「一葉」

「一葉」
鳥越碧

渋沢栄一関連が今年は目白押しですが、
お札繋がりで5千円札の樋口一葉。

一葉日記は相当に面白いのですがいかんせん文語体で読みにくい。こちらはそれを小説仕立てに展開してくれているので一葉の人となりや考えがよくわかります。日記なだけにだいぶ事実との齟齬もあるらしいのですが、それも含めて樋口一葉を語ってくれています。

半井桃水へのあふれんばかりの恋心でパンパンにはち切れそうになりながら駆ける雪の日のシーンは、彼に振舞われたお手製お汁粉の甘さが振り切れて大変なことになっています。複雑すぎる関係性に、やがて一葉は、帰り道に桜の花びらの吹き溜まりを下駄のままで蹴り上げたりします(笑)

家柄を気にして和歌の教室では縮こまり、かと思えば怪しげな占い師にいきなり借金を申し込んでみたり、ダメンズに惹かれたり、一葉女子はなかなかに危なっかしい(汗)

士族の一端であった「樋口家」を守る戸主としての気負いや、文壇への想いと高まり続ける創作意欲。鋭すぎる故に周囲の動きに気分がジェットコースターのように乱高下する様は読んでいてはらはらしてしまいます。天啓に舞い上がったかと思えば絶望に沈む気鬱。
うっせえわも真っ青な
「にごりえ」の有名なセリフ。

“ああ嫌だ嫌だ嫌だ、何うしたなら人の声も聞こえない物の音もしない、静かな、静かな、自分の心も何もぼうつとして、物思ひのない処へ行かれるであろう、つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情けない悲しい心細い中に、何時まで私は止められて居るのかしら、これが一生か、一生がこれか、ああ嫌だ嫌だ”

そして文士仲間であった斎藤緑雨の言葉が、彼らのエネルギーのあり方を示しているように感じました。

「同じ一生ならもっと気楽にのんびりと歩いてみたい時もある。しかし、それだと我々の血潮は逆流することになる。」

SNSに絶好調と呟いた翌日に長文でまた弱音、そんな自分のエネルギーに振り回されるあなたにそっくりな日記です。

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