見出し画像

お土産のきらーこんてんつ

 かつて、本邦の観光旅行には定番の土産品がありました。
 ペナント(二等辺三角形の細長い旗)、ミニサイズの提灯、木刀。
 いずれも地名が入っていて、そこでしか買えないという特別感があったものですが、今では、(有るのかもしれないのですが)容易にお目に掛かれません。なお、写真はがきはささやかながら売られていますが、しおりセットは絶滅危惧状態です。
 
 なぜこのようなものが流行ったのか?
 思うに・・・ですが、観光旅行が特別な体験であった時代。有名な観光地に行ったこと自体が感激だったので、地名の入った到達記念品としてこうしたグッズを買い求め、部屋にかざって自慢のタネとしても活用した。
そんなふうに考えます。

 経済成長に勢いが付き始めると、ほとんどの人々の生活レベルが上昇するので、一歩先に居ることに喜びを感じる傾向が表れると、有名な経済評論家が書いておられましたが、確かに上り坂の局面で優越感を得るには、それまで一部の富裕者にしかできなかったことを自分も体験しているという実感は大事だろうと思います。

 レジェンド級のコメディアン・萩本欽一氏の自叙伝的なエッセイで、芸人として売れない頃は本当に餓死を覚悟した体験があるそうで、食べた記憶がほとんどない寿司や焼き肉は超級の御馳走だった。そして、人気者になり収入が爆増してから最初にやったことは、寿司と焼き肉を腹いっぱい毎日食べること。その結果、1週間くらいで飽きてしまい、大好物ではなくなってしまったと・・・この世の楽しみを2つも失うなんて何て愚かなことをたのか悔いている。そんなことを書いていました。

 経済成長は、それまで憧れにとどまっていた体験を実現させてくれます。しかし、夢の世界が普通のことになると、それは日常風景に格下げされる訳で、ペナントや提灯を飾って感動を長く留める欲求も薄くなり、自慢のタネにもなりません。

 自民党政権の失政と旧民主党政権の悪夢の結果、デフレーションは続き、国民の多くはテンションの上がらない日々を強いられていますが、かつて、成田国際空港には江ノ島へ海水浴に行くような雰囲気で、若者グループがグアム行きの列に並んでいる風景が見られました。海外旅行さえ特別感がなくなった時代、憧れの場所に到達したというだけでは不十分で、それ以上の体験が約束されなければ、旅行会社が嘆くアウトバウンドの回復は厳しいのでしょう。

 さて、国内旅行のお土産品ですが、箱入りクッキーに「軽井沢に行ってきました」と書かれたネタ系のものや、地場の名産を無理やり菓子にしたわさびクッキーのようなもの、さらには、御当地キティなど著名キャラを絡めたグッズが出回っていますが、かつてのペナントのような圧倒的な存在感はありません。

 もう到達記念型グッズに可能性はないのか?
 いえ、あります。光明をもたらすもの、それは”御朱印帳”です。
 寺社仏閣がオリジナルの御朱印帳を販売しており、各頁に御朱印を戴いてスタンプラリーのように集めて回る。これが旅行動機になっている人々が少なからずおられます。

 業者が作った話のタネではなく、歴史と伝統を背負った本物感が大事ということでしょう。御朱印のデザインも多種多様で、アートを感じるものも多々あります。

 地元にあるアート感覚を掘り起こし、お土産グッズとして形にする方向性に新しい時代のペナントが見えてくるのではないでしょうか。もう、安易な仕上げの工場製品では心が動きません。地域に根差してきた文化が生み出したデザインを現代風に再構築すること。でっかいどら焼きではダメです。

 なお、聞いた話ですが、鎌倉大仏(長谷寺)の土産物店で売っている金ぴかメッキの大仏フギュアが売れているという・・・昔の修学旅行生でもあるまいにと思っておりましたら、仏教国ミャンマー(ビルマ)の方がよろこんで購入されるのだとか。ならば、訪日客向けにデザインし直したペナントもイケるのかもしれません。

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?