タイトル

はじめてのエレベーター

 子供の頃、私の住んでいた町に初の三階建て建物として市民会館が建った。

 もちろんエレベーターもある。
 私たちはエレベーターに乗るためだけに、市民会館へ行った。

 中は冷房が効いていてエントランスホールから涼しく、床はピカピカのツルツルで、まずは床の上にダイブして滑って遊んだ。相当に迷惑だったと思うが、大目に見てもらえた。

 床はひんやりとして気持ち良かったので、そのままうつ伏せになっていたらさすがに注意された。

 次に私たちは、本来の目的であるエレベーターへ向かう。

 自動で開閉するドア。
 上昇、下降する時のG。
 停止する時の、ふわっとする浮遊感。

 未体験の連続である。私たちはきゃーきゃー騒いで、何度もエレベーターで上に行ったり下に行ったりしていたのだが、何度目か繰り返したところで私は気分が悪くなってしまった。

 友人の「エントランスホールの冷たい床で休むといい」という助言に従ってそうしていると、おじさんがやって来て声をかけてくれた。おそらく会館勤務の方だったのだろう。応接室かどこかの革張りソファで横にならせてもらい、記憶違いかもしれないが、毛布まで掛けてもらったと思う。

 しばらくして、エレベーターに満足した友人たちと一緒に市民会館を後にした。親切にしてくれたおじさんにきちんとお礼を言った記憶がなく、今でも心残りである。

 ちなみに、エレベーターのふわっとした浮遊感は大人になっても苦手なままだ。

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