と日本の対応の可能性
吉田和浩 広島大学教育開発国際協力研究センター
http://home.hiroshima-u.ac.jp/cice/wp-content/uploads/2017/03/01-yoshida-summary-j.pdf

・『2015年版 開発協力白書 日本の国際協力』
外務省
 71p「テレビ授業による 質の高い教育の普及 〜パプアニューギニアで遠隔教育支援〜」

・「パキスタンの教育制度の特徴と課題」
 黒崎卓
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~kurosaki/Kurosaki_PK_educ1303.pdf (最終閲覧2018年5月16日)
 
・『二〇世紀〈アフリカ〉の個体形成 南北アメリカ・カリブ・アフリカからの問い』
 真島一郎編 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所, 2011.1

・「フィンランド教育の概要」
 http://www.oph.fi/download/151277_education_in_finland_japanese_2013.pdf 
(最終閲覧2018年5月16日)

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