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人手不足時代の観光産業

労働時間の制限により人手不足に拍車がかかるという懸念が膨らんでいる昨今です。労働集約型産業の典型のような観光産業。旅行代理店から旅客輸送、宿泊施設の運営に至るまで、多くの人手間が掛かっています。このサプライチェーンが維持できるのか、観光立国の未来に甚大な影響があります。

人手不足ならば、高い賃金を払える企業が勝利できるはずです。しかし、高い賃金を提供しても従業員が居つく保証はありません。労働力が売り手市場になれば、働き甲斐とか未来への希望、さらにはカッコイイと言ってもらえる等々、貨幣換算が難しい要素が職業選択に影響していきます。精神的満足にも配慮できる企業が優秀な人材を確保できる。それは、競争力の向上につながり、業界格差を広げていく。

従業員のココロなんかに関心のない経営者は、カネで動く人材を求め、外国人労働者をもっと入れろと騒ぎますが、そんな企業はいずれ行き詰まり外国人労働者を路頭に迷わせることを躊躇しません。それは、治安悪化の原因となり、日本観光の魅力の柱を毀損します。搾取にしか関心のない経営者は社会の敵なのですが、右派も左派政党も、無能経営者の排除には熱意がないようです。労働者を厚遇できない経営者に批判的であってしかるべき日本共産党は、「一生懸命働いている中小企業が苦しむ社会は間違っている」と言っていましたが、市場ニーズと関係なく頑張っても売り上げは伸びないだろう、という発想は持たないのでしょうか。確かに、大企業の横暴に苦しむ企業を救うべきという話は理解できますが、企業の総合的な経営力を強化する支援という面倒なテーマは好かないように見えます。

宿泊業については、20くらい年前から見ればかなり変化しています。料理を例にとっても、昔は似たような献立で値段によって素材が違うといった感じでした。山の中で冷凍焼けした刺身を出すことに疑問がなかったようでしたが、最近は郷土料理を絡めた「ならではの」料理を出しています。群馬県内の老神温泉で切り替え直後に出会った経験がありますが、女将さんが「不安はありましたが、都会から来たお客様が郷土料理を喜んでくれることが分かり、思い切って挑戦してよかったと思ってます」と語っておられました。それが10年くらい前。定番メニューからの脱却は一大決心を要したとのことでした。

そのほか、部屋に来て女将さんの挨拶を省略する所も珍しくなくなっています。そのうち、部屋のモニターにAI制御のバーチャル女将が表れて、紋切り型のあいさつではなく、エンタメ性のある接遇をすることが一般化する、と考えています。到着から退出までをひとつの物語と感じられるサービスを人間が提供するのは並大抵の教育では叶いませんが、バーチャル技術を駆使すれば、一定水準のサポートは可能になるでしょう。

細かいところでは、布団敷きを別料金にすれば仕事が減らせるでしょう。料金をとらずとも、自分で布団敷きをすれば館内での買い物券をもらえるという仕組みも考えられます。
老朽館が増えた温泉街で高級健康ランド的な入浴施設を共同で建設・運営して各旅館を回る自動運転の送迎バスを循環運行すれば、風呂の管理要員を節約できますし、投資負担の分割になります。政策投資銀行はこのような取組に融資するべきではないでしょうか。

人手不足は技術革新を進める好機でもあります。



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