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篠原美也子というシンガーを知っていますか。

1.篠原美也子との出会い

突然、耳に飛び込んできた歌にすべての意識を持っていかれ、聴き入ってしまう瞬間が人生にはある。

1993年。当時、高校生だった私は学校と家との往復に人生を費やしていた。特別やりたいことも見つからず、ゲームと惰眠を貪る日々。いつものように夜更かしをしながら聴きながすようにつけていたラジオから流れてきた曲にコントローラーを持つ手が止まった。

当時、ZARDやWANDS、T-BOLANなどのバンドやソロになった氷室京介、槇原敬之がヒットを飛ばしていた。そんな時代。

何の根拠もなく自分は他人とは違う。特別だ。今思うと恥ずかしくなるような思い込みを胸に抱き、だけれど何もせずのうのうと生きていた。けれど、「自分は凡人だな」とわかり始めてきた頃でもあった。

自分は一体何が出来るんだろう。何がしたいんだろう。
そんな不安に襲われることも多かった。

曲の出だしから耳を持っていかれていたのだが、後半に出て来る歌詞がたまらなく私の心を震わせた。

小さな花とあきらめるな
たとえどんなわずかなことも誇りに出来る力を持て
あんたはまだ若いなどど 卑怯な逃げ方をするな
時代を変えてゆくものがあるとすれば
それはきっと名も無い青春達

なぜ?どういうとこに?と語るのは野暮というもの。これはあの日あの時の自分にしかわからない何かがあったんだ。

曲が終わりDJが告げた曲名と歌手名をすぐにメモし、翌日CDショップをハシゴして二枚のアルバムを買った。一枚はこの「誰のようでもなく」が入っている「満たされた月」、もう一枚は半年前にリリースされていた「海になりたい青」というアルバム。

ついでのように手にした「海になりたい青」が、さらなる衝撃を私にもたらすとはこの時まだ思いもしなかった。


2.「心のゆくえ」

CDをトレイに乗せてデッキにセットする時のワクワク感ってたまらないですよね。

「誰のようでもなく」をひとしきり聴き、「海になりたい青」にチェンジ。再生ボタンを押して、歌詞カードをパラパラとめくる。一曲目は「心のゆくえ」

アカペラから始まる。

今日も明日もずっとずっと
生涯かけて問いかける
たとえ気に染まぬなりわいの中でも
誰より高く空見ていても
明日を明日を待つ理由を
明日に惹かれる 心のゆくえを

伸びがありつつ、力強い歌声。

故郷から夢を持って上京をした人を歌った曲で、当時の自分には当てはまるところは何も無かったのだけれど、全編通して情景が浮かぶ内容に一本のショートムービーを見ているようだった。その後、実際に自分が上京し繰り返し聴くほどに沁みこんでいった曲。今まさに夢を追うたくさんの人と関わるようになって、さらに深く深く味わいが増している。

見果てぬ夢をいつも語った
なつかしい言葉を話す友が
今日はなぜかうつむいてばかりいる
少し疲れた1年目
スポットライトは夢の数だけ
用意されてはいないけれど

夢を見るのは容易く、叶えるのは難しい。それはいつの時代も変わらないのかも知れないが、手が届きそう感が年々増している気はする。それでいてどうして自分は。私とあの人の何が違うというのだろう。数字に一喜一憂する夢追い人たち。

皆、「明日にはきっと」と惹かれる。明日という響きの中には希望を匂わせる何かがあるように私は思う。


3.「ひとり」

心のゆくえ、ええ曲やんけと油断していたところへとんでもない曲が続けざまに私を襲った。

「ひとり」

出だしからヤバい。当時はまだ「ヤバい」という感情表現方法は無かったように思うが、ヤバい。とにかく歌詞がヤバい。語彙が失われるくらいヤバいんだ。

何をしても誰かに
似ているようでなぜか不安で
どこへ行ってもうまく
話せない気がしてすこし怖くて

おっふ。

たわいのない言葉に
笑い転げてはそっと溜め息
巧みに隠された
皮肉をよけながら時を過ごして
誰もみんなこんな風に
生きているんだし
辛く思えるのはまだ
甘えているからね

ぐふっ。

この方はどうしてこうも言葉にならないモヤモヤをしっかりと言葉にしてしまうのか。ほとんど日本語のみで作詞をされている。そのどれもが、声にならない心の声を形にしてくれていてたまらなかった。

この「ひとり」はそんな中でも当時の、いや、今でも私の中にあるネガティブさや、自信の無さ、世間に対する不安、他人に対する恐れを丸裸にされていくような気持ちになった。

それと同時に「あぁ、同じような気持ちになっている人が他にもいるのか。」と安堵もした。

この世の中でひとり
自分だけが間違いに思えて
傷つかない為に傷つける
自分がとても嫌いで
道を聞こうとすれば声がかすれる
見上げる夜空は青 海に似ている

せつせつと

何をしても誰かが
笑ってるようでなぜか不安で
言葉たちはいつかあやふやを
愛して背中を向ける
忘れたくないことよりも
忘れたいことが増える
見上げる夜空は青 海になりたい

せつせつと語るように歌う。

責められているようにも、諭されているようにも、懺悔にも聴こえる。何度聴いても同じところでじわりと目頭が熱くなる。

あれから27年。

未だにCDは手元にあり、しんしんと部屋を彼女の歌声で満たしたくなる時がある。一度も生で聴いたことはなく、ご本人をテレビでも見たことはない。時代が流れYoutubeで初めて動く彼女を見たぐらいだ。

それでも彼女の曲に何度も助けられた。

今の音楽シーンがどうのこうのいうほど聴いちゃいないのでよくわからんです。が、皆さんが産まれる前にこんな曲があって、おっちゃん感動しててんっていうお話。

今、こういう曲調、歌詞の唄をうたっているシンガーがいたら逆に教えて欲しい。



なんですと!?お気持ち感謝します!!