ミミズコンポストはじめました。その2

するとミミズ達は以前と変わらぬ姿でモゾモゾと動いていた。それから少し間を置いて、光が差し込んできたことに気づいたのか、身を縮こませた。ニンジンの皮は食べていない。しかし、以前と違う光景があった。新聞紙に小さい穴が何個か空いているのが確認できたのだ。どうやらミミズは新聞紙を食べているようだ。ニンジンの皮の方が美味しそうだけど、これは人間の感覚で、ミミズにとっては新聞紙の方がご馳走なのかもしれない。

新聞紙にどんな栄養があるのかは知らないが、何はともあれ食べてくれているのだ。生ゴミの処理は全然追いついていないが、とりあえずは死なずに生き続けてくれるだろうから、あまりいじくり回さずそっとしておこう。台所にあるカラーボックスの下の段に置いて忘れることにした。忘れることにした、と言っても当然忘れられるわけもなく、料理をしている時はいざ知らず、お風呂に入っているときにも、さてそろそろ寝ようかと布団に横になった時なんかにも、「ああ、あそこにミミズがいるんだな」と、どうしても思いを馳せてしまう。

ミミズを飼っていることは妻には話していない。俺の妻は料理なんかしないし、台所に入ってくるのは冷蔵庫から飲み物を取り出す時くらいのものだ。だからミミズを飼い始めて二ヶ月以上経つがまだ見つかっていない。

実はミミズを飼っているんだ。

そう言いたい気持ちを抑えて、妻が風呂に入っている時やゲームに夢中になっている時などにこっそりミミズの入ったケースを覗いては、様子を観察している。正直に言うとかなり気持ち悪い。しかし、見ずにはいられない。妙に惹きつけられる。

妻がいつミミズ達を見つけるか、ミミズ達を見つけた時に妻はなんて言うのか今から楽しみだ。怒り出すことはないだろう。自分の旦那がこっそりミミズを飼っていることに気づいた時、妻は俺と一緒に楽しんでくれるだろう。ミミズの飼育のことではない。自分の旦那が自分には内緒で、こっそりミミズを飼育しているそのこと自体を。

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