シュレディンガーの恋。
〇〇「はぁ、、、」
朝の眩しい太陽とは対照的に真っ暗な顔をした男子高校生、菅原〇〇は歩いていた。
冬の寒さもかなり薄れ、等間隔に植えられた街路樹にも少しずつ緑が見え始めている。
〇〇「学校行きたくねぇ、、、、、」
別に授業が嫌なわけでも、課題をやってないとかでも、先生からパワハラ受けてるとかでもない。
ある1人のクラスメイトが原因で、、、
「ねぇまってー!」 『おそいぞー!早くきてっ!!』
あぁ、、、僕の横を通り抜けていく小学生の2人組が眩しく見える。
"あの子"も小学生くらいの素直さがあればいいのに。
そんなことを思いながらまた僕は鉛のように思い脚を動かし始めた。
乃木坂高校 2-1
井上「おはよ〜」
〇〇「おはよ」
教室に入ればクラスメイトの井上和が挨拶をしてくれる。
僕が苦手なあの人はまだ来てないみたいだ、、、
井上「なんか顔色悪いよ?ゾンビみたい」
〇〇「流石にそこまでじゃないだろ」
井上「じゃあフランケンシュタインとか、、、」
〇〇「どっちもどっちだわ」
僕の前に座っている和と軽口を叩き合いながら背負っていたリュックサックを机のフックにかける。
そして朝だというのにもう疲れきった身体を椅子に投げ出した。
井上「なんでそんな疲れてんの?」
〇〇「いやちょっとした気疲れ、、、」
井上「あぁ!アルノか!」
〇〇「まあ、、、」
僕の隣の空席、前回の席替えから隣同士になってしまった中西アルノさん。
今まで和からちょくちょく話は聞いたことはあったのだが、直接関わるのは席替えしてからが初めて。
だけどさ、、、
井上「なんでか分からないけど〇〇ってアルノにちょっと、、、、ね、、、」
〇〇「嫌われてんだよな〜」
井上「おぉ、ストーレートだね、、、」
〇〇「隠したとて」
そう、僕は99.99%の確率で中西さんに嫌われている。
例えばそうだな、、、、、
数日前。
これは英語の授業でペアワークを行う時間が設けられていた時のこと。
普通だったら席が隣同士の生徒で、テーマに沿った軽い英会話をするくらいなんだけど、、、
〇〇「あの、、、中西さん、、、、、?」
中西「なに」
隣に座る彼女は僕の方を一回も見ず、つまらなそうに英語の教科書を眺めている。
長いまつ毛が綺麗に伸び、僕が無視されているという状況を除けばドラマのワンシーンのようであった。
〇〇「せめてこっち向くのは」
中西「なんで?」
〇〇「いやペアワークだか」
中西「めんどいから」
〇〇「え?」
中西さんは頬杖をつきながら話を続ける。
中西「私は自由にするから〇〇くんも自由にしていいよ」
〇〇「いや流石にそれは、、、」
『はーい、それじゃあペアワークやめて前向いてね〜』
結局は何もできずにペアワークの時間が終わってしまった。
こんな感じで中西さんもまともに話せた記憶なんて1秒ほどもない。
〇〇「やっぱ嫌われてんのかなぁ、、、」
井上「考えすぎじゃないの?」
〇〇「考えすぎなくても分かるって、、、」
こんな思い出はパッと思い出すだけでも両手では収まりきれない程ある。
そろそろ精神的にもしんどくなってくるわ、、、
井上「うーん、、、私的にはさ?
あんまり重く考えなくてもいいと思う!」
〇〇「え?」
井上「とりあえず今日は挨拶からしてみたら?
何事もチャレンジだよ!うん!」
〇〇「えぇ、、、」
そりゃあ中西さんと和が仲良いのは知ってるけど今の僕にそんな勇気はないよ?
挨拶なんて無視されるに決まってる!
ガララララッ、、、
中西「、、、、、、、、」
井上「あっ、アルノ来た」
〇〇「えっ!」
教室の後ろ、少し滑りの悪い扉を開けて中西さんがやってきた。
今日も今日とて無表情の怖い顔で隣の席へ向かってくる。
井上「いい!ちゃんと笑顔で挨拶ね!」
〇〇「いやでも」
井上「でもじゃないよ!ほら!」
中西さんが近づいてくるたびに僕の鼓動も早くなっていく。
おはよう、、、おはよう中西さん!、、、、、おは〜、、、
いやどんな挨拶すればいいか分からないんだけど!!
〇〇「、、、、、、」
井上「アルノおはよっ!」
中西「おはよ〜」
和はさっさと中西さんに挨拶を済ませ、僕に対してアイコンタクト。
早く挨拶しろってさ。
〇〇「あっ、、、あのっ、、、、、」
中西「ん?」
〇〇「おはよう!」
中西「あぁ、、、うん」
〇〇、中西「「、、、、、、、、、」」
井上「ぷっ、、、笑」
え?終わり?
こんな感じで良かったの?
