機能性食品の罠

人間は感情の生き物で、理屈ではおかしい事が分かっているのだけど、不合理なことを止められない。そして「自分なりの考え」に固執して専門家のアドバイスは無視する。機能性食品やトクホは、矛盾に満ちた人間の感情をうまく利用して売り上げを上げている。

システム 1 とシステム 2

先ごろ亡くなったダニエル・カーネマン博士の著書『ファースト・アンド・スロー』によると、人間には素速い判断に適した本能的な判断をするシステム1と、判断に時間がかかるが、客観点データに基づいて理論的に判断をするシステム2とがある。

かつてアメリカで 9.11 という、ハイジャックされた複数の飛行機が旅客を乗せたままビルに衝突するという無残なテロが起きた。飛行機に乗ることの恐怖を感じた人々は、自動車で移動するようになった。しかし、その後の1年で増加した交通事故死者数は、ハイジャックの道連れとなって亡くなった人の数より多かった。

飛行機では1事故あたりの死者数は多く『大惨事な感じ』を強く印象づけられるが、そもそもテロ行為でも起きない限り事故率は極めて低いので、事故で死亡する確率は飛行機より自動車の方が格段に高く、自動車は危険な乗り物なのだ。だが、本能的に感じた恐怖を理屈で乗り越えることは極めて難しい。

たぶん、人間以外の動物にシステム2は存在しない。現代の科学文明に生きる人間としては、危急の判断が迫られる時以外は『本能による判断=システム1<システム2=理性による判断』で生きていきたいものだが、それは多くの人にとって難しい。システム2が働くためには、多くの知識と、判断すべき内容について1次情報を知る必要があるからだ。

紅麹問題を理解するための一次情報

すこし飽きてきた感じのある紅麹成分を含有した機能性食品の件、現時点(2024年4月20日)では何の成分が腎障害を起こしたのか特定されていない。今のところ、原因は分からないまま、状況証拠だけで小林製薬が批判されている。

一方、紅麹の成分には、どの程度コレステロールを下げる効果があったのだろうか?実はコレステロールを下げるスタチンという薬と、紅麹や他の食品のコレステロール低下作用を調べた研究がある。

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