コラボクリニック新宿を振り返る

駅ナカにあってコンビニ受診しやすい『ナビタスクリニック立川』は、2008年6月に立川駅のエキュート立川にて、グループ診療を提供するクリニックとして私が個人開業した。その先駆けとなったのは、2006年11月から2007年12月の間、新宿西口の雑居ビルに開設した『コラボクリニック新宿』だ。今回はコラボクリニック新宿について振り返る。

コラボクリニックは、鈴木寛氏が東大駒場キャンパスで主宰していた『すずかんゼミ』の学生たちがプロジェクトを立ち上げた。

鈴木寛氏(中央右オレンジのネクタイ)とゼミ生たち

鈴木寛氏は、当時は民主党の参院議員で、それ以前は経産省の官僚だった。いち医療ユーザーの立場からすると、昼間は仕事が忙しく、とても受診どころではない。体は大切だが、仕事はもっと大切(医師の立場からすると理解に苦しむが、世の働く人々にとっては、偽らざる気持ちなのだろう)なのだ。仕事帰りの時間に医療機関は閉まっている。よって「忙しく働くビジネスパーソンは、現代の医療弱者である」との仮説を立てた。

大学生が主導し、社会実験としてリアルにクリニックを開設

都市生活者の多くは鉄道を使って通勤、通学する。よって生活動線である駅の近くにクリニックがあれば受診しやすいと考えた(だから以前から駅前にはクリニックが沢山あるわけですが・・・)。そのモデルとしたのは、コンビニエンスストアが新規出店するには、交通量を調べ、人通りの多いところを選ぶという方法だ。

コラボクリニック新宿
・新宿西口のヨドバシカメラ本店の斜向かいの雑居ビル
・診療時間は平日18〜21時

新宿西口方面で働くビジネスマンが帰宅する時間帯に、駅に向かう道すがらに立ち寄って診療が受けられる総合内科クリニックというコンセプトが出来上がった。

当時、私は福島県にある福島刑務所で医師をしていた。医師のスキルは刑務所での診療だけでは維持できないため、週に何日かは外に研修に行かせてもらえる。その時間を活用して、私は週に3日ほどコラボクリニック新宿での診療を担当した。

大学生達が自分たちで内装を手掛けた

借りた部屋の広さは7坪ほど。そこに学生たちが手作りで床にシートを敷き、壁紙を貼り、パーティションや戸棚を設置してクリニックを作り上げた。小さいながらも診察ブースが2つあり、医師とアルバイトの看護師と、会計を担当する学生スタッフの3人で診療にあたった。

クリニック入り口からの見たクリニック(左) 診察室の1つ(右)

ホームページ作成でも多くの事を学んだ。鈴木寛氏の弟子筋にあたる錚々たるIT専門家から、トップページに記載すべき内容、SEO対策などアドバイスいただいた。

インフルエンザワクチン接種シーズンなど、多い日には1日に45人ほど受診する状況となり、あらためてアンメット医療ニーズの大きいことがわかった。

テレビ東京「モーニングサテライト」にも取材いただきました
このような受診動向の分析をおこなった

ナビタスクリニック立川に至る出会い

当時、株式会社アインファーマシーズの顧問だった野尻日出輝氏(故人)は、世間知らずの医師である私に、社会のことをいろいろ指導くださっていた。その野尻氏の紹介で、鎌田由美子氏がクリニックを見に来られることになった。鎌田氏は、株式会社JR東日本ステーションリテイリング(今は合併して消滅)の社長で、エキュートという駅ナカ商業施設を大宮、品川にオープンし、3店舗目となる立川店をオープンしたところだった。

エキュート立川は、改札内だけの大宮、品川と異なり、改札外にも店舗スペースがあり、保育園を誘致し、さらにクリニックを誘致しているタイミングだった。鎌田氏の望みは、小児科はもちろん、働くお母さんが自分のための医療が受けられるクリニックの誘致であった。出店の応募があるのはコンセプトに合わない診療科であったり、駅にあるにも関わらず18時頃に閉まってしまうような医療機関だけで、難航していたそうだ。

野尻氏の紹介で、私たちがやっているような小さなクリニックにも視察に来ていただくことができた。その結果として、エキュート立川にクリニックを出すスペースを借りられることになった。コラボクリニック新宿プロジェクトは終了し、私は本格的なクリニックのオープンに向けて準備を始めることとなった。

ナビタスクリニック立川のコンセプト
・生活動線である駅にある
・会社や学校帰りの時間帯(〜21時)にも診療が受けられる
・待ち時間が少ないように診療時間の予約がとれる
・小児科、内科、皮膚科のグループ診療
・内科には女性内科を開設

2024年の今となっては時間予約なんて普通だし、遅い時間まで診療しているクリニックも沢山あるけど、当時としては画期的だった。グループ診療は、単科のクリニックを集めたモールと異なり、小児科から内科に移行しても、内科と皮膚科の両方受診しても1つのカルテを使うので、継続性や情報共有に優れるメリットがある。女性内科は主に月経に関する体調不良や更年期の症状に対する薬物治療をおこなうことを目的とした。

当時、私は35歳で、クリニック開業のノウハウも十分ではなかったが、多くの方々のサポートを得られることとなり、仲間を募り始めた。最初に声を掛けたのは、小児科医の細田和孝氏だ。新潟大学医学部の同級生で、学生時代から一緒に酒を飲んだ仲だ。人柄の良い彼なら、きっと上手くいくと思い、卒業以来はじめて彼に連絡をとった。

夢の跡

現在、その雑居ビルのあった地域は再開発が進んでいる。新宿西口を彷徨するとき、ときどきコラボクリニック新宿の入居していたビルを眺めては過ぎ去りし日々を懐かしんでいたが、ある日ビルは取り壊されて跡形もなくなった。

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