僕の挨拶にたった2文字の反応は示してくれたけど、そこから何か発展することもなく中西さんは着席。
和が若干、小馬鹿にした目で見てくるけど。
〇〇(やっぱ嫌われてんだなぁ、、、)
―――――――――――
それから普段通りに授業をし、普段通りに中西さんからの塩対応をされ。
特段変わりない1日を過ごしていきました。
そして最後のショートホームルームになったとき、、、
「俺は明日はちょっとやることがあってな〜」
〇〇「ふわぁ、、、」
先生からのありがたいお話をいただいている時、僕は強大な睡魔にやられかけていた。
昨日もFPSゲームやっててあんまり寝てないし、、、
授業中も、、、、あんま、、、、、、
「それじゃあ今日はここまでな〜、気をつけて帰れよ」
〇〇「すぅ、、、、すぅ、、、」
中西「、、、、、、、、」
「、、、、、、かわいぃ、、、」
んんっ、、、やべっ、最後の最後に寝ちゃったか、、、、、
僕は自分の腕枕の中で少しずつ意識が覚醒していくのを感じていた。
「、、、、、、でもかっこいい顔もしてんだよなぁ〜、、、」
早く帰ってゲームの続き、、、ん?
近くで誰かの話している声がしているんだけど。
どうやら女子の誰かが彼氏のことを友人に惚気てんのかな。
「愛想ない奴って思われてるよな、、、」
僕は他の人にバレない程度の薄目を開けて辺りを確認してみる。
教室に残ってるのはだれ、、、だ、、、、、
中西「ふふっ、、、赤ちゃんみたいな寝顔してる、、、///」
、、、、、、え?
いやいや、見間違えだろうな。
中西「いつも愛想悪くしてごめんね、、、」ナデナデ
は?
完全に中西さんの声で、中西さんの手で撫でられているのが見えるんだが、、、
〇〇「、、、、、、んんっ、、、」
中西「ひゃっ?!」
とりあえず試しに軽い咳払いをしてみる。
聞いたことのない声で驚きの声をあげる中西さん。
中西「あっぶな、、、起きちゃうのかと思った。
そろそろ帰ったほうがいいかな、、、」
まだ意識も混乱してるし、この状況なんて1%も信じられない。
僕の頭から柔らかい手の感触が離れ、中西さん、、、、、らしき人は荷物をまとめている。
中西「よっと、こんなもんかな〜、、、、、後は、、、」
準備がひと段落したらしく、彼女は机の上にドサっと自分のリュックを置いた。
そして彼女の顔が少しずつ僕の方に近づき、、、
中西「、、、、、、大好き」
その4文字だけ、僕の耳元にそっと呟いた。
そして彼女は細かい足音を鳴らしながら教室の扉を開けて出て行った。
数分後。
〇〇「、、、、、、もういないよな」
僕は周りにだれも人がいないことを確認し、ゆっくりと体を起こしていった。
窓の外はすっかり夕暮れ。
もうすぐ沈んでいく夕日の綺麗なオレンジ色が教室の中へ差し込まれていた。
〇〇「あれってマジで中西さんか、、、?」
夕陽を見ながらさっきのことがフラッシュバックしてくる。
彼女の柔らかい手の感触はまだリアルに残っている。
そして低い声で呟いた『大好き』の4文字も。
〇〇「、、、、、、夢、、、かな」
ガララララッ‼︎
〇〇「えっ?!」
井上「うわっ!!なになにっ?!」
僕がまだ考え事をしている時、和が教室の中に勢いよく入ってきた。
部活終わりだったらしく、髪の毛はポニーテールで綺麗に結ばれていた。
井上「なんでまだ教室にいるの?」
〇〇「あー、、、ちょっと寝てた」
井上「いやホームルーム終わってから1時間半は経ってるよ?」
〇〇「え?マジ?!」
井上「まじまじ、ほら」
そう言って和はスマホの画面を見せてくれた、、、マジだ。
〇〇「っていうか和は何しにきたの?」
井上「あっ、忘れ物取りに来たんだった!
課題を机に入れっぱなしにしてて、、、、、」
そう言ってガサゴソと机から課題を取り出してリュックの中へ。
もう和も帰るところか。
〇〇「はぁ、、、、、」
井上「ん?なんか疲れてる?」
〇〇「いやなんか、、、中西さんに頭撫でられる夢見て、、、、、」
井上「、、、、、、大丈夫?」
〇〇「いやそんな変態を見る目すんな。
見ちゃったもんはしょうがないじゃん!」
和に変態扱いをされながら2人で教室を出て昇降口へ。
すると和がスマホを見て連絡が来ていたことに気づいたらしい。
井上「ん?LINE来てる、、、、、あぁ、、、笑」
〇〇「何笑ってんの」
井上「ちょっとね〜笑」
〇〇「ったく、、、こっちはよく分かんない夢見てんのに、、、、、」
井上「あながち夢じゃないかもよ〜」
〇〇「何言ってんだか」
夢か現実か、本当はどっちだったんだろう。
いや、もう分かんないな、、、
中西、井上のトーク画面。
あるの「見てこの寝顔!可愛すぎでしょ!!」
あるの「最後に好きって言っちゃったし、、、」
「はいはい、、、笑」なぎ
「〇〇、不思議がってたよ〜?」なぎ
あるの「明日からはちゃんとしたほうがいいかな?」
あるの「好きな人との接し方が分からなすぎてしんどいんだけど」
「とりあえず愛想良くしたら?」なぎ
「あんな態度取ってたらフラれるよ?」なぎ
あるの「、、、、、、がち?」
「がち」なぎ
あるの「じゃあ明日から頑張る、、、」
「私もサポートするから頑張って!」なぎ
あるの「うん、、、!」
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