ミミズコンポストはじめました。その4

ミミズの様子を確認するのに三日くらい間が空いた。それまでは毎日2,3回は確認していたが、ミミズの飼育に慣れてきたのか、それとも飽きてきたのか、自分でもよくわからないが、とにかく間が空いた。久しぶりにミミズ達の様子を見て、いつもと少しだけ様子が違うのが観察できた。新聞紙が湿気を吸い取りきれなくなり、ケースの蓋にまで水滴が付いてかなりびちょびちょになっていた。脱走を試みているのかケースの壁をよじ登っているミミズがいた。どうするのかしばらく様子を見ていると、天辺まであと少しという時に突然向きを変え、土のある方向に降りていった。そして、脱走は未遂に終わったと安心した時、ケースの内側の壁に白い糸屑がついているのに気づいた。空気穴から埃でも入りこんだかと思って白い糸屑をよくみた。かすかにそれは動いていた。ミミズの赤ちゃんだ。いつのまにかミミズもやることはやっていたらしい。たくさんいるのではないかと割り箸で土の中を掻き回してみたがこの一匹以外は見当たらなかった。たまたまケージの壁をよじ登っていたから発見できたが、土の中にいるミミズの赤ちゃんを見つけるのは至難の業だろう。こころなしか以前からいるミミズが太くなった気がする。ミミズの気持ちは分からないが、なんだか「絶好調だぜ」って言っているような気がしないでもない。ハリとツヤが良く、力強く身を捩らせる。健康そのものだ。


八月のある日、夏真っ盛りのクソ暑い日に俺は部屋の空気を入れ替えようとエアコンの冷房を送風モードにし、窓を全開にした。サーキュレーターで部屋の空気を外に出しつつ、ついでに掃除をしようとハタキでホコリを落とした。床の掃き掃除をした後、雑巾がけをしようとボロ切れを持って四つん這いになった。床に黒っぽい紐が落ちていた。ミミズだった。巣に戻してあげようとミミズの入っているケースの蓋を開けたとき、異様な光景が目に入った。ケースの中にいるすべてのミミズがケースの壁をよじ登り「こんなところに住んでいられるか」と言わんばかりに、脱走を試みていた。
冷房を止めて送風モードにしていた為、部屋の温度が急激に上がっていたのだ。当然ミミズ達が入っているケース内も温度が上がった。赤外線の温度計で土の温度を測ると30度以上になっていた。ミミズ達は灼熱地獄から逃げ出す為、涼しい新天地を求めてミミズ大移動を敢行と至ったわけだ。逃げたミミズが一匹だけだから冷静に対処できたが、こいつら全てが床を張っていたらと考えると、棲家を放棄して逃げ出すのはミミズではなく俺の方だ。掃除をやめ、エアコンを冷房に戻し、全開にしていた窓を閉めた。

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