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アクアクレタ小石原と余りにもよくある話の構図

福岡県朝倉郡東峰村が小学校を改造してリゾート施設として開業したアクアクレタ小石原。陶芸で名のある地域であることから、アクア(水)とクレタ(土)の名を冠したそうです。不動産は東峰村の所有ですが、株式会社小石原ドットコムという民間企業が運営してきました。
全19室のホテル仕様の客室は旧校舎の2階に配置。1階にはレストランと各教室にレンタルスペースを3部屋設置。さらに、囲炉裏やかまどを設置した昔の生活体験ができる部屋など、古き良き日本の生活と、ホテルのホスピタリティを楽しめる空間も用意され、グラウンドにはグランピングドームが2つ、加えてキャンピングカーなどで電気を取りながら車中泊できるRVパークも2台分を提供。アクアクレタのアイデンティティである陶芸体験も楽しめます。改修費用は約4億円で、村の予算が投じられたそうです。

東峰村振興の切り札としての使命を帯びたアクアクレタ小石原は2021年(令和3年)に運営が始まりましたが、残念ながら3年目に閉鎖されました。

何が悪かったのか。運営会社の選定は企画コンペだったようで、採点が不自然との指摘が出ていて微妙な背景事情がある感じですが、その話を脇においても、行政機関の審査基準は、一般に経営的視点がカヨワイことこの上もありません。公務員にビジネスは分からないという雑駁な話で括ればそれきりですが、そこには行政ならではの構造的な問題があります。

企画コンペと聞くと、さも民間の知恵を尊重しているように感じますが、選考が点数比較になる以上、企画に加点事項を多く盛り込まないと優位になれません。つまり、良さげなことを片端から組み込んだ企画の点が高くなります。この原因は政治家たちにあります。議会で新しい施設を論じるとき、こういった機能が必要ではないか、ああいった視点を盛り込み運営すべきではないか等々、オレの手柄が欲しい議員たちが要望を次々と打ち込んできますから、議員たちの顔を立てる「配慮」の結果、総花的な採点項目が策定されます。

自治体の財産を使う話ですから、様々な意見を大事にするのは当然ですが、事業運営的には疑問符が付きます。対象とするマーケット(見込み客)を絞り込んで、集客戦略を構築、収益見通しを立てて資金繰りにゆとりを持たせ、試行錯誤を前提としておくことが、創業時の経営を安定させるために重要なのですが、このような発想で「走りながら考えます」的な要素の多い企画を書けば点数が伸びないことは必至です。

公有財産に公金を投じるのだから、地域活性化を実現する魔法道具でなれば許されない!という行政執行部とそれを取り巻く面々の生み出す「空気」が現実思考を遠ざけて、悪意よりたちが悪い「幻想の共有化」が進んでしまいます。失敗したハコモノの構造は概ね一緒です。

首長の指導力がない!と言ってしまえば、それはそうですが、予算案を議会で承認してもらえねば話は進まないし、首長の支持勢力から出た意見となれば無視はできません。

その結果、アクアクレタ小石原のような幕の内弁当式の施設が誕生して、盛り込まれた相互連携性のない様々な施設が人手を増やし、運営管理は実に面倒で、採算性が悪く競争力もない観光施設に成り果てます。この運営会社の経営者がどのような方か全く存じ上げませんが、初期仕様から見てよほど立地環境が良くない限り、苦難の行軍は必至と思われてなりません。

資金繰りが行き詰ったというこの施設もそうですが、建設費は行政が負担しても、運転費用は会社が負担します。株式会社小石原ドットコムは、歴史と伝統のある企業ではないようなので、金融機関から借り入れるのは楽ではないでしょう。弾丸・燃料の補充が乏しいのに兵器はでかくて中途半端な機能が満載、作戦は多方面同時戦闘・・・苦戦しない方が不思議です。


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